25.学院生活
魔導学院に入学して、一カ月が過ぎた。
俺はすっかり魔導学院の生活に慣れてきていた。魔法の理論も実践も、お姉ちゃん基準で考えていたことと、転生物のチートへの憧れのせいで、まったくできていないと思い込んでいたが、幼いころに多少の手ほどきをお姉ちゃんに受けていたおかげで、魔導学院の上位層に食い込むくらいのことはできていた。つまりはまったく授業についていけず落ちこぼれるのではという当初の危惧とは裏腹に、結構いい立ち位置で学院生活を謳歌することができているのだった。あまりチートすぎると何をやっても上達が感じられないだろうし、上位層でありながらもちゃんと努力が結果として実感できる今の立ち位置は、かなり理想的な気がする。
それにしてもお姉ちゃん教えるのもうまいとか能力高すぎでは?などと思うが前の世界では俺も一通り義務教育や受験などを経験しているので、その経験も役に立っていると信じたい。
そしてそのお姉ちゃんであるが、幸いなことにこの一カ月は特に暴れまわったりすることもなく、おとなしく過ごしてくれていた。
最初に絡んできた貴族グループはその後恐れをなしたかちょっかいをかけてくることはなくなり、一方それ以外の生徒とは一部打ち解けてきていた。特にシナライアとは絡む相手が最初の方はほかにいなかったこともあって、だいぶ話すようになってきている。変われば変わるものである。
「ルビルート、そういえば今日は初めての校外実習だねっ」
今日も食堂で朝ごはんを食べながら、一緒になったシナライアと話していた。メニューは干し肉とパンである。質素すぎて俺に食べさせるにはふさわしくないとお姉ちゃんはこの一カ月間毎日怒っていたが、味がなぜかとてもいいので俺はお姉ちゃんに余計なことをしないよう言い含めていた。
「校外実習……昨日先生がそう言ってたけど、シナライアにとっても初めてなの?」
「うん、そうだよっ」
ちなみにシナライアには従者はいない。貴族連中は取り巻きや召使などを従者登録したりしていたが、別に必須ではないのだ。自分のことを自分でできれば、特に必要というわけでもない。シナライアは平民と貴族の間くらいの家の出らしいし、自炊したり家事をしたりもお手の物ということだった。
「そういえば、校外実習は従者がついていかないことになってるけど、お姉さんはいいのかなっ?」
シナライアはお姉ちゃんに視線を向ける。この一カ月でお姉ちゃんとこれくらいの距離感で話せるようになったのはシナライアだけだ。お姉ちゃんには同年代の友達がもっと必要だと思っていたので、この関係は大事だと俺は思っている。多くの人との関わりを通して、俺への偏狂的な執着を少しは弱めてくれたらいいのだが。
「あたしはこっそり見守るつもりだから大丈夫!!」
「でも、もしばれちゃったら後々まで言い伝えられる不名誉を被る上に下手したら退学処分って言うけど。弟君が不名誉な扱いを受けることになっちゃってもいいの?」
それを聞いて、お姉ちゃんがカツン、と固まった。
「――へ?」
「校外実習は完全に実践を想定した内容だから、普段と違って従者のバックアップなしでも戦えるようになってなきゃいけないって、言ってたでしょ?」
「で、でもでも!あたしとるぅくんが離れ離れになることなんて絶対にあるわけないんだから、むしろこれが実践的だって……」
「だったらそう主張すればいいけど、実習怖さにルールを強引に書き換えさせたヘタレってルビルートが噂される可能性はあるね」
「そ、そんな!そんなこと言うやつは根こそぎ痛めつけて……」
「陰口全部見つけ出すなんて、さしものキミでも無理でしょ?」
お姉ちゃんはぐうの音も出ず、黙り込んでしまった。
「る、るぅくん……もしも何かあったら、大声でお姉ちゃんのことを呼ぶんだよぉ?どこにいても駆けつけるからねぇ……!!」
半泣きで俺にそんなことを言うお姉ちゃん。たかが授業の一環に、このお姉ちゃんは何をここまで深刻に考えているんだ――と、その時は、俺はそんな風に考えていたのだった。




