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第四十三幕

「あ…なたは…?」


「立浪家当主…立浪想と申します」


「……そうですか…あなたは何しに来たのですか?」


「……危険分子を始末するため」


「まさか隼人を…」


氷華がそう言うと想は静かにうなづいた。


「ダメです!助ける方法はきっとあります!」


「……考えてはおきますが分かりません。殺さずに手加減をするのは難しいですから」


そう言うと想は二つの鉄扇を取り出した。




「GAAAAAAAAAAAAA!!」


隼人の咆哮を想はまったく動じずにただ隼人を見つめていた。


「やっぱりこうなっちゃったか…ゴメンね……今楽にしてあげるから」


そう呟いた彼女は隼人に向かって走り出した。


隼人は口から黒い光弾を放ち迎え撃つが想にまったく当たらなかった。


想は隼人の目の前までたどり着き隼人の左腕を斬り落とす。


「GAAAA!!」


左腕の切断面からこわれたスプリンクラーのように赤い血が噴き出す。


しかしすぐに黒い魔力で覆われて何事もなかったように左腕が再生する。

そして一瞬にして想の背後にまわった。


隼人は拳を振り下ろすがそれを防がれ想の反撃を受けて肩から血が噴き出す。


隼人は怯まずに傷つこうが構わずに突っ込んでいく。


「くっ!」


その勢いに押され僅かに後退する想。


その一瞬の隙に隼人は右の拳を振るうが、想の扇で防がれてしまう。


隼人はそのまま扇に拳を当てたまま黒い光弾を零距離で放つ。


想は少し吹き飛ばされたが、すぐに体勢を立て直す。


そして隼人を見るがそこにはもう居なかった。


隼人は想の左斜め後ろの死角に回り込んで口に魔力を溜めていた。


そしてそれが放たれ想に黒い魔力が迫る。


(避けきれない!)



想に黒い魔力が当たる寸前に軌道が不自然に逸れて後ろの建物が吹き飛んだ。




「やっぱり……全力でやらないとダメだよね…」

次の瞬間想の姿が消えそれを追うように隼人も姿を消す。


キィン!という金属音があたりに響き渡るが、二人の姿は見えなかった。

すると突然隼人が急に地面にへばり付いていた。

「AAAAAA!」


隼人は苦しそうに叫んでいる。

これが立浪家の特質能力「引」。


視界に入る重力を全て操れるという規格外の力。

そしてそれをさらに最強の力に近付けてるのは想自身の能力、透視能力だ。


その力が発動し、地面に伏す事となった隼人は必死にもがいていた。


「GAAAAAAA!」

ヨロヨロと立ち上がる隼人。


「なんて力…」


しかし隼人にのしかかる重力がさらに増し再び平伏す。


もう隼人は指一本動かす事も出来なかった。


「さて、なんとか生け捕りに成功したけどどうやって意識を取り戻そうか…」


その時想の目の前が真っ黒に染まる。


そして闇の波が想に襲いかかる。


想はそれを上に跳んで躱すが、上には隼人が待ち構えていた。


「GAA!!」


隼人は両手をくみハンマーのように想に振り下ろした。


「きゃああああ!」


弾丸のように地面に墜落していく想は地面に激突した瞬間に受け身をとり衝撃を逃がす。


(私の視界を奪い重力から開放させたのね…とっさの事だから透視出来なかったなぁ。それにしても…)


想は辺りを見回すが、隼人の姿が見当たらなかった。


(隠れながら一撃離脱で私を倒す気かな。知能も高いみたいね)


しかし、想の前には視界の障害物など無用だった。


透視を始める想だったが異変に気付いた。


(透視出来ない!?なんで?)


障害物を透視したり裏側を見ようとしているのだが、黒い影で隠されて見えなかった。


建物に近付いて確かめてみると建物の表面が闇で覆われていた。


(この闇…魔力的効果や特殊能力を無効化するの!?)


想の額に冷や汗がにじむ。


「そんな能力……無敵だよ…」


想は自分の能力を最強だと思い込んでいたが、この能力は違う。


文字通り敵がいないのだ。


この能力の前では世界屈指の術師も一般人に成り下がってしまう。


想は理解した。


この闇に捕まったらそれで終わりという事を。


ただそれでも限界というのはある。


想は辺り一帯を重力で押し潰していく。


一瞬何も起こっていないように見えたがすぐに建物たちは崩れていく。


そして『引』を使いながら透視を始める。


押し潰される隼人を探したが見つからなかった。

(どこ?どこにいるの!?)


その時想は自分の真後ろに邪悪な気配を感じた。

隼人が想の影から飛び出してきた。


そのまま隼人は右の拳で殴りかかった。


その拳はちょうど振り向いた想の腹にめり込んだ。


ボス!っと鈍い音が響きわたる。


想の口から血が流れる。

しかし想の体は吹き飛ぶ事なくそのまま停止している。


想は左手で隼人の右手を掴んだ。


「やっと捕まえた」


隼人は拳から闇を放とうとしたがその前に想の扇が体を斬り裂く。


激しい出血をしながら怯む隼人に想はとび回し蹴りを顔面に食らわせた。

吹き飛ぶ隼人に想はさらに追撃をする。


「二の舞、楓」


いくつもの半月状の斬撃が隼人に襲いかかり直撃する。


隼人は体中を斬り刻まれ激しい出血をしていた。

そのまま隼人はクルリと回って着地した。




(超速再生しない。魔力の消費を押さえるためかな?)


隼人はこちらをギロリと睨み続けている。


「超速再生、大技の連発、闇の操作、影の中の移動。どれも驚くばかりの力だけどその分魔力の消費は大きいようですね。最初の頃より大分魔力が小さくなりましたよ?」

「HAAAAAAA」


「私の本気を見せてあげましょう」


そう言うと想は両手の扇を開いた。


そして瞬く間に魔力が増大していく。


そして最高点に達した魔力は今の隼人を軽く超えていた。


いや例え全力だったとしても想のほうが上かもしれない。


それほどの超絶した魔力を見せつけられながらも隼人は臆さずに雄叫びをあげる。


「行きます」


想がそう言った瞬間にはすでに隼人は宙高くに吹き飛ばされていた。


そして空中にいる間にも次々と斬られていたが速すぎて想の姿を視認できない。


そして急激な重力の加算により隼人は地面に急激なスピードで垂直落下して地面の奥深くに沈んだ。


まだ立ち上がる隼人だったが本気を出した想にはまったく手も足も出なかった。


やがて体が真っ赤に染まった隼人は片膝を地面につきながら吐血をしている。


「これで終わり」


想がトドメを刺そうとした瞬間、

「GAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


隼人が叫び始め体が黒く光だしていく。


そのまま黒い大爆発を起こして街を飲み込んでいく。


辺りが煙で覆われる。




やがて煙が晴れると地面に大きな窪みができていた。


しかし想は目の前に立っていた。


想は隼人の頭に踵落としを食らわせた。


顔面を地面に強打した隼人はもう動けなかった。

「今度こそトドメ。……バイバイ隼人君」


トドメを刺そうと扇を隼人の首に振り下ろそうとした瞬間氷華が間に入り想の扇を霜七草で受け止めた。


「何を…しているんですか?」


「隼人は殺させない。絶対に」


「どいて。じゃないと隼人君が目覚めてしまう」


「嫌です」


「分からないの!?今はまだ完全体になってないからこの程度ですんでるけど目覚めてしまったらこの世界は滅ぶのよ!?」


「そんなこともさせません」


決して意志を曲げない頑固な氷華の姿にだんだんと苛立ち始める想。


「あなたに何が出来るの!?」


「出来る出来ないじゃなくてやります!」


「……邪魔をするならあなたから殺すよ」


無機質な言葉を氷華に向けるが、それでも氷華は隼人の前から退かなかった。


「…分かりました」


想が氷華の首を刎ねようと鉄扇を振り上げた瞬間隼人が立ち上がり氷華に襲いかかる。


しかし隼人は氷華を素通りして想に向かっていく。


想は隼人に蹴りを食らわせた。


隼人は転がりながら吹っ飛ぶ。


もう受け身をとる元気もないようだ。


「やめろ!」


氷華が再び想の前に立ちはだかろうとしたが想の拳が顔面に当たり吹っ飛ばされてしまった。


もう氷華には立つ体力すら残っていなかった。


想は隼人を殴り、蹴り続けている。


「……やめてくれ…やめてくれ…やめろーーーー!」


氷華がそう叫んだ瞬間ピタッと想の動きが止まった。


「何…?動けない!?」

どこからか歌が聞こえる。


「この歌は……美子?」

氷華の言った通り歌っていた人物は美子だった。

「美子!来るな!」


しかし美子はスタスタと隼人に向かっていく。


「HAAAAAA…」


そして倒れている隼人を軽く抱き締めた。


「おやすみ、はや兄」


隼人が光に包まれ辺りにその光りが広がった。

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