第七話:吊り橋効果と、過剰なピタゴラスイッチ
伊達武蔵との激闘(?)を終え、俺と救井は静まり返った3階の廊下へと足を踏み入れていた。
ピコッ……ピコッ……
「あ、南出くん。ナノマシンの治療、やっと終わったみたい」
「おお、ほんまや! ピコピコ音が消えた!」
静寂が戻った廊下で、俺は安堵の息を吐いた。
「……あのさ、南出くん」
ふいに、救井が足を止めて俺のジャージの裾をキュッと掴んできた。
「ん? どうしたん、救井」
振り向くと、救井は少し上目遣いで、心配そうに俺の顔を見つめていた。
「さっきは……私を庇ってくれて、ありがとうね。南出くんがいてくれて、すごく安心する……」
ほんのり頬を赤らめて微笑む救井。 いつもは気付きにくいが、間近で見るとやっぱりめちゃくちゃ可愛い。
要所要所で俺を助けてくれた、まさにクラスの天使だ。
(……や、ヤバい。めちゃくちゃドキドキしてきた……!)
これが噂に聞く『吊り橋効果』というヤツか!? 死と隣り合わせの極限状態で、恐怖によるドキドキを恋だと勘違いしてしまうアレか!?
「あ、いや……俺こそ、救井が絆創膏貼ってくれへんかったら腕死んでたし……」
「南出くん……」
見つめ合う二人。 夕暮れ時の校舎、誰もいない廊下。 ほんの少しだけ二人の距離が縮まった――その時だった。
「フハハハハ! 動くなぁっ!!」
廊下の奥から、響き渡る高笑い。
ドサクサに紛れていい雰囲気になりかけていた空気が、一瞬でブチ壊された。
「雰囲気を台無しにするなや誰だバカ野郎!!!!」
俺がブチギレて怒鳴り散らすと、3階の音楽室の前から一人の男子生徒が踊り出てきた。
工作部所属のトリップオタク・設楽だった。
設楽はメガネをキラリと光らせ、不敵な笑みを浮かべて両腕を広げた。
「無駄だ南出! この3階廊下はすでに、俺の『超・大型ピタゴラ殺戮ゾーン』と化しているのだからな!」
見ると、3階の廊下には気が遠くなるような謎の仕掛けが張り巡らされていた。
天井から吊るされた大量の黒板消し。 廊下にぎっしり並べられた理科室のビーカーとドミノ。 壁に沿って設置された竹製のアスレチックコースと、その上を転がるバスケットボール。
「な、なんやこの無駄に大掛かりな仕掛けは……!?」
「フフフ……俺の支給品は『SF・全自動罠構築キット』! 糸一本に触れた瞬間、連鎖的にピタゴラスイッチが作動し、最終的にお前たちの頭上に『理科室の骨格標本』が音速で降ってくるのだ!」
「なんで最後が骨格標本やねん!! 地味に嫌だわ!」
「さあ南出! 恐怖に慄くがいい!」
設楽は高らかに宣言し、ポーズを決めようと一歩前に踏み出した。
ツンッ。
「あ」
設楽の足先が、自分で設置した足元の透明な糸を引っ掛けた。
カチャ……。
静かな音が響き、廊下に沈黙が訪れる。
「……あ、設楽くん? 今、自分で糸踏まなかった?」 救井が恐る恐る尋ねる。
「……し、しまったぁぁぁぁぁっ!?」
設楽が青ざめた瞬間、壮大なピタゴラスイッチが高速で作動し始めた!
コロコロコロ……(バスケットボールが坂を転がる) パタパタパタ……(ドミノが倒れる) チーン!(音楽室のハンドベルが鳴る) バコン!(水を入れたバケツがひっくり返る)
「うわあああ! 止まれ! 止まってくれぇぇぇ!」
焦った設楽が慌てて仕掛けを止めようと飛び付いた瞬間――
ピタゴラスイッチの最終ポイントに置かれていた『理科室の骨格標本(金属台座付き)』が、バネの力で勢いよくアッパーカットのように跳ね上がった!
ガコォォォォンッ!!!!
「ぐはぁっ!?」
骨格標本の見事なアッパーカットを顎にクリーンヒットされた設楽は、そのまま豪快に白目を剥いて3階の窓枠を突き破り、校庭へと吹き飛んでいった。
「うわあああぁぁぁ……っ(自爆)」
チュドォォォォン!!
校庭の砂場でまばゆい紫色の光線が炸裂し、設楽の反応が消滅した
(※校長室で「おや、罠の人? せんべい食べる?」と出迎えてもらっていた)。
「……」
「……」
崩れ去ったドミノと骨格標本だけが残された廊下で、俺と救井は開いた口が塞がらなかった。
「……何しに出てきたんやあいつ……」
「ふふっ……設楽くんらしくて、ちょっと面白かったね」
救井がくすくすと可愛らしく笑う。
その笑顔を見て、俺の心臓がまたドキンと大きく跳ね上がった。
(あかん……やっぱり救井のこと、意識してまう……!)
「あ、あのさ……救井。このバカバカしいデスゲームが終わったら、さ……」
「え? なにい?」
首をかしげる救井に、俺が意を決して言葉を続けようとした――まさにその時!
ガラガラガラッ!!
「おい南出ぇぇぇ! 助けてくれぇぇぇ!」
隣の教室から、新たなクラスメイトが爆走して飛び出してきたのだった。




