第九幕
更新は基本不定期です。でもなるべく頑張りたいと思います。
門をくぐるとまず庭がある。
庭は荒れきっていた。
草は伸び放題、溜め池の水は濁りコケだらけだった。
私は進んだ。
月明りが辺りを照らす。
空を見上げると綺麗な満月が浮かんでいた。
やがて母屋が見えてきた。
母屋も荒れきっており、屋根も崩れかかっていた。
しかし、その姿のどこかにまだ上品さが残っていた。
伽音の墓はこの裏にある。
居るとしたらそこだろう。
私は裏にまわった。
しかしこの屋敷は大きく裏にまわるのにも一苦労だ。
やがて線香のにおいがするようになる。
歩き続けると、いた。
しかし私は目を奪われてしまった。
月明りの中、縁側に座り何かを思索している姿はどこか別の世界の人のようだった。
何処か遠く感じた。
目の前にいるようで実はものすごく遠くにいる。
私は彼の事を何も知らないのだ。
私は馬鹿だ。
何故今まで知ろうとしなかったんだ。
彼は必要以上に知ろうとしない。
彼は自ら孤独を望んでいる。
けれども、やはり孤独になりたくないという自分がいるという矛盾。
それはどんなに苦しい事だろう。
だから私は今決めた。
彼を孤独にしない、と。
私は歩みを進めて彼の隣りへ座る。
彼はこちらを見ようとしない。
気付いてないわけがない。
しばらくの間沈黙が続いた。
ここは伽音の家。
ここにあいつが…眠っている。
墓石の前に立ち線香をあげる。
そして俺は縁側に座り空を見上げる。
今日は満月だ。
あの日の事がよみがえる。
しばらくぼーっとしてると少女がいる事に気付いた。
そして近付いて来て隣りに座った。
今はこいつと話す気はしねぇ。
こいつから話し掛けて来ても無視しようと思った。
それに俺は戦争の事を考えていた。
虚無を恨んではいるが復讐したいのは一人だけ。
そのために死亡率が高い戦争に参加はしたくなかった。
刹那にも参加させたくなかった。
刹那はあまり他人に懐かない。
しかしあの場所を気にいっているようだ。
刹那があの場所に居たいなら居させたいし虚無なんかに壊させたくない。
だが、万が一あいつらが二体来たら確実にこの街は滅ぶ。
俺も死ね。
俺は死ぬわけにはいかねぇ。
だから迷っていた。
ふと気付いた。
どれくらい考えていただろう。
彼女はずっと喋らないのだ。
何か苛ついた。
「何しに来た?用がねぇなら失せろ」
彼女がこっちに顔を向けた。
その顔は月明りに照らされ、浮世絵から出て来たのではないかと思うくらい美しかった。
一瞬見とれてしまった。
「夕飯の時間だ。帰るぞ」
「俺は帰らない」
「…今日だけ?」
「わかんねぇよ。とにかく失せろ」
これだけ言っているんだもう帰るだろう。
そう思っていた。
「お前にはまだ聞かなきゃいけない事がある。……伽音とはどういう関係だ?」
その言葉を言われる前に帰って欲しかった。
「…お前には関係ねぇだろ」
「関係なくない!!」
急に彼女が立ち上がり怒鳴り始めた。
「伽音は…私の唯一の親友なんだ…だから知りたいんだ伽音が死んだ理由を…その全てを」
見ると彼女が涙を流していた。
「……許婚だ」
「え?」
何でこいつに言ってんだ?
「俺と伽音は許婚だった」
「じゃあなんで死んだのかも知ってるんだろう?お前が第一研究所を滅ぼした時にあそこで伽音は死んだんだ!」
「………それは…」
絶対に言うな。
でも彼女の目は誤魔化せない。
そういう目をしてる。
「伽音は…………―――――――俺が殺した」
「な…んだと…?」
それで良い。
俺を憎めばいい。
「わかったら失せろ。…刹那を頼む」
「ふふっ」
その時ふいに笑い声が聞こえた。
彼女を見ると笑っていた。
「テメェ…なんで…」
なんで笑ってんだ?
「いやすまない。やっとお前が少し話してくれて嬉しかった。刹那の事は頼まれないぞ」
「は?」
「刹那の事が気になるなら帰ってお前が見ててやれ!」
「俺は伽音を殺したんだ!!」
「嘘つき」
「………」
「お前がそんな事をするわけがない。…あと一つ言いたい事がある」
「………」
「伽音と私は死ぬ前日に会っているんだ」
「………」
「伽音が第一研究所に行くって聞いた時私は止めた。しかし止められなかった。せめて私も行くといったがそれもだめだった。彼女はこう言った」
「…………」
「私が行かなきゃいけないの。私が行って私の…大切な人を助け出さなきゃいけないの。だから氷華ちゃんはここで待ってて、って」
あいつはそんなことを…。
「それを言いたかっただけだ…。じゃあ私は先に帰るぞ」
「あぁ、先に帰って食べててくれ」
「待ってるぞ、隼人」
「…わかった、氷華」
彼女が消えると墓の前に立った。
今お互いの名を呼んだのは認めあった印。
だから今決めた。
「伽音…ゴメン。…俺が守ってやれなくて。ありがとう…俺を助けてくれて。その代わりと言ったらおかしいけど、お前の大切な人達を俺が守る。約束する。だから見ててくれ」
俺は決めた。
あいつらを…あの温かい場所も全て俺が守る。
その決意を胸に秘め温かい場所への帰路についた。




