16.使者
そんなこんなであっという間に数日が過ぎ、魔導学院の試問日時を知らせる使者が宿を訪れた。
「アマミレイアさーん、お客さんですよー」
宿の亭主が呼ぶ声に、俺とお姉ちゃんは階段を下りる。そこには、古めかしいマントを体に巻き、上等そうな帽子を被った40代半ばくらいのおっさんが待っていた。
「……君が、アマミレイアさんかね?」
おっさんは、お姉ちゃんを見るとぶっきらぼうに尋ねる。
「ええ、そうだけど……」
「私の名前はモロッハ=ルルギ。魔導学院で事務補佐員を務めているものだ。魔導学院入学希望者アマミレイアさん、明日正午より学院内試問の間にて魔導学院入学試問が行われます。遅刻等は一切認められないので、余裕を持って試問の間に来るように」
いかつい恰好をしたモロッハさんは、宿の入り口で俺たちにそう告げるとそれ以外の話は何もせずに帰って行ってしまった。なかなかお堅いものである。まぁ魔導学院という言葉のイメージ通りといえばイメージ通りかもしれないが。やっぱり入学すると格式とか伝統とかを重視した学院生活みたいな感じになるんだろうか。その割にこっちの服装なんかは何も指定されていないけど。
そんなことを考えながら、俺は隣に立つお姉ちゃんに声をかける。
「いよいよ明日だね、お姉ちゃん。緊張とかしてる?」
「へ?別に?普通にやってたらいいんじゃない?」
きょとんとした顔でお姉ちゃんは言う。やっぱりお姉ちゃんは何の気負いもなかった。しかし次の瞬間、何かに気づいたかのようにポン、と手を叩くと、甘えたような表情で俺に向き直り、腰をくねくねと動かしながら、可愛らしくこんなことを言った。
「あ!でもでもぉ、るぅくんが応援してくれないとぉ、もしかしたら緊張しちゃってドジっちゃうかもぉ♡あ~あ、お父さんとお母さんに期待されながら送り出してもらったのに、もしも失敗しちゃったらどぉしよぉ♡」
絶対そんなことはないだろ、と俺は心の中で思いつつも、可愛いお姉ちゃんのおねだりに応えてあげることにした。
「はいはい、お姉ちゃん。僕はお姉ちゃんが格好良く試問を突破してくれるのを、とても期待しているよ!」
「むっはぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!るぅくん最高おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!お姉ちゃん頑張っちゃうぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」
蒸気機関車もかくや、というくらいお姉ちゃんは鼻から息をしゅぽしゅぽと吐き出しながら、そんな風に盛り上がる。まぁ、万に一つも落ちることはないと思うが、頑張ってもらうことに越したことはない。
そう、この時はまだ、俺は理解していなかったのだ。このお姉ちゃんに俺が発破をかけるということが、どれくらい危険な行為なのかということを……
まさか、魔導学院の入学試問が、あんなことになってしまうなんて――




