第二話:奇跡の5%と、ガチの剣豪
「やめろぉぉぉ! 『なんでやねん』!!!」
俺は半狂乱になりながら、手にしたハリセンをバズーカ男子の頭めがけて思い切り振り下ろした。
ただの紙くずか、それとも100倍の超・衝撃波か。
確率は――5%!!
ズドォォォォォォン!!!!
「ぐはぁっ!?」
校庭に地鳴りのような重低音が響き渡り、空気が激しく歪んだ。
まさかの5%の大アタリ(クリティカル)を引き当ててしまったらしい。
ハリセンから放たれた目に見えるレベルの衝撃波がバズーカ男子を直撃し、彼はそのまま音速で後方へ吹っ飛んでいった。
「うわあああぁぁぁ……っ!?」
バズーカ男子はそのまま校庭のフェンスを軽々と越え、即死ゾーンの紫色の光線に包まれて消滅した。
……いや、正確には校長室のふかふかソファへダイレクトに着地し、 「お、二人目? お茶淹れ直すね〜」 と校長先生に温かい日本茶を注がれていたのだが、当然俺が知る由もない。
「……て、手が……痺れる……っ!」
俺はビリビリと震える右手を押さえて膝をついた。
おかしいだろ。なんでハリセン叩いて腕に反動がきてんねん。
95%はただの紙くず。 残り5%は腕が持っていかれるほどの兵器。
あまりにも危険すぎるだろ、このハリセン!
その時、校庭のあちこちで新たな悲鳴と爆発音が上がり始めた。
「助けてくれー! 支給品が『電子レンジ』だったんだよー!」
「なんでそれを武器として持って走ってんだよ! 重いだろ!」
「俺の支給品は『全自動掃除ロボット』だ! 食らえ!」
「ウィーンとか言いながら足元を掃除し始めたぞ! 全然痛くない!」
「ギャハハ! 俺のは『強力な磁石』だぜー! って、うわああ!? 鉄のへリコプターに吸い付けられるぅぅぅ!」
カオスだ。完全なる地獄絵図だ。
誰も殺し合いなんてできていない。 全員がハズレ武器の扱いに困り、自爆するかドジを踏んで勝手に校庭の外へと転送されていく。
「アホしかおらんのかこのクラスは……!」
俺が頭を抱えた、その時だった。
すっ……
突然、校庭の空気が氷のように冷え切った。
騒いでいたクラスメイトたちがピタリと動きを止め、恐怖に目を見張る。
校舎の陰からゆっくりと歩いてきたのは――一人の男子生徒だった。
学校指定のジャージを完璧に着こなし、背筋をピンと伸ばした男。
剣道部主将・伊達 武蔵だ。
その手に握られていたのは、メモの指定場所(武道場)で獲得したであろう、本物の日本刀だった。
「命のやり取りに、戯れ言は不要……」
伊達は一切の揺らぎがない、ガチすぎる冷酷な眼差しで校庭を見渡していた。
「ひ、ひぇぇぇ! 伊達武蔵だ! あいつマジの刀持ってるぞ!」
「逃げろー! あいつだけ作品のジャンルが違うー!」
散り散りになって逃げ惑うクラスメイトたち。
伊達は刀を鞘に収めたまま、静かな足取りでこちらへ向かって歩いてきた。
そして、俺の足元に残された衝撃波のクレーターと、俺の手にある紙製のハリセンを交互に視線で往復させる。
「……ほう」
伊達が低く重い声を漏らした。
「ただの紙の扇で、これほどの衝撃波を放つとは……。南出、お前……『秘術』の使い手か」
「ちゃうわ! ただの5%の確率変動や!!」
「フッ……謙遜を。そのハリセン、実に恐ろしい気配を纏っている」
伊達は真剣な表情で深々と頷くと、ハッと息を呑むような美しさで日本刀の柄に手をかけた。
「我が名は伊達武蔵。この狂った戦場において、お前だけは……見逃すわけにはいかんようだな」
「待て! 話を聞け! 俺はただのツッコミ担当だ!!」
「行くぞ……南出ぇっ!」
シャキィィィン!!
静寂を切り裂き、伊達が凄まじい抜刀術を繰り出した!
「うわああああっ!?」
俺は半狂乱でハリセンを振り上げた。
(頼む! もう一度5%出てくれぇぇぇ!!)
バシィィィッ!!
校庭に、ただの虚しい紙の音が響き渡った。
……出なかった。95%のハズレだ。
「……ぬ?」
鋭い斬撃を繰り出した伊達の真剣に対し、俺のハリセンは「バシィッ」と優しく刀身を叩いただけ。
当然、ダメージはゼロ。
お互いに完全な静止状態に入る。
「……何だ、今の技は?」
伊達が真顔で冷汗を流し始めた。
「刀を斬るのではなく、敢えて衝撃を殺して当てる……『打突の極意』か。もしや、俺の攻撃の威力をそのまま受け流したというのか……!?」
「考えすぎや!! 単にハズレ引いただけだわ!!」
その時だった。
「助けてくれぇぇぇ!」
校庭の反対側から、悲鳴が響き渡った。
見ると、さっき「強力な磁石」を支給された男子生徒が、金属でできたデカい攻撃ヘリコプターに全身ピタッと吸い付けられて身動きが取れなくなっていた。
「うわあ! 離れねえ! 誰か助け――」
そこへ、ピコピコハンマーを持った女子生徒が脱落させようと全速力で走ってきて、磁石に吸い寄せられた金属バケツに足を引っかけた。
すてーん! と盛大に転んだ拍子に、彼女が投げてしまったピコピコハンマーが、ヘリの非常用脱出ボタン(※なぜか外側についていた)をジャストミートで直撃。
ドゴォォォン!!
ヘリのプロペラが謎の全自動モードで爆音を立てて回転し始め、強烈な竜巻が発生!
周囲にいたクラスメイト3名が「うわあああ!?」と巻き込まれ、そのまままとめて校庭の外側へと吹き飛ばされていった。
チュドチュドチュドチュドォン!!
一瞬で3名の反応が消滅(※全員、校長室で「あ、いらっしゃーい。煎餅食べる?」と出迎えられていた)。
「……」
「……」
あまりの惨状に、俺と伊達武蔵は同時に遠くを見つめた。
「南出よ……」
伊達が刀を収め、ポツリと呟いた。
「あの者たちは、一体何と戦っているのだ……?」
「俺が聞きたいわ!!!!」
生き残りは早くも残り約30名。
混沌を極める校庭で、南出也年の命がけのツッコミはまだまだ続くのだった――。




