12.高級ホテル
お姉ちゃんの規格外の方法で王都に入ることに俺たちは成功した。正規のルートを通っていないことが気になるが、まぁ現代世界ほど出入国をきっちり管理しているわけではなさそうなのでおそらく問題にはならないだろう。となれば、これからは王都での生活基盤を整えなくてはならない。
俺たちは宿を探した。魔導学院に入学してからは寮があるらしいが、それまでは宿に泊まる必要がある。俺は別に安宿でいいと思っていたのだが、我が姉はそうは思っていないようだった。
「るぅくんが泊るところなんだから、王都一の高級ホテルじゃないと!!」
「いやいやいや、別にそうじゃなくてもいいでしょ。だいたい、今まで住んでた家は質素だったじゃん!」
「家は家、宿は宿だよ、るぅくん!」
俺はお姉ちゃんに言った言葉は聞き入れられず、お姉ちゃんは高級宿場街に俺を連れてきた。簡素な服装の俺たちはどう見ても浮いてしまうような場所だ。立ち並ぶ宿たちはどれも立派な構えをしていて、身なりのいい門番が柔らかな笑みを浮かべつつ、不埒な輩は絶対に入れないぞという気概で立っている。
やがてお姉ちゃんはその中でも一番大きそうな宿を見定めると、意気揚々と俺を引っ張って入ろうとした。
「き、君たちちょっと待ちなさい……」
門番はあまりにも堂々とした俺たちに少し戸惑った顔をしながらも、その責務を全うしようとした。問答無用で首根っこを掴もうとしない辺りは、さすがに高級宿の門番である。今回はそれが、彼自身の命を救ったかもしれないが。
「はぁ?なぁに?」
姉がぞっとするような冷たい顔で門番に応じる。その気迫に、門番がたじろいだのが分かった。おそらくは相当の武人なのに――否、相当の武人であるからこそ、姉の危険性を察知したのか。だが、彼は結局、自らの本能よりも常識に従ってしまった。
「この宿は君たちのような格の低い者が来るところじゃない。今なら見逃してあげるからとっとと去りなさい」
――その、言葉に、
「――はぁぁぁぁぁ?」
さっきまでよりも、さらに遥かに冷たい眼をした姉が答えた。
「至高にて崇高にて絶対の存在であるるぅくんが泊まれない宿は、宿の格が低い場合だけに決まっているでしょぉ?あなた、いったい何を言っているのかなぁ?」
一歩、門番との距離を詰める。
それだけで、周囲の温度が一度下がったような気がした。門番も、顔が若干蒼くなっているものの、自らの常識に従って気丈に振舞う。
「な、なんだねその態度は!人がせっかく穏便に済まそうとしているというのに!それ以上逆らうなら、いくら子供と言っても容赦はしないぞ!!」
「――やってみなさいよ、雑魚」
「――くっ!!」
お姉ちゃんが圧力をかける。その瞬間、門番は腰に差していた短剣をお姉ちゃんに向かって投げた。牽制の意図があったのだろう、お姉ちゃんの頭上随分遠くをめがけているが、それでも子供相手に短剣を投げてしまったことに、門番は自分でも驚いたような顔をしていた。
そして――その驚愕が深まるのに、さして時間はかからなかった。
カ キ ン
何が起こったのか、いきなり短剣は地面に落ちていた。
「――え?」
「次はあたしの番かしら」
あっけにとられる門番の前で、姉が指を振ると、短剣はそれだけでひとりでに浮き上がる。そのままぴんと軽く指を弾いただけで、短剣は門番の頭上を猛スピードで通過していった。
ばあああああああああああああああああああああぁぁんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!
どかああああああああああああああああんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!
短剣は勢いを全く殺されず、さながらミサイルのようにそのまま宿の外壁に激突する。巨大な音と煙が上がった。
「ば、馬鹿な……」
あんぐりと口を開けてそれを見る門番に、姉は冷たく告げる。
「二度とは言わない。るぅくんに最高の部屋を用意しなさ――」
俺はそのお姉ちゃんの手を引くと、思いっきり引っ張った。
「ちょ、るぅくん!?何!?」
「なんで宿探しで無駄にトラブル起こすのさおねえちゃあああああああああんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!!」




