第十九幕
「なんだ?真っ暗になったぞ」
氷華の声が響く。
「関係ない所は飛ばしているんだよ」
「つーか俺の記憶を映してんのに俺の知らない事があるぜ」
「これは隼人君の記憶を媒体に過去を見る事が出来る魔法だからね」
「ふーん」
「あっそろそろ始まるみたいだよ」
辺りが白くなり始めた。
伽音が家に来てから三か月。
もう肌寒い冬の季節だった。
俺と伽音はいつも通りの修行をこなしていた。
すると母さんが道場に入ってきて
「お茶にしない?」
と言ったので俺達は一休みする事にした。
俺はお茶を飲みながらそういえば一回も聞いた事なかった事を聞いた。
「そういえば母さんって術師なの?」
「うーん…ほとんど普通の人かな」
ニッコリと微笑んだ。
「じゃあなんで隼人と許婚になったんですか?」
伽音が会話に入ってきた。
その事を聞くって事は俺じゃやっぱり嫌だったって事かな。
「伽音ちゃんのお父さんと同級生だったのよ」
「それだけ?」
「そう、それだけ」
母さんへの質問タイムが終わりまた修行へと戻る。
俺も大分強くなってきて伽音ともいい勝負をするようになってきた。
あっという間に時間は過ぎ、夜になったので修行は終わりになった。
俺は風呂に入り体の疲れを癒す。
そんでもって夕食を十分に食べて自分の部屋で寝よう。
そういう風に風呂の中で考えていた。
風呂から上がるとちょうどよく夕食が出来上がっていた。
「いただきます」
皆がそろい夕食が始まる。
「修行はどうだね?」
「あっ、はい。いい感じだと思いますよ」
そうかと父さんは言うとそれ以降何も話さなかった。
「隼人は伽音ちゃんとの修行が楽しみで毎朝早く起きてるのよ」
「か、母さん!」
「ふふ、ごめんなさい」
笑顔で茶化され俺の顔は真っ赤に染まる。
伽音を見ると伽音も真っ赤だった。
「ごちそうさま」
俺は逃げるように部屋に行った。
そしてベットに寝転がりふとカレンダーを見る。
今日は十二月二十三日、いわゆるクリスマスイブイブだ。
あっなんか眠くなってきたわ。
寝よう。
そう思った時、ドアがノックされた。
「……はい」
扉を開けて入ってきたのは伽音だった。
「今いいかな?」
「ん…いいよ…」
すごく眠いけど少しくらい我慢しよう。
「明日暇かな?」
「ん…暇…だよ」
やばい、意識がはっきりしてねぇ。
眠い。
「もし良かったら……あの……で、デートしない?」
「ん……いいよ…」
「本当に?じゃあ明日ジュールパークに八時ね?わかった?」
「ん…」
「それじゃあおやすみ!」
伽音が何か言って出て行ったので俺は今度こそ寝た。
「起きなさい!」
バチンと頬を叩かれ目が覚める。
「いってぇー。何すんの母さん」
「あなた伽音ちゃんと遊園地行く約束したでしょ!?」
「あっそういえばそんなこと言ってたな」
「伽音ちゃんもう十分ぐらい前に行っちゃったよ!」
「つーか今何時?」
「七時四十分」
「やべぇ!!」
俺は急いで着替えを済ませて家を出る。
全力でジュールパークまで走った。
「わりぃ」
ジュールパークに着くと入口で彼女が待っていた。
「もう遅いよ〜」
「ホントにゴメン!」
俺は体を折り曲げ頭を下げる。
「もういいよ。早く行こっ?」
伽音は俺の手をひいてパーク内に入っていった。
「最初どうする?」
伽音はうーんと考え始めてあれがいい!と指を指したのは最恐最悪のジェットコースターだった。
「……あれに乗るのか?」
俺はゴクリと唾を呑んだ。
「え?ダメかな?怖いなら止めとくけど」
残念そうな顔をする伽音を見ると嫌だと言えなくなったし、それに男としてのプライドもあった。
「こ、怖いわけねぇだろ。伽音が大丈夫なのかなーって思っただけだ」
すると彼女はニッコリと笑った。
「じゃあ行こ」
その時の笑顔は悪魔のように見えた。
下で並んでいるときに上を見上げるとますます俺の恐怖心を煽った。
いくつかの山谷のレールで形成されているこのジェットコースターは山の高さはそこらのビルよりも高く落ちる角度はほぼ垂直だった。
「顔が青いよ?どうしたの」
伽音が俺の顔を覗き込んでくる。
俺は慌てて顔をそらしてなんでもないと答えて他愛のない世間話に話題を変える。
そうしているうちに俺らの番がきてしまった。
「出発しまーす」
係員の明るい声で俺は地獄へと送り出された。
そしてゆっくり山を上る。
「うわぁ!楽しみだね!」
伽音は満面の笑みを浮かべる。
そして山の頂点につきそのまま下降の体勢にうつる。
そして一気に落ちた。
「きゃぁぁぁ!」
伽音は楽しそうに笑っている。
「ムーーーリだぁ!!!ぎゃあああああ」
俺はもう何がなんだか分からなくなった。
気が付くと俺はベンチに座っていた。
隣りには伽音が座っていた。
そうだ。
俺あれから絶叫系に乗せられ続けたんだ。
「私なんか買ってくるね」
そう言って屋台に走っていった。
ぼーっと空を見ていると隣りに綺麗なお姉さんがやってきた。
「メリークリスマス」
「どうも」
「彼女さんかわいいね」
「え!?いや彼女じゃないし」
「いいの、いいの。照れなくて」
この人の笑顔には不思議な魔力があるみたいだ。
不思議と落ち着く。
「お姉さんもこんなとこに一人で居ないで彼氏のとこでも行きなよ」
その時お姉さんがキョトンとした顔になる。
俺は白く透明感のある肌に見とれてしまった。
お姉さんはすぐに笑顔に戻った。
「私はお姉さんじゃなくておばさんって呼ばれる歳だよ?」
「え!嘘だ。そんな歳に全然見えないし」
「ホントだよ。でも嬉しいな。そうだ!クリスマスプレゼントをあげよう」
そう言うと立ち上がって天に手をかざした。
「私からのホワイトクリスマスだよ」
そう言うと急にまわりの温度が下がり雪が降り始めた。
「え!?すごい…」
しかし隣りを見ると女の人の姿はなかった。
「隼人おまたせ〜。すごいよ!ホワイトクリスマスだよ!」
伽音は興奮して戻ってきた。
「あぁ、そうだな」
俺らは伽音が買って来たものを飲み食いした。
「じゃあ最後あれ乗ろう?」
指差したのは観覧車だった。
「いいんじゃね」
俺らは並んだがそこまで並んではなかったのでスムーズに乗れた。
中に入るとゆっくりと上り始めた。
「うわぁ!きれいだね」
外を見ると街の明かりが星みたいに見え、雪が照らされているのはロマンチックだった。
「……ねぇ隼人…」
「ん?なに?」
「私さ…隼人の事好きだよ」
「え!?」
「隼人は許婚の事嫌だ?私もあまり印象良くなかったんだ」
伽音はこっちをまっすぐに見ていた。
「でもだんだんと過ごしているうちに好きになっちゃったんだ」
ほんのりと伽音の顔が赤くなっている。
「お、俺は…」
何か言わなければそう思ったが幼かった俺の頭じゃ何も浮かばなかった。
「今返事を言わなくてもいいよ。いつか隼人の気持ちに整理がついたらでいいから。だけど私の気持ちは知っといてほしかったの」
それから観覧車の中は無言になった。
けれどもジュールパークを出たらいつも通りになっていた。
俺らは他愛のない話をしていたら家に着いた。
しかし家の電気はついてなかった。
「みんなで何処か出かけたのか?」
「そうかもね。クリスマスイブだしね」
俺は携帯電話をとりだした。
みのりにどこにいったのか聞こうと思ったからだ。
携帯を見るとみのりからの着信がたくさんある事がわかった。
「出かけるから食べてこいっていう電話か?」
俺は残っていた留守電を聞いた。
「………………兄様!今どこ!?早く来て!!」
なにやらみのりは焦っているようだ。
「母様が…母様が…死んじゃった……」
その言葉を聞いた俺は携帯を落としてしまっていた。
平和な日々が崩れ始め、運命の歯車が回り始めた。




