第三十五幕
気が付くとリビングは血が飛び跳ね赤く染まっていた。
足元には外道二人の死骸が横たわっていた。
どうやらこの赤い線は斬る事でそのものを殺せるらしい。
例えば人の右腕にある赤い線を斬ればその右腕は二度と動かない。
胸の部分にある赤い線を斬れば即死するという死神族の能力の頂点ともいえる力だ。
何故なら他の死神族は線のようにピンポイントではなくてもっとあいまいで見にくいらしい。
私はこの村の人達全てを殺そうと外に出ようと振り返った。
すると目の前にガタガタ震えているセリアが座っていた。
大方なかなか来ない私を迎えに来たのだろう。
「ア…シュリー…?」
「死にたくなかったら両親と一緒にこの村から出て行って」
私が近付くとセリアの顔はさらにひきつった。
「なんで…?アシュリー…」
「早くしないとあなたたちも殺す」
私はセリアを冷たく突き放す。
セリアは立ち上がって走りさって行った。
(それでいい。あの人達はなるべく殺したくない。今の私は何をするか分からないから)
私が外に出ると村人たちが武器を持って待ち構えていた。
「この禍々しい魔力はやっぱり貴様か!」
私は右手を天にかかげると刀身が白い大きな鎌が降ってきた。
「そ、それはデスイーター!?」
「何故ここに!?」
「封印された筈じゃ!?」
村人達がざわめく。
私は鎌を手に取るとものすごい魔力が私に流れ込んで来た。
そしてその鎌はとても手に馴染んだ。
まるで昔から使っていたかのように。
重さも感じない。
これなら目の前にいる奴等もそれほど苦労せずに殺せる。
さぁ、あとはただ命の線を断ち斬っていくだけ。
「アシュリー!!」
その聞き覚えのある声のした方向を見るとそこには逃げた筈のセリアがいた。
その後ろには彼女の両親もいた。
セリアは私の方を見ると急に吐き気を催し始めた。
それは当たり前の反応だ。
何故なら私は村人のほぼ全員の遺体が山積みになっている場所の頂上に立っていたのだから。
「アシュリー…何故こんなことを…」
セリアのお父さん、ケビンが話しかけてきた。
「復讐です」
「復讐?君の両親の事かい?でもそれは――」
「それだけではありません。私を騙して教団に売り渡そうとした件も含めてです」
それを聞いたセリアの両親は驚いている様子だった。
「そんなこと…聞いていない…」
「そうですか、だったらなおさらあなたたちを殺したくない。今すぐ村から出て行って」
しかし、両親は鎌を構え始めた。
「セリアは下がってなさい」
「アシュリーを殺さないで!!」
セリアの顔は青白くなっており涙を流しながらも私の身を案じてくれた。
「大丈夫。だから下がってなさい」
「…はい」
セリアを後ろに下がらせ完全に戦闘体勢に入っていた。
「聞こえませんでしたか?今すぐ―」
「悪いがそうはいかない。悪い事をした子どもを叱ってやるのが大人の役目だからね」
私は仕方ないと心の中で呟いた。
私は死体の山から下りて鎌を構える。
「じゃあ死んで」
私が走り出すと同時に二人も走り出す。
激しい金属音が人気のない村に木霊する。
流石に夫婦だけあってケビンとマリアのコンビネーションは絶妙だった。
この二人はかなりの実力者、本気で殺しに行かないと勝てる見込みは低い。
一進一退の攻防が繰り広げられる。
私がこの二人相手に戦えているのは死神の力だろうか。
私は振り下ろされるケビンの鎌を受け流して鎌を振るうが左手を少し抉っただけだった。
私は一旦距離をとり息を整える。
「大丈夫!?」
マリアがケビンの元へ駆け寄る。
「かすり傷だが……左の肘から先の感覚がない」
「そんな……」
これがアシュリーが恐れられた理由。
ただのかすり傷で人を殺せる最凶最悪の力だ。
「作戦がある…耳を貸せ」
二人は何やら作戦会議をし始めた。
だがそれが終わるのを待っているほど私は甘くない。
私は二人に向かって走り出した。
その時作戦会議が終わったのかケビンもこっちに向かって走り出した。
私は鎌を振り下ろすがそれを躱され右の死角からケビンの鎌が迫る。
私は体勢を低くして躱す。
再び金属音が響き渡る。
ケビンは左手を使えないのにさっきよりも動きが良かった。
だが左手を使えないならバランスが悪く隙も出来やすい。
私は左手を躊躇なく狙う。
それをケビンは鎌で防ぐが、その時に隙が出来た。
私は防いでいた鎌を持った右手を蹴りあげる。
そして完全に無防備になった腹部に鎌を突き刺そうとした。
しかし刃は届かなかった。
私は透明な箱の中に閉じこられていた。
それはマリアの作った結界だった。
「どういうつもり?」
「少しそこでおとなしくしてなさい」
私はだんだんと力が入らなくなっていくことに気付いた。
どうやらこの箱は中にいる人の魔力を吸い取るようだ。
私は鎌を構える。
「壊そうとしたって無駄よ。その箱は物理攻撃は効かないようにしてあるの」
私はただ黙って鎌を振り下ろした。
そして透明な箱の壁にうっすら切れ目が入りそのまま砕け散った。
「何故!?物理攻撃は無効化するようにしてあるのに」
箱が壊された事によりマリアはかなり動揺していた。
「壊したわけじゃない…殺しただけ」
私の眼には生物だけでなく魔術や目に見えないものなどの線も映る。
だからこの箱を壊す事なんて造作もない。
打つ手のなくなったこの二人を後はサクッと殺すだけ。
「マリア!セリアと逃げろ!」
「でも…」
「早くしろ!!」
自分の夫の覚悟を感じたのか涙ながらにマリアは走り出した。
「アシュリー…君はもう戻れないのか?」
「無理。私はもうアシュリーじゃなくてただの名もない死神だから」
私は鎌を振り下ろした。
「セリア!逃げるわよ!」
「でもお父さんは?」
「いいから早く!じゃないと…」
「逃がさない」
私が鎌を横に振るうとマリアは間一髪それを躱した。
しかし躱しきれずに頬をかすった。
「セリア!逃げなさい!!」
しかしセリアは恐怖のあまり足が震えているため一歩も動けなかった。
「アシュリー!もうやめて!お願い!私はどうなってもいいからこの子だけは……」
次の瞬間鎌はマリアの体を突き抜けていた。
「あああああ!お母ぁぁさんー!」
セリアが駆け寄るがマリアの目にはもう光は映っていなかった。
「どうして!?どうしてお母さん達を!?」
私は問いには答えず歩き始める。
「許さない…地の果てまでアンタを追って絶対殺してやる!」
私はその言葉を聞きながら村を出た。
「どう?思い出した?」
頭の中に映っていた光景が消えた。
「この記憶は虚無のデータベースに残っていたのよ。つまりアンタは忘れたんではなく奪われたのよ」
「この魔法は隼人の記憶を皆に見せた魔法とにているね」
正一は隣りでそう呟いた。
「思い…出した…。私…は…」
「さてじゃあやりますか。構えなさい」
しかし刹那は鎌を構えようとしない。
「何?急に罪の意識を感じて死んで償う気でもなった?」
刹那はただ黙っている。
「戦いなさいよ。それじゃあ今までの努力が無駄になる。それに私の怒りがおさまらない」
「………」
「あ~そう。分かったわ……なぶり殺してあげる!!」
セリアは二つの少し小さめの鎌を取り出した。
そして峰の部分で刹那を殴り付ける。
刹那は何も手を出さず防ぐわけでもなくただ食らっている。
その光景がどれくらい続いたのだろう。
実際は三分くらいかもしれないがとても長く感じた。
刹那の顔は痣が出来て血だらけだった。
「もう死ね」
セリアが鎌を振り下ろそうとした時俺は叫んだ。
「この馬鹿!!」
セリアの手が止まり恨めしそうにこっちを見てくる。
刹那も首をこっちに傾けていた。
「テメェはアシュリーじゃなくて刹那だろうが!つーか罪を償うなら死ねんじゃなくて生きて償いやがれ!!」
すると刹那の目に光が宿った。
セリアはその事に気付き後ろに下がった。
「……私は…アシュリー…でも…名もない死神…でもない…私は…刹那…まだ死ねない…」
刹那が鎌を構える。
「いいわ…それでこっちも殺し甲斐があるよ!!」
セリアはニタァと笑いながら刹那に向かって走る。
刹那もそれを迎え撃つ。
そしてお互いの鎌がぶつかりあった。




