第四十一幕
「はぁ、はぁ、はぁ」
瓦礫の中から出て来たのは傷だらけの氷華だった。
「やったのか…?」
辺りを警戒しながらジャックの姿を探していると瓦礫の下敷きになっていたジャックを見つけた。
しかしもうジャックはピクリとも動かなかった。
「隼人の所に行かなくては…」
氷華はヨロヨロと歩きだすがすぐに地面に座り込んでしまう。
(力を使い過ぎたか…少し休むか)
「あら?よわりきってるじゃない?」
「お、お前は…」
氷華の目の前に立っていたのはピンクのボディースーツを着た女性だった。
「水沢ライラ…何故?生きてたのか…?」
「そのとおり。あの程度でこの私がやられると思った?」
その人物は隼人がまだこの町に来て間もない頃に隼人たちを倒すために呼ばれた応援部隊と連絡が取れなくなったから調べろと教団からの任務で行ったホテルで出会った水沢ライラだった。
アヌビスの配下だった彼女は氷華が自らの手で倒したはずだった。
「私の本当の名前はクイーンよ。よろしく!」
そう言うとクイーンは両手に鋼鉄の鞭を手に持つ。
「くっ!」
氷華は立ち上がるだけで精一杯だった。
「やっと本気であなたと戦えるのにあなたがそんな弱ってたらつまんない」
彼女が右手を上げると後ろから黒スーツの男が片膝をついた状態で現われた。
「この子を治しなさい」
「はっ!?しかし…」
「いいから」
その時クイーンの体から膨大な殺気が溢れだす。
その男が言われた通りにしなければどうなるのかなどその殺気で容易に想像できた。
「分かりました」
そう言うと男が私を治療し始めた。
「しっかり治しなさいよ。じゃないとあなた分かってるわよね?」
男は恐怖に怯えながら治療を続けた。
やがて治療が終わる。
「消えなさい」
「…はい…」
男の姿が消えるとクイーンは笑みを浮かべた。
「じゃ~あやろっか?」
次の瞬間氷華の顔に鋼鉄の鞭が迫る。
「!?」
鞭が氷華の頬を掠め、ツゥーと血が流れる。
「油断しちゃダメよ?私はジャックよりも強いんだから!」
クイーンが鞭を振るおうとした時氷華を庇うように一人の女性が現われた。
「あなた何者?邪魔しないで」
その女の人を見て苛立つクイーン。
「下村氷華。あなたは炎磨隼人の所へ行きなさい」
「え?あなたは…?」
その完成されたプロポーションに鋭い目付き。
そして身にまとわせた大人の雰囲気に氷華は飲まれていた。
「私は立浪桜。調整者です」
「調整者!?あなたが立浪家の…」
「今回の戦争はあなたたち側につく方がいいと当主は判断しました。よってこの場はおまかせください」
「…分かりました。お願いします」
氷華が隼人のもとに向かって走り出す。
「逃がさないわよ!」
クイーンが鞭を振るおうとした瞬間桜の蹴りがクイーンの顔面を捉える。
クイーンは吹っ飛びながらも空中で体勢を立て直し華麗に着地する。
しかしクイーンの頬は赤く腫れて憎悪に染まっていた。
「あなた…よくも私の顔を…許さない!!」
クイーンが両手の鞭を振るい蛇のように桜に襲いかかる。
桜は普通の拳銃より二回り大きい拳銃を取り出して鞭を撃った。
鞭は弾かれ無防備になるクイーン。
そこに桜の放った光弾がクイーンに直撃した。
「きゃああああ!」
クイーンは少し吹っ飛ぶがすぐに体勢を立て直す。
「名門十二家最強の立浪の力教えてあげるわ」
「がはっ!はぁ、はぁ、ちくしょう!」
瓦礫の下からなんとか這い上がる隼人。
目の前には復讐の対象のキング。
しかしその憎むべき対象に見下ろされている無様な自分。
ゆっくりと立ち上がる隼人。
「お前の中に前あった憎しみが消えたな。その程度の憎しみでは俺を倒す事は叶わぬ。みのりが生きていて安心したか?居場所が出来て歓喜したか?」
しかし隼人は笑った。
「いや、あそこは俺の居場所じゃねーよ。みのりのだ。でも確かに忘れてた。俺は自分がどうなってでもいいからテメェを殺すんだった。思い出したぜ!」
そう言った次の瞬間隼人の体が黒く光り染め写しの刀身も真っ黒に染まった。
「いくぜ、テメェは殺す」
隼人はキングに向かって走り出した。
しかし隼人のまわりに光の球が囲んだ。
だがそれを気にせずに隼人は突っ込む。
ドーン!という爆発音とともに爆発したが隼人は構わずに進み続ける。
何回かキングはそれを打ち続けるがそれでも隼人は止まらなかった。
そしてやっとの思いでキングの前にたどり着くと隼人は刀を縦に振り下ろす。
キングはそれを剣で防ぐが、地面が足にめり込む。
「お前…死ぬ気か?俺の攻撃を受け続けていると仮に俺を倒しても無事ではすまないぞ!」
「…俺は復讐者だ。テメェを殺せるなら本望だ。我慢比べと行こうぜ!」
隼人はそのまま刀に黒い魔力を流して零距離で黒龍を放つ。
黒い魔力で辺りは包まれ全てを消滅させていく。
「くっ!」
黒龍の中から飛び出たキングは光りの球で隼人の両腕を囲む。
「なら四肢からつぶしてくれる!」
隼人は即座に闇で両腕を守ろうとするが高密度の魔力で作られた光りの球を防げないと察した隼人は右腕だけを全力で守った。
そして光りの球が爆発し右腕はかすり傷ですんだが左腕はもう動かないほどのダメージを受けた。
焼きただれた肌、砕けた骨、ちぎれた筋肉を黒い魔力で代用して無理矢理左腕を動かす隼人。
こんな事しても所詮その場稼ぎだが、黒龍を零距離で受けたキングもダメージでろくに動けないだろう。
その場稼ぎでも十分。
隼人は地面に刀を突き刺す。
すると地面から鋭く尖った形に形成された黒い魔力がキングの体を貫いた。
これでキングの動きを完全に封じた。
後は魔力を一撃に込めるだけ。
魔力を込めながらゆっくりとキングに近付く隼人。
「くっ!」
隼人のまわりをいくつもの光りの球が囲むが構わず突き進む。
右腕を左腕を犠牲にしてかばう隼人。
足が潰されようが臓器を潰されようが右腕だけ動けばいい。
俺はこの後死ぬだろうがそんなことはどうでもいい。
隼人は今復讐を終わらせようと歩き続ける。
そしてキングの目の前にたどり着いた。
キングは縦に剣を振るう。
剣は左肩を斬り裂くが胸の辺りで停止した。
「ガフッ!」
口からおびただしい量の血が流れる。
間違いなくこの一撃は致命傷。
だけどもう関係なかった。
後は振り上げた刀を振り下ろすだけだから。
「あばよ、クソ親父」
終わりに向けて振り下ろされた刀により黒龍が放たれた。
目の前の景色は黒い魔力で染まった。
隼人はゆっくりと地面に倒れた。
「はや兄!」
美子が遠くで叫んでいるのが聞こえる。
そういや居たんだっけな。
復讐心にかられて今の今まで忘れてるなんて本当に俺はダメな奴だ。
だんだんと意識が薄れていく。
死んでも俺は母さんや伽音の所には行けないんだよな。
「あっぶねぇ~!」
俺は目の前の光景が信じられなかった。
キングは生きていた。
左半身が抉られなかったが俺が驚いたのはそこじゃなかった。
「アンタにも死んでもらったら困るんだから。ん?意識ねぇか?」
キングを抱えていたのは俺の闇よりも深い黒色の髪をした青年だった。
「よぉ、俺はジョーカー。んだよ零番死ぬじゃねーか。つまんねぇな。いいや神童殺してさっさと帰ろ」
ジョーカーはキングを投げ捨て美子に近付いていく。
「ま……て…よ」
「あ?」
ブチブチと血管や筋肉が切れる音がなる。
もう動かない体を無理に動かしているからだ。
「テメェ……邪魔…しやがって…」
「俺壊れかけの玩具には興味ねぇから」
「美子…逃げろ…」
だが発せられたその声は小さく美子の耳には届かない。
「あ~やっぱちょっと遊ぼうか。下村の娘が来るみたいだし」
「!…そうか…よ…じゃあいくぜ!」
そう言った次の瞬間俺の左腕はおかしな方向に曲がり骨が突き出ていた。
「な…」
「見えなかったか?」
ズブッ!
ジョーカーの左手が俺の心臓を掴む。
「あ…あ…」
「ほら…握りつぶしちまうぞ?」
ハハハハハハとジョーカーの笑い声が聞こえる。
「あ…あ…GAAAAAAAAAAAAA!!」
俺はジョーカーの左腕を掴む。
ミシミシとジョーカーの骨が軋む音が聞こえる。
「テメェ……死ね!」
グチュ。
俺の心臓が握りつぶされ倒れる俺。
倒れながら薄れゆく意識の中で最後に見たのは氷華の姿だった。
あぁ結局なんにも守れなかったな…わりぃ。
そして隼人の意識はここで途絶えた。




