第二十六幕
「はぁ、はあ、危なかった…」
纏っていた氷は崩れさり地面に膝をつく氷華。
かなりの魔力を消費したのでしばらくは動けないだろう。
「まぁ…ゆっくり帰るか…」
敵も倒したし。
しかし私が神に選ばれたってどういう意味だ?
「帰さないよ」
聞こえる筈が無い声が後ろの氷塊の中から聞こえた。
恐る恐る氷華は振り向くと大きな氷塊は溶けて光を纏ったジャックがただ悠然として立っていた。
「危なかったよ。このバリアがなかったらね」
纏っていた光が消える。
「さぁ、終わりだよ」
銃を構えて光弾を放つ。
その光弾をまともに受けた氷華は地面に伏していた。
「くっ……」
もう氷華は指一本も動かなかった。
後はただ死を受け入れるのみ。
「僕の銃術の一つを見してあげるよ」
黒光りした魔銃を構える。
「クロノトリガー」
そしてその言葉と同時に銃口からジャイロ回転をした光線が放たれる。
ゴオオオという轟音を出しながら氷華に迫る。
(すまない、私はどうも帰れそうにない…)
そして氷華はドーン!という爆音と共に光に包まれた。
「あ〜あ、つい殺しちゃった」
舌をペロッと出して帰ろうと歩き出す。
その瞬間背筋に悪寒が走る。
そしてジャックを殺気が囲む。
「なんだ…これ…?動けない……」
そのまま片膝を地面につく。
これはあの少女か?
いや違う。
あの少女にこんな殺気が出せるわけがない。
じゃあ誰だ。
後ろを振り向くと氷華を庇うように立っている少女がいた。
後ろで氷華は気を失っているようだ。
「アンタ誰…?」
ジャックの頬に冷や汗が流れる。
「私?私は立浪想と申します」
「立浪…想…あぁ。あの化物当主ね」
ジャックは銃を構えて戦闘体勢にはいる。
「邪魔する気?」
「この子は大切なかけらなので死なせる訳にはいかないの」
想は鉄扇を開く。
カランカランと空き缶が転がるのを合図に両者とも走り出す。
ジャックは光弾を放つが想はそれを簡単に躱し距離を詰める。
「なっ!はやっ!」
右手の鉄扇を振るう。
それを剣で防ぐ。
今度は左の鉄扇が振るわれるが辛うじて後ろに跳んで飼わす。
そのまま想の追撃が始まりジャックは防戦一方だった。
次第に鉄扇がかすり始め傷が出来始める。
「このっ!」
光の剣をがむしゃらに振るいなんとか距離をとる。
「確かにアンタ強いね」
銃を想に向ける。
「ビートトリガー!」
流星のような光線がいくつも放たれる。
それを想は鉄扇で防いでいる。
ジャックは笑った、想のすぐ真後ろで。
「終わりだ!クロノトリガー!」
ものすごい光が想を包み辺りを吹き飛ばしていく。
ジャックは一旦距離をとり光弾を放ち続ける。
やがて発砲をやめて無残な死体を見てやろうと爆煙が晴れるのをニヤニヤしながら待っていた。
するとニヤニヤしていた顔が急に青ざめていく。
そこにはまったく無傷しかも服に汚れすらない綺麗なままの想が立っていた。
「なんで……?…この化物め!」
「椿の舞」
ジャックは次の光景に目を疑う。
想の姿が増えていく。
ざっと五十はいる想がまわりを囲んでいく。
分身というのは魔術ではない限り単なる高速移動だ。
ここまで早く動けたのなら俺なんて瞬殺だった筈。
これは戦いではなくて単なる狩りだったんだあの少女にとっては。
分身した想が一気に襲いかかる。
ジャックは一瞬で切り刻まれた。
隼人は廃工場まで急いでいた。
さっきものすごい爆発音が廃工場の方から聞こえた。
あの少女を死なせたら皆が悲しむ。
俺のせいで死なせるわけにはいかない。
隼人は速度さらに上げた。
「うっ…」
「まだ息があったの?」
血まみれになったジャックを見下ろす想。
その顔は冷徹で殺人鬼のような殺気を醸し出していた。
想はトドメを刺そうとしたした時急にジャックの姿が消えた。
「!?」
「悪いが、こいつを死なせるわけにいかないのでな」
空から声がする。
「またいずれ会おう。立浪家当主よ」
まったく察知されずに瞬間移動させるなんて相当な実力者だなと思いつつこの少女をどうするか。
まだ気を失っている少女をほっとくわけにはいかない。
「想姉?」
振り向くとあの時の少年が立っていた。
「あの男は?」
「逃げたよ」
「そいつをどうするつもりだ?」
「別に今は何もする気ないよぉ〜」
やんわりとした感じのいつもの想に戻る。
「そうやってまた誤魔化しやがってじゃあいつ手を出すんだよ!」
「世界が崩壊する時」
「は?」
「じゃあね」
想は歩き出す。
「ちょっと待てよ!」
「早くその子連れて帰りなよ。私に構ってる暇があるんならね」
手をヒラヒラさせながら立ち去ろうとする想姉。
「まだ想姉って呼んでくれるんだね」
「え?」
次の瞬間強い風が吹いたとともに想姉の姿は消えていた。
「うーん…」
私は目を覚ますと隼人の顔が目の前にあった。
「ひゃああ!」
「おい!暴れんじゃねえよ!」
私はなんとか落ち着きを取り戻す。
「アイツは?お前が倒したのか?」
隼人は静かに首を振る。
私は何故かそれ以上聞くことが出来なかった。
隼人が無言で拒否をしていたのが分かったからだ。
私も自然と無言になる。
無言になると余計なことを考えてしまう。
今の状態は隼人に抱えられている。
いわゆるお姫様抱っこだ。
私の顔が熟れたトマトのように赤くなる。
「ん?どうした?」
「なんでもない…」
私は道中恥ずかしさに耐えながら早く家に着くのを願うばかりだった。
「無様だな…」
「はぁ、はぁ、うるさいな!」
ジャックと誰かが暗闇の中で話している。
「まぁ私が戦ってもこうなっていたがな」
「………はぁ、はぁあの女殺してやるよ!」
「冷静になれ。あの女は我々の力ではまだ勝てない」
そう、まだな、と付け足して姿を消した。
「遂に動き出すのか…」
あれから数日後。
私がリビングに行くと隼人はテレビを点けっ放しで寝ていた。
そういえばあの由衣って人過去にも出てこなかったな。
誰なんだ一体。
ぼーっとテレビを見る。
テレビでは恋愛物をやっていた。
こんなのを隼人が見ているのか?
まさか…な。
「由衣!お前の事が好きだ!」
「隼斗君!」
ん?
今由衣って…確かあの時もテレビがついていたな。
それに服装も私と似ている。
まさか…な。
「由衣!」
寝ぼけているのかまた私に抱き付いてきた。
「まさか…本当に寝ぼけていただけとはな」
怒りで体が震えている。
「起きろこのバカ!」
隼人はとんでもない勢いで吹っ飛んでいった。
その後しばらく隼人は目を覚まさなかったそうだ。
感想や評価を書いてくれると嬉しいです。 辛口でもいいです。でもあまり辛口が多過ぎても私がめげてしまうかも…




