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第7話「社長、唯一の趣味を失った」

登場人物

社員 黒田 翔

愛人 白川 玲奈

部長

社員B



その話を最初に聞いたのは、

朝礼が終わった直後だった。

「……昨日、社長と白川さん、

相当やり合ったらしいですよ」

そう言ってきたのは部長だった。


なぜか業務連絡みたいなテンションで。


話によると——

社長・黒田翔の“唯一の趣味”が、

仕事でも、家庭でもなく、

ついに白川さんにバレたらしい。


その趣味というのが、

会社のパソコンから自宅を遠隔操作し、

大人向け動画を集めていたらしい。


本人曰く、

「成人向け魔法少女パロディ」

らしい。


どうしてそんな回りくどいことをしているのかは、

誰も聞かなかったし、

誰も知りたくなかった。


問題は、

その“聖域”に、白川さんが踏み込んでしまったことだった。


昨日、社長は東京出張から戻ってきた。

その夜、二人は大喧嘩。


白川さんは言ったらしい。

「全部、消してください」

「そのハードディスク、今すぐ」


社長は抵抗したらしい。

人生で初めて、本気で。

でも結論は決まっていた。

消去。完全消去。バックアップなし。


——部長はそこまで語って、

何事もなかったように言った。

「以上です」


なぜそれを、

なぜ我々に共有したのかは、

最後まで分からなかった。


だから今朝、

社内の空気がおかしかった理由にも、全員が納得した。


社長は終始無言。

白川さんは誰とも目を合わせない。


二人とも、分かりやすく機嫌が悪い。


いつもなら、

白川さんが社長の予定を確認し、

車を手配し、

送迎まで完璧にこなすのに。


今日は違った。


16時ちょうど。


社長は立ち上がり、

小さく「お疲れ様です」と言って、

一人で帰っていった。


……あれ?


今日、白川さんは付いていかない。


いつもなら、

目的地まで社長を送り届ける係なのに。


社長の背中は、

やけに小さく見えた。


たぶん今頃、

家に帰って、

何も入っていないハードディスクを前に、

静かに座っているのだろう。


社内の誰かが、ぽつりと言った。

「……人って、

 趣味を奪われると、

 あんな顔になるんですね」

誰も否定しなかった。

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