第三話:保健室の天使と、謎の救急箱
「死ぬ死ぬ死ぬ!! ガチで斬られるぅぅぅ!!」
俺は叫びながら、全力で校庭をダッシュしていた。
背後からは、校庭の地面を爆音とともに踏みしめる足音が迫ってくる。
「待て、南出! 貴様のその秘術……見極めさせてもらう!」
真剣な眼差しで日本刀を構えた伊達 武蔵が、恐ろしい速度で追いかけてくる。
完全に作品のジャンルを間違えている男だ。
シャキンッ!
「あだっ!?」
すれ違いざまに鋭い閃光が走り、俺のジャージの袖が切り裂かれた。 腕に薄皮一枚の浅い切り傷が走り、血がにじむ。
「クソッ! 5%! 5%出ろぉぉぉ!」
俺は振り向きざまにハリセンを振り回す!
バシィッ!
「ぬぐっ……! またしても衝撃を受け流す『打突の極意』……! やはり只者ではないな!」
「かすっただけだわ! 頼むから追ってくんな!」
俺は腕の痛みを耐えながら、校舎の非常口へと飛び込んだ。
「ハァ……ハァ……っ! 死ぬかと思った……!」
校舎の廊下に滑り込み、重い鉄の扉を閉めて鍵をかける。
外からは「フッ、校舎内へ誘い込む気か……乗ってやろう」という伊達の勘違いした声が聞こえるが、今はとにかく逃げなきゃヤバい。
腕の傷が地味にヒリヒリと痛む。
「あいつマジで刀振っとるからな……どこか隠れられる場所は――」
その時、廊下の奥にある保健室のドアが、すーっと静かに開いた。
「……あ、南出くん?」
ひょっこり顔を出したのは、クラスの癒やし系女子・救井 祈だった。
「救井!? お前、なんでこんなところに……」
「シーッ! こっち来て!」
救井は俺の手を引くと、素早く保健室の中へと招き入れ、カチャンと鍵をかけた。
「大丈夫? 腕、血が出てるよ……」
保健室のベッドに座らされた俺の腕を見て、救井が心配そうに眉をひそめる。
「ああ、伊達のヤツにちょっとかすられてな。……ってか救井、お前の支給武器は何だったんだ?」
「あ、これだよ」
救井がパイプ椅子の上に置かれた真っ白な救急箱を指さした。
見ると、救急箱のフタにはデジタル画面でこう表示されている。
『SF・超全自動ナノマシン救急箱』
・【基本性能】:傷口に絆創膏を貼ると、ナノマシンが作動して一瞬で完治する。 ・【副作用】:治療された部位から『ピコピコ』とコミカルな効果音が鳴り響く。
「回復アイテム!? このデスゲームで一番まともでありがたいやつじゃん!」
「うん! じゃあ絆創膏、貼るね」
救井は丁寧に消毒をしてから、俺の腕の切り傷に絆創膏をペタリと貼ってくれた。
その瞬間――
ポロロン♪ (※某ファミコンゲームの全回復音)
「痛みが消えた!? 傷口も塞がってる!」
「よかったぁ……!」
救井がほっとしたように胸をなでおろす。
……が。
ピコッ……ピコッ……ピコッ……
俺の治ったばかりの腕から、マリオのジャンプ音みたいな電子音が一定のリズムで鳴り響き始めた。
「……なぁ救井、この音何?」
「あ、ナノマシンが体内でダンシング治療中なんだって。10分くらい鳴り続けるみたい」
「居場所が丸分かりになるやつやないか!!!」
ドスン……ドスン……
その時、保健室のドアの外から、重い足音が近づいてきた。
「南出……どこだ。貴様の呼吸音、そして……『謎のピコピコ音』で居場所は割れているぞ」
「効果音のせいでソッコー見つかったわ!!!」
俺と救井は顔を見合わせ、静かに絶叫したのだった。




