第二十九幕
「あっけなかったな」
拳のまわりのオーラが消える。
「小僧の容体は?」
「しばらくはかかりそうです」
「あの…ありがとうございます」
「ん?何がじゃ?」
「え?いや…助けてもらったので」
「俺は任務を遂行しただけだ」
ガハハハハと笑い出す。
正直何が面白いのか私にはまったく分からなかった。
「あのどれぐらいで完治します?」
まだ涙を浮かべながら治に容体を聞くみのり。
「うーん…半月ぐらいかな?」
そうですかとみのりはその言葉を聞いてやっと安心したようだった。
「しかし一体何故ここに現われたのでしょうか?」
「知らんわ」
正一のまともな質問も一瞬で流されてしまった。
「それじゃあここの調査は教団の者に任せるから先に帰っていいぞ」
言われた通りに私達は先に隼人を連れて病院に向かった。
「後は任せたぞ」
拳たちも教団の調査員たちに任せその場を後にした。
「なんだ?これは?」
調査員の一人が墓石の辺りを探っていると魔方陣のようなものが書かれていた。
「おい、ちょっと来てくれ」
だが、聞こえなかったのか誰も来る気配がなかった。
「おい、何か見つけたから来てくれ!」
少し大きめの声を出して振り向くとそこに仲間の調査員はいなかった。
あったのは真っ赤に染まった墓石と肉片だけだった。
「ほう、その魔方陣を見つけるとはお主相当めざといな」
そう言って朱の世界に立っていたのはそれと対象である真っ白な巫女装束を来た女だった。
「どうした?震えているぞ?」
クスクスと可愛らしく笑う。
ハタから見れば年頃の美少女だと思うだろう。
しかしこの調査員は恐怖しか感じていなかった。
異常な状態である場所に立ちクスクスと平然と笑っていることに恐怖を感じた。
魔力も殺気も感じないのに全身に鳥肌がたっていた。
本能は逃げろと言ってるのに足がすくんでまったく動けなかった。
まさに蛇に睨まれた蛙のようだ。
このままこの女に狩られる道しか残されていなかった。
「そうじゃ!三秒だけ待ってやるぞ」
そして女が三秒を数え始める。
調査員は一目散に走り出した。
走りながら呪文を唱える。
三秒でこの化物から逃げられるわけがない。
なら自分も術師なのだから逃げる隙ぐらいは自分で作ってやると考えていた。
「にい〜さーん」
女が数え終わると同時に術を放った、筈だった。
術は放たれずに視界がグルグル回る。
この女は調査員が術を放つ前に首をはねていた。
調査員の首から噴水のように赤い体液が飛び散る。
「さて、魔方陣を隠しておくかの」
魔方陣に手をかざすと魔方陣は何もなかったように消えた。
そしてこれからどうしようかを考えていると女の体が吹っ飛ぶ。
そして墓石に激突する。
「やはりな、戻ってきて正解だったな」
ものすごい一撃を繰り出したのは拳だった。
後ろには治もいた。
「ほう、よく分かったの。気配も魔力も殺気も出さないようにしていたのだが」
「完全に殺すのは無理だったな」
「流石はベルセルクと言ったところかの」
拳もこの女の強さを感じとっていた。
まわりの調査員を殺したのは恐らくこいつだ。
だが、本当にわずかしか気配を感じなかった。
しかも、さっき思い切り殴った筈なのにまったくの無傷だった。
「お前は何者だ!」
そう言うとオーラを込める。
それは先ほどとは比べ物にならないくらいのオーラの量だった。
「わらわは九尾じゃ。九尾のスミレと言う」
「なに!?」
魔獣とは裏業界での呼び名で、表では一般的に妖怪と呼ばれる。
九尾の妖狐は最高位の妖怪。
トップレベルの術師数人がかりでないと倒せないレベルだ。
「まぁわらわは戦う気はない。そちらから攻撃してこない限りな」
「ふん、そう言ってはいどうぞと逃がすと思うか!」
右手に炎のオーラを込めて思い切りスミレの顔面を殴る。
しかしそれをまともに受けて平然として笑みを浮かべている。
「どうした?この程度か?」
次の瞬間、拳は五十メートル先の塀に激突していた。
「お主はわらわに攻撃するのか?」
「いや、私はサポート役なので拳様が戦っている時でないと力を発揮しないので」
「なめるなぁぁー!」
スミレに重い一撃がヒットする。
そしてその拳圧でまわりの墓石が吹き飛んでいく。
「ほう、まだそんな力を隠しておったか。思わず尻尾を出してしまったわ」
スミレはそのこぶしを大きな尻尾でガードしていた。
「拳様…武神モードに?」
「全力でやるぞ。援護しろ!!」
「ハッ!」
拳のまわりのオーラがさっきより十倍以上に膨れ上がる。
そして両腕に変化が現われた。
灰色に腕は変化して堅そうな甲羅で覆われた。
「お主魔業まで使えるのか。面白い。遊んでやるぞ」
「ベルセルクをなめるな!」
一気に間合いを詰めて殴りかかるがそれを尻尾で防がれる。
拳が超高速移動しながら連打し続ける。
しかしスミレもガードし続けていた。
「治!!」
「倍加の術」
拳のオーラがさらに倍増する。
「強化系呪文で援護するとはの」
尻尾が二本現われると激しい肉弾戦が繰り広げられ始める。
「飽きたのう」
尻尾を思い切り振る。
拳は吹き飛ばされるがなんとかとどまった。
「そろそろ終幕にするかえ?」
「悪いが終わりなのはそっちだ」
「螺旋風」
治が呪文を唱えると拳のこぶしに竜巻状の風がまとわりつく。
そして炎が燃え上がる。
「食らえぇぇぇい!」
風の力により威力が上がった炎のこぶしがスミレに直撃し辺り一帯が燃え上がる。
そして距離をとる。
これで殺ったとは思わない。
だが、次で仕留めるために様子を見ている。
「終幕じゃ」
スミレはすでに拳の後ろにいた。
そしてスミレの尾の一つで体を締め上げられる。
「ぬぅぅぅぅぅ」
バキバキと骨が軋む音が響く。
「拳様!!」
「来るな!」
拳を助けに行こうとしたがその声により動きが止まった。
「遅いわ……ボケ…」
「悪いな」
スミレが一瞬早く気付き拳を放し後ろに下がると目の前に鉄の板が横切る。
「ちっ避けられたか。大丈夫か?拳」
「遅いわ。玄三」
拳を助けたのは身の丈ほどある長方形の鉄の板のような大剣を持った玄三だった。
「お主は何者じゃ?」
「ベルセルクNo.2下村玄三」
「No.2か…。それはちとキツいの。わらわは逃げる事にするかの」
そう言うとスミレは青い炎と共に姿を消した。
「ぐっ!」
拳のオーラが消えその場に倒れこむ。
「拳様!」
すぐに治が駆け寄り治療を始めた。
「お前が救援を頼むなんてな」
「俺は命は惜しいんでな」
「そうか」
まぁ確かにあの敵は相当やばかった。
三人がかりでも勝てるか分からなかった。
まったくなにがキツイだ。
尻尾も二本しか出してなかったし全然本気じゃなかった。
アイツらはここに何しに来たんだ?
「どうだ?この後久しぶりに一杯?」
治療を終えた拳が手で飲む素振りをしながら誘ってきた。
「いいね〜行くか〜」
まぁ難しい事は考えなくていいか。
こうして三人は繁華街に消えていった。




