第6話「元カノの、挨拶」
登場人物
社長 黒田 翔
愛人 白川 玲奈
元カノ 仲道さん
部長
社員A
社員B
「こんにちは。仲道と申します。
御社の社長とは――大学時代、長い付き合いでして」
落ち着いた声音。
上品な笑み。
そして、名刺に印字された、見覚えのある名字。
――大学の同級生。
その言葉を聞いた瞬間、
私は反射的に白川さんへ視線を送っていた。
(これは……なんだか、やばいぞ。
白川さんが対応したほうがよさそうだ)
白川さんは一瞬だけ私の視線を受け止め、
すぐに完璧な営業スマイルに切り替える。
ほんの一瞬だけ、
指先が名刺入れの縁を強く押した。
「申し訳ありません。
社長は現在、WEB面接中でございます」
「そうですか」
仲道さんは少しも残念そうな素振りを見せず、
むしろ楽しげに微笑んだ。
「ちょうどこのあたりは私の担当エリアなんです。
ご挨拶がてら寄っただけなので。
こちらの名刺だけ、お渡しいただけますか。
社長なら……見れば、分かると思いますから」
その言い方が、妙に引っかかった。
やがてWEB面接が終わり、
会議室のドアが静かに開く。
白川さんは何も言わず、中へ入っていった。
背中が、いつもより少しだけ硬い。
数分後。
彼女は頬をふくらませ、
明らかに機嫌を損ねた様子で戻ってきた。
中で何があったのか、誰も聞かなかった。
聞ける雰囲気でもなかった。
「……仲道さん、綺麗だったよね」
「もしかして、社長の元カノ?」
小声のざわめきが、
オフィスの空気をじわじわと満たしていく。
――そして、16時30分。
まるで何事もなかったかのように、
二人は並んでエレベーターに乗り込んだ。
昨日、婚姻届を出したばかりの背中だった。
いつも通りの、定時より少し早い退社。
その姿を見送ったあと、
部長がぽつりと言った。
「……あの二人、絶対離婚するぞ」
「え?」
「ええっ!?」
「昨日、籍入れたばかりじゃ……」
「24時間も経ってないよね?」
驚きと笑いが、同時に漏れる。
――さすが、若社長。
思い切りの良さだけは、
誰にも真似できない。




