第一話:シリアスとギャグの境界線
「これより、クラス35名によるバトル・ロワイアルを開始する」
黒板の上のスピーカーから、間の抜けた校内放送が響いた瞬間。 俺たちの平和な日常は、唐突に終わりを告げた。
……いや、なんでやねん!
俺の名前は南出 也年。
初対面の人間と挨拶を交わすたび、 「南出也年です」 「なんでやねん!」 と、一人ノリツッコミを完成させなければいけない呪われた名前を持つ高校2年生だ。
セミの鳴き声がやかましい8月の真ん中。 エアコンの効きが悪い教室で、俺たち2年B組の35人はダラダラと汗を流していた。
『あー、マイクのテスト、マイクのテスト。クラスのみなさん、こんにちは。担任の坂本です』
スピーカーの向こうで、いつもしなびた蒟蒻みたいな顔をしている担任の声が続く。
『急に集まってもらってすまないね。……実はね、みんなに殺し合いをしてもらうことになりました。理由は、僕が休み時間にアニメやゲームの話にスッと入ろうとすると、みんな急に黙ってスマホを見始めるからだよ。地味に心が折れるんだよね』
「理由がしょぼすぎるわ!!!」
俺は速攻で席を立って大声を張り上げた。
だが、周りのクラスメイトたちの反応は様々だった。
「ひえぇぇ! 殺されるー!」と泣き叫ぶ者。
「フッ、ついに俺の右腕の封印を解く時が来たか……」と謎のポーズを決める重度の厨二病。
「待って、制限時間と禁止エリアの周期は!?」と無駄に冷静に分析し始めるデスゲームオタク。
混沌だ。 クラス全体が、一瞬で収拾のつかないカオスに叩き落とされている。
『なお、ルールは簡単。校庭から一歩でも出たら即死。……嘘だと思うかい?』
その時だった。
クラス一番のイキり男子・吉村が「ハッ! バカバカしい!」と窓から校庭へ飛び降りた。
「こんな学校の仕掛けなんてな! ほら見ろ、フェンスの上に立ってやるよ! ここなら校庭の内側とも外側とも――あっ」
調子に乗ってフェンスの上で煽りダンスを踊っていた吉村は、足元の苔で盛大に足を滑らせた。
そのまま校庭の外側へと、すてーんと落下――した瞬間。
チュドォォォォン!!
まばゆい紫色の光線が吉村を包み込み、彼は悲鳴をあげる暇もなく、一瞬で跡形もなく消滅した。
「「「ぎゃあああああーっ!!! 吉村が消えたぁぁぁぁっ!?」」」
(※ちなみにこの時、吉村は校長室のふかふかソファの上に転送され、「あれ? お茶飲む?」と校長先生に煎餅を差し出されていたのだが、当然校庭の俺たちが知る由もない)
『さあ、恐怖が理解できたかな?』
坂本先生の声が冷酷に響く。
『君たちの机の中にメモが入っている。そこに“支給武器”の場所が書いてある。全員、校庭へ走れ! ストーリーの開幕だ!』
「うわあああ!」
パニックになった生徒たちが一斉に教室を飛び出していく。 俺も慌てて自分の机の中に手を突っ込み、メモを引っ張り出した。
『飼育小屋の裏:特製武器』
「特製武器……! アサルトライフルか、せめてガンツのスーツみたいなやつであってくれ!」
俺は必死の思いで校庭へダッシュした。
校庭のあちこちでは、すでにメモの場所へ辿り着いたクラスメイトたちが悲喜交々の声をあげている。
「よっしゃあ! 最強の兵器ゲットだぜ!」
男子生徒の木村が叫んだ先には――なんと、校庭の砂場の中央に鎮座する、全長15メートルの本格派・軍用大型攻撃ヘリコプターがあった。
「す、げえぇぇぇ! 本物の戦闘ヘリだ!!」
「木村すげえ! それがあれば全員倒せるぞ!」
クラス中がどよめいた。 ……が、木村はヘリの周りをウロウロしながら、青ざめた顔で頭を抱え始めた。
「……あ、あのさ。これ、どうやってエンジンかけるの? 鍵穴どこ? っていうか俺、ラジコンすら操縦したことないんだけど……」
壊れてはいない。紛れもない本物だ。 だが、操縦できる人間がクラスに一人もいないため、ただのクソデカい鉄の置物と化していた。
木村は巨大なヘリの影で体育座りをして泣き始めた。
「ダメだこのクラス……ツッコミが追いつかん!」
俺は頭を抱えながら、ようやく飼育小屋の裏へ辿り着いた。
木箱の上にぽつんと置かれていたのは――一見するとただの『紙製のハリセン』だった。
「なんでハリセンやねん!!!」
セルフツッコミが校庭に虚しくこだまする。 だが、ハリセンの柄の部分には、怪しげな液晶画面と説明文が貼られていた。
『SF・確率変動型ピコピコハリセン』
・【基本性能】:
95%の確率で「バシィッ!」と虚しい紙音が鳴るだけ。ダメージ0。
・【特殊効果】:
5%の確率で確率変動が発動。威力100倍の超・衝撃波を放つ。
「5%ってソシャゲのガチャかよ!!」
95%はただの紙くず、5%で大爆発。 命がけの状況で渡されたのは、あまりにも不確定要素すぎるギャンブル兵器だった。
その時、背後の草むらがガサリと揺れた。
現れたのは、学校指定のジャージを着込み、両手にゴツいバズーカ砲を構えたクラスメイトだった。
「ヒヒヒ……見つけたぞ、南出ぇ! 死ねぇっ!」
「やめろぉぉぉ! 『なんでやねん』!!!」
笑っている場合じゃない。けれど、ツッコまずにはいられない。
俺は半狂乱になりながら、手にしたハリセンを相手の頭めがけて思い切り振り下ろした――!




