第五話:校舎のハザードと、健康体すぎる剣豪
ピコッ……ピコッ……ピコッ……
「なぁ救井……ほんまにこの音、あと5分も鳴り続けるんか?」
「うん。ナノマシンがいま『サビ』に入ってるから、一番盛り上がってるところだよ」
「演出に力入れんでええねん!」
俺と救井は、息を切らしながら2階の校舎廊下を駆け抜けていた。
校舎内は不気味なほど静まり返っていた。
窓から校庭を見下ろすと、支給品が『電子レンジ』だった奴と『全自動掃除ロボット』に足を引っ張られた奴が、校庭の真ん中で意味の分からない小ぜり合いを繰り広げている。
あいつら、絶対デスゲームの意味分かってないだろ……。
俺が呆れ果てた、その時――
ガラガラッ!
目の前の2年A組の教室のドアが、猛烈な勢いで開いた。
「ヒヒヒ……かかったな、南出ぇ!」
現れたのは、科学部のマッドサイエンティスト気取り・内田だった。
内田の手には、怪しげなノズルがついたタンク型のガジェットが握られている。
「俺の支給品は『SF・瞬間超強力接着ガン』だ! これを食らえば、床に貼り付いて二度と動けなくなるぞ!」
「うわっ、科学部のガチ兵器か!?」
内田はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、俺たちに向かってノズルを構えた。
「死ねぇっ!」
シュポッ……!!
ノズルから放たれたのは、ピンク色のドロドロした液体――ではなく。
内田の手に握られていたグリップ部分から、逆噴射で大量の接着剤が噴出した。
「ぬわあああ! 手が! グリップと手がガチガチに接着されて取れねぇぇぇ!?」
「自爆用かよ!!」
「しかもノズルの角度が自分に向いて――あ、あともうすぐ足元にも落ち――」
べっちゃり。
内田は自分の足と床、そして両手が完全に接着され、教室の入口で『見事な人体オブジェ』として固定されてしまった。
「た、助けて……! 動けない! 誰か除光液持ってきて……!」
「自業自得じゃ!!」
俺と救井が呆れて通り過ぎようとした、その時。
ドスン……ドスン……ドスン……
階段の方から、凄まじい重圧を伴う足音が近づいてきた。
「ふぅ……清々しい気分だ」
階段の踊り場から姿を現したのは――伊達 武蔵だった。
額にはまだ救井の『SF・超強力湿布シート』がピシッと貼られたままだ。
だが、その表情は先ほどまでに輪をかけて晴れやかで、全身から満ち溢れるようなオーラが漂っている。
「な、なんだあのツヤツヤした顔は……!?」
俺は思わず引きつった声をあげた。
「南出よ、感謝するぞ」
伊達が静かに日本刀を構え、深々と息を吐いた。
「救井殿の湿布のおかげで長年の肩こりが嘘のように消え、貴様のハリセンの打突により慢性的な頭痛が完治した……。今の俺は、生まれてから最もコンディションが良い!!」
「健康になって追ってくるなや!!!!」
「我が剣技、一切の迷いなし……! 覚悟っ!!」
超絶健康体となった剣豪・伊達武蔵が、凄まじい踏み込みで廊下を爆走して迫ってくる!
「救井、逃げるぞぉぉぉ!」
「うんっ! でも内田くんが邪魔で通れないよー!」
目の前には手足を自縛接着した内田オブジェ。 後ろからはコンディション最高潮の伊達武蔵。
八方塞がりの廊下で、南出也年の運命やいかに――!?




