第四十八幕
「これが全てだ」
「ふーん…」
隼人は興味がないまたは何か考えている様子だった。
「そういう事だからお前がなんと言おうとアイツは私が殺す」
「ん…それは構わねぇけど…」
「けど?」
イマイチ歯切れの悪い返事をする隼人を不思議に思った私は執拗に聞き返す。
「多分勝てねぇよアイツに。お前も俺もな」
「それ…は…そうかもしれないけど…」
「ならどうするんだ?」
「俺は…自分なりにやってみるわ」
「そう…なら私も自分なりにやってみるぞ」
シオンに勝てないということは私は無意識のうちに分かっていた。
その力の差も。
たった一週間二週間修行しただけでは敵わない事も。
と、と、と、と、とガチャ!
「はや兄~!あ~そぼ!」
その時廊下を走ってやって来たのはにぱーと笑顔を振りまく美子だった。
「無理」
「はや兄~!」
美子は隼人の腕を掴むとブンブン体を揺らしまくった。
ブンブン。
ブンブン!
ブンブンブンブン!
「あぁー!うぜぇよ!」
こうなったらどうしようもない事を私も隼人も分かっていた。
「あっ」
その時美子が何かを思い出したように声をあげる。
「どうした?」
「氷華の後ろに誰かいるよ?」
私はバッと振り向くとそこに居たのは私の父様だった。
「よっ!」
明るく手をあげ挨拶をする父様。
「よっ!じゃありません!なんでいつも気配殺して来るんですか!」
「だってお前ら気付かないから面白いんだよ」
ワハハハと豪快な笑いをする父様。
私の知らないうちにお風呂とか覗かれているかもしれないと思うと寒気がする。
「大丈夫だ。流石にそこまではしない」
「心の中を読まないでください!」
「んで?何の用だよ?」
途端に隼人から殺気が溢れ出る。
「まぁまぁ。そう殺気立つなよ」
「言ったろ?いつかテメェを殺すって」
そういえば最初の頃そんなことを言っていた。
何故そこまで父様を恨むのだろう?
今度聞いてみようと私は思った。
「はいはい。さてお前らに良い話を持ってきた」
「流しやがった!?」
あれだけ因縁があったみたいな伏線をあっさり流す父様だった。
「良い話?」
「まぁ簡単に言うと今すぐ強くなれるみたいな」
「本当か!?」
「あぁ。じゃあ地下についてこい」
私達は一回顔を見合わせ父様についていった。
隼人の頭には美子がかじりついていたが、これこそ流した方がいいだろう。
うす暗い階段を下りると広い道場のような所に出た。
ここは前にこのクソ野郎(玄三の事)に負けた胸糞悪い場所だ。
道場に入った瞬間俺は横に跳んだ。
「……よけ…られ…た…」
いきなり攻撃を仕掛けてきた刹那はいつもと変わらない表情でそんなことを言ってきやがった。
「刹那はパワーアップした自分の力を試したかったんだよな?」
コクン。
と、縦にうなずく刹那。
言われてみると前よりかなり魔力が上がっている。
「まぁいきなり隼人を襲うなんてどうかと思うけど」
「うん。そうだね」
やがてその部屋にいた正一や花もやってきた。
「お前たちも?」
パワーアップしたのか?という意味で氷華は正一たちに聞いたのだろう。
「うん。まあね。でも刹那ちゃんほど急激に上がったわけじゃないよ」
「そうか」
あれ!?そっけないよね!?という正一の嘆きは無視され玄三によって奥へと案内されていく。
そしてそこには見知らぬ人物がいた。
「さぁこの人に強くしてもらうんだ」
そう言って紹介されたのは白装束に身を包んだ小学三年生ぐらいの少年だった。
「こいつは?」
「誰なんですか父様?」
俺と氷華は同じ質問をする。
「こ、こら!失礼だろ!この人はな…」
「よい」
その子どもが玄三を止めたその言葉に俺達は完全に畏縮してしまった。
体に深く重くのしかかる言葉が存在するなんて知らなかった。
「私の名は霧乃宮帝。教団の教皇をつとめておる」
「なっ!?」
「教皇!?」
俺達は慌てて玄三の顔を見るとやれやれといった顔をしていた。
「知らなくても無理はない。私はあまり人前に出ないのでな」
なんだこの上から目線。
こいつ本当に教皇かただのガキじゃねーか。
その時ふと教皇と呼ばれるガキと目が合う。
「ほう、その子が今の時代の神童か」
俺の頭の上に乗っかっている美子を見て帝は言った。
「………」
俺も氷華も口を閉ざす。
「隠す必要はないぜ、お前ら」
しかしなおも口を閉ざす俺らに教皇が口を開く。
「ふむ、時に私が教皇だと信じておらぬな?」
「いきなり出てきて信じられっか!」
まぁあっちにいる三人は信じたようだけど俺にはまったくこいつが信用ならなかった。
「ふむ、まぁその疑心はいつまでも持っておくとよいぞ。だが、私の信用はどうしたら証明できるのか?」
「俺を力ずくで這いつくばらせたら信用はしてやるよ」
「ふむ、なるほど。ではゆくぞ?」
「あぁ来いよ」
その瞬間俺の視界はさっきまで踏み付けていた道場の床で一杯だった。
いつの間にか俺は床に這いつくばっていた。
「これでいいのかの?」
「テメェ…何しやがった…?」
俺はゆっくりと立ち上がる。
「ん?近付いて柔術を使っただけよのう」
近付いた?
まったく見えなかった。
倒れていることさえ気付くのに時間がかかった。
これが教皇の力。
「アンタのこと信用してやる」
「ふむ、それでは始めるぞ?下村の娘」
「…え!?あっ、はい!」
氷華も驚いていたのだろう。
俺ほどではなくとも少しは疑っていたはずだから。
「ふむ、始める前に一つ聞きたいことがあるのだが…」
「なんだよ?」
「私はキャラがかぶっていないか?ほらデルトロとかと」
何を言い出すかと思いきやそんなくだらない事かよ!
つーかなんでデルトロの口調を知ってんだよ!
「ふむ、デルトロとは少し知り合いでの」
「心の中を読むな!」
「ふむ、冗談だ。では聞くがお前たちは何故力を求める?」
何故力を求める?
「そんなん決まってるじゃねーか。親父を殺すため」
「ふむ、浅い。それでは浅すぎるぞ炎磨の小僧」
浅いだと?
俺はそのために生きてきたんだ。
つーかなんで俺の名前知ってんだ?
「ふむ、もう少し考えるがよい。では、下村の娘」
「…私は守りたい。みんなを…世界を…」
「ふむ、漫画の主人公としては百点じゃな。だが、それだけかの?」
「それは……」
「ふむ、まぁ今のも心から力を望む理由ではあったからの。力を与えてやるぞ」
帝が氷華の額に触れると氷華の魔力が急激に上昇する。
「こ、これは…」
「ふむ、私の力は潜在能力を限界まで開放し、成長限界の壁を壊すだけだからの。後は自分でなんとかするがよい」
「はい。ありがとうごさいます」
「ふむ、さて炎磨の小僧聞こうか?」
「俺は…」
俺は何故力を得る?
「俺は誰でも恐れるような誰でもねじ伏せられるような術師になるためだ」
「ふむ、理由になってらんの。大きすぎる力はやがて己を滅ぼす。力の意味を履き違えるな!」
その声に空気が震える。
「……ふむ、もう一度聞こう。何故力を求める?」
「俺は世界を守るとか大層な事は言えねぇ。だけどみのりには普通の生活をしてほしい。この闇の世界でなんていてほしくねぇんだ」
「………」
帝は何を考えているのかただ俺の事を見つめている。
「それは氷華や刹那にしたってそうだ。こんな世界にいるのは俺だけでいい。俺は闇の世界に君臨する絶対強者でありてぇんだ!」
「……ふむ、やっと本音がでたようだの。それが善か悪かは置いておこう」
するといつの間にか帝はすぐ目の前にいた。
「だが、お主のその道は険しく過酷で一歩間違えれば大変な事になるぞ」
「間違えねぇよ」
帝はふむ、そうかと短い返事をした後俺の額に触れた。




