第十一話:密室のゼロ距離と、キュアハート
4階の爆破と薬品の猛臭から逃れるため、俺と救井は廊下の隅にある狭い用務員室へと滑り込み、カチャンと扉の鍵を閉めた。
「ハァ……ハァ……! なんとか逃げ切れたな……」
暗く狭い室内。 掃除用具のバケツやモップが乱雑に置かれた空間で、俺たちは肩を寄せ合うようにして身を潜めた。
というより――狭すぎる。
「きゃっ……」
バランスを崩した救井の体が、俺の胸元にすっぽりと収まる格好になった。
「あ、ご、ごめんね南出くん……! 狭くて……」
「い、いや! 全然大丈夫やから! お前が無事ならそれで……っ!」
見上げれば、息がかかるほどの超至近距離に救井の顔がある。 暗がりの中で、彼女の大きな瞳がうるうると揺れていた。
ドックン! ドックン! ドックン!
俺の心臓が、まるでドラムの連打のように猛烈な音を立てて暴れ出す。
(ヤバいヤバいヤバい! 距離が近すぎる!! 救井のいい匂いが直接脳に届いて頭がおかしくなりそうだ!!)
「……ねえ、南出くん」
救井が少し首をかしげ、不思議そうに俺の胸元に耳を当ててきた。
「南出くんの心臓、すごく速いよ……? ドクドク言ってる。もしかして、どこか怪我して痛いの……?」
「ち、違う! これは痛いんじゃなくて、その……心理的なアレで……!」
「ダメだよ、隠さなくても! 私が治療してあげるね」
救井はニッコリと天使のような笑みを浮かべると、あの白い救急箱からピンク色のハート型の絆創膏を取り出した。
『SF・メンタルケア絆創膏』
・【基本性能】:
動悸や不安を感じている部位に貼ると、メンタルを一瞬で平静に戻す。
・【副作用】:
効果発動中、胸から「キュピピピ~ン♪(萌え系アニメの変身音)」が流れる。
「はい、ペタッ」
「待っ――」
俺の制止も虚しく、救井の手によって俺の左胸にピンクのハート絆創膏が貼られた。
その瞬間――
キュピピピ〜ン♪(※CV:豪華声優陣による萌え萌え効果音)
「「……」」
静まり返った用務員室に、魔法少女アニメの変身シーンのようなキュートすぎる効果音が大音量で鳴り響いた。
「……な、なにこの音……?」 救井が目をパチクリさせる。
「俺が一番聞きたいわ!!! なんで胸から魔法少女の音が鳴っとんねん!」
恥ずかしさで顔が爆発しそうだ。 だが、ナノマシンの効果なのか、確かにバクバク言っていた心臓の鼓動がスッと穏やかになっていく。
「……あ、でも、ドキドキがおさまったみたいでよかった」
救井がふっと柔らかく微笑み、俺の胸にそっと手を重ねてきた。
「私ね……南出くんと一緒だと、すごく安心するんだ。もしこのデスゲームが終わったら……また二人で、アイスでも食べに行けたらいいな」
「救井……」
まっすぐな瞳で見つめられ、俺の心臓はメンタルケア絆創膏の制圧力を軽々と突き破り、再び限界突破のスピードで打ち鳴らされた。
(絆創膏効いてねぇぇぇ!! 萌え効果音が鳴ってる分、さっきより恥ずかしいわ!!)
「……おう。行こう。アイスでも何でも、俺がいくらでも奢ったる」
「ふふっ、約束だよ?」
重なる視線。吐息が触れ合いそうなほどの距離。 静かな密室で、二人の唇がゆっくりと近づいて――
バガァァァァンッ!!
「ハハハハハ! 恋の花咲く用務員室に、放送事故のお届けだぁぁぁ!」
用務員室の扉が外側から盛大に叩き破られた。
現れたのは、首から巨大な拡声器をぶら下げた校内放送部の男子生徒だった。
「良い雰囲気を台無しにするなやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の本日一番の絶叫が、萌え効果音「キュピピピ〜ン♪」とともに響き渡るのだった。




