第三十幕
目を覚ますと白い天井が見えた。
「起きたか?」
声のした方向を見るとそこには椅子に座っている氷華がいた。
「ここは?」
「病院だ。待ってろ今リンゴでも剥いてやるから」
俺は氷華がリンゴを剥いているのをぼーっと見ていた。
この少女はかなりの美少女だ。
美しい黒髪のショートカットヘアーで大きすぎず小さすぎずちょっとキツめの目、整った顔立ち、さらには綺麗なボディラインとまさに完璧だった。
世の男どものほとんどは魅了されるだろう。
そんな少女が命懸けで戦ってるなんて不条理だなと俺は思った。
「ほら、剥けたぞ」
俺は渡されたリンゴをシャリシャリと食べていく。
「じゃあ私は学校に行くから寝てろよ」
そう言われて初めて気付いたが氷華は制服姿だった。
「つーか俺何日寝てた?」
「三日だ。まぁそれほど深いダメージを食らったわけだ。だからちゃんと寝てるんだぞ」
そう言って氷華は病室を出て行く。
五分後。
「つまんねぇ……」
いつも起きろと言われても寝ているのに寝てろと言われて起きている身勝手な男が病院の屋上のベンチに座っていた。
何をするでもなくぼーっと空を見ていると、
「ごきげんよう」
「は?」
変わった挨拶をする人物を確認するために振り向くとそこには少女がたっていた。
少女の年齢は少し自分より年上か同じくらい。
髪は腰に届くくらい長くて鮮やかな金色だった。
背は少し小さめで刹那より若干大きいくらいだった。
「あなたはここに入院している人かしら?」
「あ?そうだけど」
「ここで何してるの?」
「別に…つーかテメェ誰?」
「私?私はシオン・クロッカス。まぁこの病院のちょっとした関係者よ」
シオンは俺の隣りに座った。
「なにか用かよ?」
「別にあなたとお話ししようかと」
「別にテメェと話す事はねぇよ」
「いいじゃない。暇なんでしょ?」
俺はめんどくせぇからさっさとその場から立ち去る。
「どこ行くの?」
「もう飯の時間だから戻る」
「せっかく私の家に招待してご飯を食べさせてあげようと思ったのに。病院のはあまり美味しくないでしょ?」
俺は無言で振り返る。
「あら?病室に戻らないの?」
「早く案内しやがれ」
フフフと笑ってベンチから立ち上がった。
「じゃあ行くわよ」
俺は黙ってシオンの後ろについていった。
放課後私は病院に行く準備をしていた。
すると玄関の扉が開く音が聞こえた。
氷華は身構えながらゆっくりと玄関に向かう。
そこに居たのは私の母の下村零華だった。
黒い少し長めの髪に大きな目の母は久しぶりにも関わらず昔と変わらぬ美しさだった。
「母様!?」
「ただいま。氷華」
「なんで母様が?」
「ちょっと近くに来たからね」
そう言ってリビングに上がる母。
私はキッチンに行きお茶を入れる。
「学校はどう?」
「最近はあんまり行けてなくて」
それからいろいろな世間話を始める。
久しぶりに母と過ごす時間は楽しかった。
「あっ、もうこんな時間!じゃあ本題に入るわね」
「本題?」
「あなたに渡したいものがあるの」
空間に穴が開く。
そういえば母様は魔術師タイプだったなと思い出す。
術師にはいろいろなタイプがある。
代表されるのは武器を使い己の肉体に魔力を流して強化して戦うタイプと魔力を魔術として戦うタイプ。
そしてその双方を兼ね備えたタイプ。
母は完全な魔術師タイプだ。
「これよ」
穴から取り出したのは布で包まれた長い棒だった。
そしてその布をとる。
その長い棒の正体は刀だった。
「これ…は…?」
その刀から発せられる神々しい雰囲気に息を呑む。
「これは神器の一つ。『霜七草』」
「神器…?」
「大昔にとてつもなく大きな力を持った魔獣が世界を支配していた時があったのよ。そしてそれに立ち向かう戦士達に神から与えられたのが神器よ」
「そんなものを私に?」
「そうよ」
「無理です!私にはそんな力ありません。母様がお使いください」
そんな神器と呼ばれる代物を私なんかが所持していいわけがない。
たった三人しかいない枢機卿に選ばれた母様が使ったほうが百倍いい。
「私は刀使わないし…それにあなたしか使えないのよ」
そう言うと母様が立ち上がる。
「とりあえず置いていくから使うか使わないかはあなた次第よ。じゃあね」
そして母様はそのまま玄関から出て行った。
「…病院に行くか…」
病院に入ると看護婦さんたちが慌ただしかった。
「どうしたんですか?」
顔見知りの看護婦さんに何があったが聞いてみた。
「あっ氷華ちゃん!それが隼人君が居ないのよ!!」
「ホントですか!?」
「えぇ。昼ごろから居ないのよ」
「分かりました。私も探してみます」
「お願いね」
私は病院の外へ出る。
(あのバカ!寝てろと言ったのに)
魔力を感じないから戦いに巻き込まれている可能性は低い。
どーせつまんないからどっか行ったに決まっている。
フフフと気味の悪い笑みを浮かべた氷華は隼人を探し始めた。
「ん?ここは?」
目を覚ますとものすごい豪華で大きな屋根付きのベットに寝ていた。
「あら?起きた?」
隣りには裸のシオンが寝ていた。
「テメェ何してんだ?」
「あなたがあんなことしたのにそれはヒドいんじゃなくて?」
俺何かしたか?
確かこいつに連れられて着いた家がものすごく大きい古西洋風の屋敷だった。
そしてそこで出された豪勢な料理を食べて満腹になったから眠くなり寝た。
それだけだ。
「まぁよくわかんねぇけど俺帰るわ」
「…まったくつまらない男ね…」
「うるせぇよ。じゃあな」
早く病院に戻らねーとやべぇなとか考えながら歩き出す。
「…また会いましょう…」
しかし、その声は隼人に届かなかった。
私は急いで病室に入る。
そこには寝そべっている隼人が居た。
「お前と言う奴は……」
「あ?」
「寝てろと言ったろー!!」
隼人のむねぐらを掴んだ。
「んだよ?」
「心配したんだぞ!!」
「……悪かったよ」
隼人はしばらく氷華の説教を受けた。
時は同じくして下村家。
大きな門の前で誰かが立っていた。
暗闇に紛れ顔などがまったく見えなかった。
するとその人物はポストに何かを入れた。
そしてそのまま姿を消した。




