第三十八幕
「はや兄あそぼ!」
「………」
「はや兄ぃ~あ~そ~ぼ!」
「………」
「ねえってばぁ~」
「うるせぇな、寝てんだよ」
今俺は下村家の自分の部屋で寝ているところだ。
あの戦いからすでに三日が経っていた。
そして今俺はこの小さな悪魔に遊びをせがまれている。
「いいじゃないか、外でも行って来たら」
その時たまたま通った氷華が美子に助け船をだした。
「ちっ、わかったよ」
その言葉を聞いた美子は目を輝かせていた。
何故か知らないが俺はこのガキに気に入られてしまったようだ。
まぁ俺がその誘いに乗ったのは金をもらって正当な理由で外食できるからでもあった。
俺達は準備をすまして街に出た。
「ねぇ、あれ欲しい」
「………」
「あっやっぱあっちがいい!」
「………」
「あっやっぱこっちも」
「いい加減にしやがれ!」
「ふぇ?」
たくさんのものを食べながらこっちを向いた美子の顔はさながら小動物のようだった。
「どうしたの?」
「どうしたの?じゃねぇ!テメェのせいでもうスッカラカンだわ」
「あらら~」
そう言って頭をかく美子。
街に出た美子にいろんなものを買わされてお金も底をついてしまった。
そして今は夏。
もうすぐで夏休みに入る時期だ。
そのためものすごい暑さでイライラする。
「どうすっかな…」
「あら?」
その時後ろから声が聞こえて振り向くとそこには金髪の少女がいた。
「こんなとこでどうしたの?」
「あ?…誰だ?」
どこかで見た覚えもあったが名前が思い出せなかった。
「レディの名前を忘れるなんてマナーがなってないわね。シオンよ。シオン=クロッカス」
「あ~思い出した」
そうだ、コロッセオでの戦いの前に入院していた俺は勝手に抜け出してシオンの屋敷で飯を食いに行ったんだ。
「わりぃ、わりぃ、ここんとこバタついててよ」
「まぁいいわ。許してあげるわ。で、何をしてたの?」
「あぁ、ちょっとこいつに付き合ってたんだよ」
そう言って美子を見たが隣りにはいなかった。
「あれ?」
「その後ろの子?」
言われて振り向くと美子は俺の後ろに隠れて俺の足にしがみついていた。
「何してんだ?」
しかし美子は答えずにずっと下を向いている。
「あら?嫌われちゃったみたいね」
「あ~こいつ人見知り結構するみたいだわ。俺のまわりでもこいつに嫌われている奴いるしな」
「ヘックション!!」
「風邪か?」
「そうかなぁ…?」
その頃嫌われている奴(正一)は盛大にくしゃみをしていた。
「そう、じゃあ私はこれで」
そう言ってシオンが去ろうとした時グーと俺の腹の音がなった。
「家に来る?」
少し笑みを浮かべながら誘ってきたシオンに俺はすぐにうなずいて返事を返した。
ここはシオンの屋敷。
相変わらず美子は俺の後ろにしがみついていた。
「いい加減うぜぇよ。離れろ」
「あの人…なんか怖い」
美子は俺の耳元で小声でそう言った。
「は?」
「あの人…何か隠してる…」
「…まぁ…確かに言われてみればアイツの事なんも分かってねーな」
そう言うと俺はシオンに近付いて、
「お前何か隠してねぇ?」
と言った。
その時後ろから小さい声でバカ!と声が聞こえたが無視する。
「何の事かしら?」
「いやよくわかんねぇけど勘だ」
「そうバレてしまったのね」
シオンがそう言った瞬間俺の背後に人影が迫る。
「なっ!?」
俺はその人影の繰り出す拳を上体の動きだけで躱していく。
そして隙を見つけて思い切り殴りつける。
その人影は吹っ飛んでいき少し離れたところで片膝をついている。
「やるわね。ウチのポールをのしてしまうなんて」
「参りました。お見事です」
その人影が立ち上がりこっちに近付いてくると今まで薄暗くて―シオンの屋敷は昼間でも何故か薄暗い―顔とかがよく見えなかったがものすごい筋肉をした優しい感じの老人だった。
「先ほどは失礼をお許しください。シオンお嬢様にふさわしいかどうかを見定めさせていただいたのです」
「おい、隠し事って」
「ポールが奇襲をかける事よ。さぁいきましょう」
そう言うと俺らはこないだと同じ食堂―といってもかなり立派だが―に案内された。
「今お料理をお運びしますので」
そう言うとポールは出ていった。
俺はシオンとも話す事はなくただひたすら食堂には静寂が広がっていた。
今気付いた事だが、この屋敷はかなり落ち着く。
屋敷の中が薄暗いせいか?。
前来た時はこの薄暗さが気持ち悪かった。
しかし今は逆にこの暗さ、空気、雰囲気が全て心地よかった。
俺が闇を操るようになったからか?
そんなことを考えているうちに料理が運ばれてきた。
ポールは料理を並べ終わるとごゆっくり、と言って部屋から出ていった。
「さぁ召し上がれ」
そう言われる前に俺は食い始めていた。
美子は相変わらず下を向いたままだった。
「ねぇ」
その時シオンが急に話しかけてきた。
「あ?」
「私の男にならない?」
「は?」
「私今結婚相手を探しているのよね」
「いやだ」
「じゃあ奴隷になって」
「ふざけんな」
キッパリと断るとシオンは残念、と言ってスープを口に運んだ。
まったく何考えてるか分からない女だ。
そして俺らは飯を食うだけ食っといて帰ろうとした時に呼び止められ、屋敷の掃除をさせられた後下村家に帰っていった。
下村家への帰り道、俺は美子に何故シオンの事をあんなに嫌いなのか聞いてみた。
すると今まで黙っていた美子の口が開いた。
「あの人は……何か怖い。こちらの事を見透かしているようで。逆にあの人の中身はまったく分からないの」
「まぁ確かにそうだな」
「それと違って隼兄は単純だから大好き!!」
「どういう事だテメェ!!」
俺が美子の事を軽く拳骨した時、前方に人影が立っている事に気付いた。
「その子どもが神の子か?」
少し茶が入った黒の少し長めの髪に黒の目。
そして左目には眼帯をつけていた。
「テメェは何者だ?」
「俺は堕天使の宴のメンバーの一人、阿藤晃平だ」
その言葉を聞いた次の瞬間には隼人の殺気が膨れ上がった。
「俺に殺されに来るとは随分イイ子ちゃんじゃねーか」
「その子を渡してもらおう」
隼人は刀を構え魔業を発動する。
「力ずくで奪ってみなぁ!!」
隼人はその言葉とともに晃平に向かって走り出す。
それに対して晃平は向かってくる隼人に魔術を放つ。
「おせぇよ」
それをあっさり躱した隼人は刀を晃平に振り下ろす。
ズシャッと肉の斬れた音を出しながら赤い血が飛び跳ねる。
「んだよ。お前弱いな。興ざめだぜ」
「一人で行くなと言ったろ」
その時晃平の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
その姿をみた隼人は目を見開いた。
「て…テメェ…」
「久しぶりだな、隼人」
その人物は俺が殺したいほど憎んだ俺の元父親だった。
その頃氷華は自宅で夕飯の準備をしていた。
(今日はカレーでいいか)
そんなことを考えながら氷華はテキパキと料理をこなしていく。
その仕事ぶりはプロも顔負けだ。
そしてあっという間にカレーは完成した。
そのカレーを味見して多少味を整えた氷華はあの二人が帰ってくるまでぼーっとテレビを見ている事にした。
その時遠くの方で大きな魔力を感じた。
一つは隼人のものでもう一つは知らない人物のものだった。
そのまわりには二つの魔力があるがそんなにたいした大きさではなかった。
氷華は急いで戦闘の準備をして自宅を出た。
氷華は人の家の屋根を飛び移りながら疾走していく。
このペースなら後十分しないで着く。
そう思った瞬間空間に亀裂がはいり穴が出来てそこから魔獣があふれ出した。
「面倒だ」
氷華は神器霜七草を取り出して一気に魔獣達を氷漬けにしていく。
この狼のような姿をした魔獣達はそこまで強くはなかった。
やがて全てを凍り尽くすと再び走り出そうとした。
しかし、目の前に男が立っていた。
「久しぶり。いや~強くなったね」
「お前は……ジャック!」
氷華の前に現われたのは観音寺家の裏切り者のジャックだった。




