第四十四幕
目を覚ますとそこは病室だった。
俺はどうしたんだっけ?
……あぁ、思い出した。
悪魔に、魂を乗っとられたんだ。
伽音の奴デルトロが変わったとか嘘つきやがって。
いやデルトロが欺いていただけか。
「はや…と…起き…た?」
横を見ると椅子に座っている刹那がいた。
「あぁ。俺はどれくらい寝てた?」
「…一ヶ…月」
「そうか」
相変わらずの無表情のままこちらを見る刹那。
何を考えているか分からない。
俺は起き上がり立ち上がると病室から出ていこうとする。
「どこ…いくの…?」
「トイレだよ。トイレ」
「…そう…」
俺は廊下に出てトイレを通り過ぎて階段を上り屋上に出た。
殺風景な屋上に出るとそこには争いの痕を残してこの街があった。
俺は近くのベンチに腰掛けた。
俺は考えていた。
目覚めてから体がおかしい。
というより調子が良過ぎる。
病み上がりのくせに力が溢れかえっている。
俺がサイ〇人でもない限り一度死の淵から蘇ったからって戦闘力は上昇しない。
なら原因はアレか。
デルトロの覚醒。
まだ半分も目覚めていないだろうがとてつもない力だった。
記憶がとびとびだが覚えている。
俺は氷華を…想姉を殺そうとした。
もう俺の中の闇は制御出来ない。
なら闇に食い尽くされる前に命を絶った方がいいんじゃないか?
でも俺はまだ復讐を果たしてねぇ。
死ぬのを躊躇していたら仲間が死ぬ。
どうすればいいんだよ。
「お悩みね?」
その時どこからともなくシオンが現われた。
「…お前には関係ねぇ」
「あら冷たい事言うのね?」
シオンは俺の隣りに座った。
「どう?家に来ない?食事でもしながら話しましょ?」
「お前には関係ねぇっつってんだろ」
シオンははぁーとため息をすると再び口を開いた。
「あなたは自分の中の闇が怖いの?それとも仲間を殺す自分が恐いの?」
「え?」
何故こいつがそんなことを知っているんだ。
「テメェ、何者だ?」
「それも私の家に来たら話しましょ?」
その提案に隼人は黙ってついていく事にした。
ガチャ。
ドアを開けるとそこには刹那の姿しかなかった。
「隼人はどうした?」
刹那はゆっくり振り向いた。
「と…いれ…」
「それって…何分前だ?」
「…一…時間…?」
「それはトイレに行ってないぞ」
刹那は首をかしげる。
え?みたいな感じで。
気付いていなかったのか。
「分かった。じゃあ探してくるから刹那はここに居てくれ」
コクン。
刹那がうなずいたのを見て氷華は病室を出て行こうとした。
「まっ…て…」
その時か細い声で刹那が言った。
「…はや…と…変…なの……なんか…イラ…イ…ラして…て…」
「そうか…分かった」
氷華は病室から出て病院からも出ると走り出した。
「あのバカ!少し病室でじっとしてられないのか!」
氷華は走った。
今の隼人の魔力なら集中すれば微かに感じる。
そこに向かって氷華はただ走った。
「んで?お前何者?」
「詳しい事はまだ言えないわ。まぁ裏の人間とだけ言っておくわ」
そこでシオンはティーカップに口をつけた。
「俺はどうしたらいいんだ?」
ゆっくりとシオンはティーカップから口をはなしこっちを見つめた。
「そうね…あなたが取るべき道は三つね。一つはあなたが死ぬ事。二つ目は闇にとらわれ我を失い全てを滅ばすか。そしてもう一つ…」
「まだあんのかよ?」
シオンは立ち上がって俺の後ろにまわり、抱き付き耳元で囁いた。
「あなた自身が…闇に墜ちればいいのよ」
その時全身の毛が逆立つ。
毛穴から冷や汗が滲み出て悪寒が体を走る。
「どういう…事だ」
「だってデルトロに支配されてしまうのはあなたが拒絶して光の世界にいようとしているからでしょ?だったらあなたが闇に墜ちてデルトロを逆に食らえばいいのよ。そうすればあなたは死ななくてすむし、復讐だって果たせるわ」
「………」
「どうしたの?何迷っているの?あぁ離れたくないのね。白い死神さん達と…下村のお嬢さんと…」
「………」
「なら私がそばに居てあげるわ。ずっと一緒にいてあげる」
そう言うと俺はシオンに床に押し倒された。
「だから私にあなたをちょうだい」
シオンの顔が迫る。
俺は悩んでいた。
確かにシオンの言った事が一番合理的だ。
俺の脳裏に皆の姿が浮かぶ。
刹那。
正一と花。
教団関係の人達。
伽音。
そして氷華。
俺は目をつぶる事にした。
もういいや。
なるようになるさ。
「隼人!!」
その声に目を開ける。
「あら?人の家に勝手に入るなんて失礼じゃなくて?」
ドアを開けて入って来たのは氷華だった。
「シオン・クロッカス!」
氷華は霜七草を取り出しシオンに襲いかかる。
シオンは俺の上から飛退き距離をとった。
「惜しかったのに残念」
「隼人気をつけろ!」
「何がだよ!?」
「アイツはシオン・クロッカス。慈煉魔最高幹部の一人『吸血鬼』(ヴァンパイア)。私の兄を殺した女だ!」
俺はこの殺伐とした空気の中、氷華の言葉がぐるぐると頭の中を回っているだけで一瞬理解をする事出来なかった。




