第四話:保健室の攻防と、ダンシング・シグナル
ピコッ……ピコッ……ピコッ……
静まり返った保健室に、俺の腕から発せられるポップな効果音が空しく響き渡る。
「南出……どこだ。貴様の……『謎のピコピコ音』で居場所は割れているぞ」
保健室の重い扉の向こうから、伊達 武蔵の低く冷徹な声が聞こえてくる。
「救井! この音、どうにかならんのか!?」
俺は必死に声を潜めながら、腕の絆創膏を押さえた。
「無理だよぉ! ナノマシンがノリノリでダンシング治療中なんだもん! 無理に剥がしたら、また傷口が開いちゃう!」
「どんなノリノリの医療用ナノマシンやねん!!」
バギィィィッ!!
次の瞬間、保健室の扉が凄まじい斬撃によって一刀両断された。
舞い散る木の木屑と煙の中から、日本刀を構えた伊達武蔵が悠然と姿を現す。
「見つけたぞ、南出……」
伊達は鋭い眼光で俺の右腕を睨みつけた。
「その腕から響く怪しげな音……。まさか、自らの脈動を高め、秘術の威力を極限まで高める『脈動の陣』か……!」
「ただのナノマシンのダンス音じゃ!! 深読みすな!!」
「フッ、誤魔化さずともよい。全身から溢れ出るその殺気、確かに受け取った!」
伊達がすっと上段に刀を構える。
ガチすぎる。一ミリも会話が噛み合っていないのに、間合いだけは完璧に詰められている!
「南出くん、危ない!」
その時、救井が救急箱の中から何かを取り出し、伊達に向かって思い切り投げつけた。
「食らいなさい! 『SF・超強力湿布シート』!」
ペタァンッ!
伊達の眉間に、真っ青な湿布シートがジャストミートで貼り付いた。
「ぬぐっ!? こ、これは……っ! 全身の血流が一気に冷やされ、思考が研ぎ澄まされていく……!? 凄まじい鎮痛・清涼効果だ……!」
「効果を素直に実感すな! 攻撃になってへんわ!」
「すごい、伊達くんの肩こりが治っていくよ!」と救井が目を輝かせる。
「癒やしてどうすんねん!!」
だが、湿布の清涼感(メントール成分)が目に沁みたのか、伊達が一瞬だけ「うぐっ」と視界を奪われて体勢を崩した。
「今だ、南出くん! 逃げて!」
「よし、一発かましたる! 5%出ろぉぉぉ!!」
俺はイチかバチか、確率変動型ハリセンを伊達の頭上めがけて振り下ろした!
バシィィィッ!!
校庭から保健室へと、虚しい紙の音がこだました。
……95%のハズレだ。
「……む?」
湿布で目をしばたかせていた伊達が、頭の上にポンと乗ったハリセンに首をかしげる。
「な、何だ……? 頭部に軽微な衝撃……いや、これは頭のツボを正確に突く『経絡の刺激』か……! 朝からの頭痛が嘘のように引いていく……!」
「どんだけ健康になっていくねんお前!! 保健室だけに!!」
その時だった。
「うわあああ! 誰か助けてくれぇぇぇ!」
廊下の向こうから、ガラガラと猛スピードで走ってくる音が聞こえた。
見ると、第一話で支給品が『全自動掃除ロボット』だった男子生徒が、暴走したロボットに足を引っ張られながら廊下を爆走してきていた。
「止まらねぇぇぇ! センサーがバグって人間をゴミと認識して吸引してくるぅぅぅ!」
「ウィィィィン!!」と爆音をあげる全自動掃除ロボットが、保健室のドアの破片を巻き込みながら、伊達武蔵の足元へとダイブ!
「ぬわーっ!?」
完璧な隙を誇っていた剣豪・伊達武蔵が、足元を掃除ロボットに勢いよくすくわれ、豪快にすてーんとひっくり返った。
「ぐはっ!? 刺客……だと……!?」
「今度こそチャンスだ! 救井、走れぇぇ!」
「うんっ!」
俺と救井は倒れた伊達と暴走ロボットを飛び越え、保健室を脱出した。
腕からは相変わらずピコッ……ピコッ……と脳天気な効果音が鳴り響いているが、今はとにかく生き残るのが先決だ。
「覚えていろ南出……! 次に会う時は、さらに健康になった俺が相手だ……!」
背後から聞こえる伊達の謎の捨て台詞を聞き流しながら、俺たちは校舎の階段を駆け上がっていくのだった。




