第八幕
厳しいが、家族思いの父。
太陽の優しさとここぞという時の芯の強さをもった母。
やんちゃだが、俺をも超える才能をもつ妹。
そして自分の道を決して間違えなかった許婚。
その家族に囲まれ、平和で平凡な暮らしをしていた。
あの時までは……。
「母さん、母さん!!」
あれは母さんなのか?
本当に?
「逃げろ!!みのり!!」
自分の妹がその母に殺されそうだった。
「父さん!なんで!?なんで見てんだよ!?」
父さんは笑みを浮かべながらその光景を見ている。
「くそっくそっくそっ!!」
必死に助けようとするが柱に鎖で縛られ、そのまわりに結界も張ってあった。
「助けて、兄様…」
見ると、みのりは首を掴まれ体は宙に浮き、メキメキと音をたてている。
みのりは必死に首を掴まれている手を掴み、反抗をしている。
だが、その反抗もむなしくメキメキという音がますます響く。
やめろ……やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ
その願いも叶わず、ベキッという音が響きわたる。
反抗していた手はダランとぶら下がり、力を失っていた。
「あああああああああ!!」
その時隼人の中に何かが芽生えた。
「やめろーーー!!!」
ガバッと起き上がる。
辺りを見回すと布団の中だった。
すごい汗をかいていた。
夢か…。
俺の叫び声を聞いたからか皆が走ってやってきた。
「どうした?」
氷華が心配そうな顔で見てくる。
正一と花も心配そうにしていた。
「…いやなんでもない。夢を見てただけだ」
それを聞くと皆安心したようだった。
「もう五日も寝ていたんだよ」
そうか…アヌビスと戦ってから五日が経ったのか…そうだ!!
「皆、聞いてくれ」
俺はアヌビスが言った事を全て話した。
もちろん俺の目的関係は隠しておいて。
「そんなことって…」
花がポツリと呟く
「とりあえず僕は教団に連絡するよ」
「待った、刹那はどうした?」
「下で寝ているよ。キミらだいぶ無茶な力を使ったみたいだから」
正一が部屋を出ていくと花も続いて出ていった。
だけど氷華はジッーと俺を睨み付けている。
「なんだよ?」
「炎磨、何か隠してないか?」
その瞬間心臓が止まりそうになった。
「…なんの事だ?」
平静をたもち返事を返す。
「いや何か隠していると思って。いや勘違いならいいんだ。でも何か悩んでいたりとかしたら私に話せ。力になるから」
氷華が部屋を出て行くのを見送りはぁー、とため息をつく。
力になる?
どうやってだよ。
俺がやろうとしている事は世界で禁止されている事だ。
それを話せばきっと止められるに決まっている。
しかし、この街に来たのは正解だった。
俺の目的を早く果たせそうだ。
この街にはあいつの家があるしな。
そういえばまだ行ってなかったな。
俺は報告しなければならない事がある。
行かなければならなかった。
私が部屋を出るとすぐにドアに耳をあてるとため息が聞こえた。
やっぱり何か隠している。
しかし我ながら盗み聞きとは良い趣味ではないなと思い正一達のいるリビングへと向かう。
この屋敷は無駄に広い。
掃除をするのも面倒だし移動も面倒だ。
正一が何かとしてくれるのでそこは助かっていた。
リビングに行くとお茶を飲んでいる正一と花がいた。
「はい、氷華の分」
花がお茶を渡してきた。
私は座って飲み始める。
「で、教団は何だって?」
「戦力をそちらに送り、全面戦争だって」
「どれくらいの戦力が来るの?」
花が私の聞こうとした質問を先にした。
「詳しい事は分からないけど騎士団とベルセルクも何人か来るらしいよ」
「騎士団とベルセルクが同時に動くなんてだいぶ大事だな」
騎士団とは白の騎士団と呼ばれ、二十の隊に分かれている戦闘のエリート達だ。
しかも、隊長格の中にはベルセルクの者の実力に匹敵するほどの者も少なくない。
「教団側はあいつらも動くと判断したんだろうね」
さて、と正一は夕飯の支度をすると言って台所に行った。
「私は今日は帰る」
花は何か用事があるらしく帰ってしまった。
いつも正一に用意を任せっきりではいけないと思い何か手伝いをしようと思い、立ち上がった時
「はやと…は?」
刹那が起きてきた。
「部屋で寝てるよ」
「そう…」
それを聞いた刹那はトコトコと隼人の部屋に行った。
なんか気分が萎えてしまった。
テレビでもみるかと思った時
「ねぇ……」
振り向くと刹那がいた。
目をゴシゴシとする姿は幼くて可愛らしかった。
「はやと…いない」
「なに!?」
急いで部屋に向かうと布団の中はもぬけの殻だった。
「まったく、ゆっくり休めと言ったのに」
散歩でもしに行ったか?
まぁそのうち帰って来るだろうと思いリビングに戻った。
しかし、夕飯の時刻になっても帰って来なかった
「あいつどこに行ったんだ?魔力も感じないし一般人のトラブルに巻き込まれるほどヤワじゃないしな」
「うん、そうだね。ちょっと心配かも」
「刹那、あいつが行きそうな所知ってるか?」
刹那は首を傾けると
「なんか…行きたい所…が…あるって…この街に……来る時…言って…た…気がする」
「それはどこだ?」
むむうと難しい顔になり
「なんか……寺みたいな…西院音寺?…道明寺?……みたいな…うーん…」
「それって…観音寺家ではないか?」
「そう…だ…それ…それ」
「しかし、なんで観音寺家なんかに…まぁ私が行ってみるよ」
歩き始めて五分。
私は走ろうかと思ったが急ぐ事でもないかと思い歩いている。
観音寺家はそう遠くなく歩いて二十分で着く距離だ。
そもそも観音寺家は十大貴族の一員だった。
観音寺家は貴重な光属性の魔術を得意とした。
しかし、観音寺家は滅んだ。
助ける事が出来なかったと私の父と母もちろん私も悲しんだ。
家が近いため下村家と交流が多く同い年の娘がいたため仲も良かった。
その観音寺家に炎磨はどんな理由で行ったのだろう。
炎磨も十大貴族だ。
だから関わりもあっただろう。
しかし、そんなに深い付き合いだったとは聞いてなかった。
分からない。
理由がまったく分からなかった。
そんなことを考えているうちに山に着いた。
この山の頂上にあるのが観音寺家だ。
この山の名を臼間山。
標高八百メートルとあまり高くない。
よし、と気合いを入れて上り始めた。
この山は聖なる空気で満たされていた。
そこらへんの魔獣じゃ近付けないほどだ。
そして昔の事を思い出す。
ここでよく鬼ごっこや隠れんぼした。
いろんな動物や昆虫を捕まえたりもした。
昔を思い出すとつい涙が出てしまう。
私は学校に行っても誰も近寄っては来なかった。
いつも一人だった。
そんな時紹介されたのが伽音だった。
友達のいなかった私の唯一の友達だった。
その友達を救えなかった。
その友達は第一研究所で安らかに眠っていたらしい。
誰かに棺桶にいれられ、埋葬してあったのを教団が見つけたらしい。
そこでこの土地に遺体をもってきてもらい、観音寺家に墓を作った。
何故第一研究所に居たのか。
何故埋葬されてあったのか。
疑問はたくさん残ったが、研究所の人間が全員死んでしまっては真実は闇の中だ。
だけど、生存者がいた。
それが金色の悪魔と白い死神だ。
だけど聞けずにいた。
聞くのが怖かった。
ハッと気付くと目の前に門があった。
「今度こそ逃げない」
そう誓うと門に入っていった。




