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第十八幕

「紹介するわね。この子が観音寺伽音ちゃん。あなたの許婚よ」


「よろしくね?隼人」


目の前には笑顔の母さんと伽音がいた。


「いや、ちょっと待った。俺はまだ納得してないぞ」


「私じゃダメ…かな?」

涙を浮かべた大きな目で見つめられるのは俺には耐えられなかった。


「いや、そういうわけじゃ…」


「ありがとう〜隼人〜」

満面の笑みを浮かべる伽音。


さっきのは嘘泣きか?


「まぁあなた強くなりたいって言ってたでしょう?伽音ちゃんすごく強いから稽古つけてもらいなさい」


母さんはそれだけを言うと買い物に出かけてしまった。


するとみのりが部屋に入ってきて伽音のそばに近寄った。


「私炎磨みのりです。よろしくお願いします義姉様」


「うん、よろしくね、みのりちゃん」


つーか義姉様ってなんだよ義姉様って。


「あっそうだ!私今日からしばらくはここに泊まるつもりだから」


よろしくね、と顔を俺に近付けて言った後パタパタと何処かへ行ってしまった。


「よかったね、兄様」


「何がだよ!」


俺は心の中でため息をつきこれから先が不安になっていた。



そして父さんが突然入ってきた。


「隼人、みのり。ちょっと道場に来なさい」


「「え?」」














「俺は下村玄三って言うんだ。あっこいつは娘の氷華な!」


道場に行くとそこに居たのは無精髭を生やした中年男性と肌が透き通るように白い女の子だった。

「何をするの?父さん」

「氷華ちゃんと戦ってもらう。二人にな」


「父様、それは」


「氷華ちゃんはお前らよりも何倍も強いぞ」


氷華と呼ばれる女の子は無表情だった。


下村と言えば観音寺と並び名門中の名門という事を小さい頃でも知っていた。


しかし、いきなり戦うのも気が引けた。


「私、やります」


みのりが前に出た。


「よし、まずはみのりからだ。玄三」


「おおよ!」


俺らは端っこに下がる。

そして両者向かい合い木刀を手に持つ。


「始め!」


その合図とともにお互いが走り出した。


そして氷華が刀をみのりに振る。


しかし、みのりは全てを躱す。


「へぇ、あの歳でもうあそこまで視えているのか」


「まあな」


隣りでは父さん達が真剣な眼差しで見ていた。



氷華の攻撃はまったく当たらず空を斬るだけだった。


するとここでみのりが反撃を開始する。


その攻撃を氷華も躱し続ける。


そして木刀と木刀がぶつかりあう。


氷華が一旦距離をとり、居合いの構えをした。


みのりは構わずに突っ込んでいく。


そして間合いにみのりが入った時神速の居合いが放たれた。


しかしみのりは一瞬で後ろにまわっていた。


終わった。


俺はそう思った。


だが、氷華は振り下ろされた木刀を白刃取りした。


そしてみのりの腹部を蹴り飛ばす。


みのりは吹き飛ばされ倒れる。


そして体を起こそうとすると氷華が木刀の先をみのりの首に突き付けていた。


「そこまで」


その合図とともに氷華は木刀を首からどける。


「さぁ次は隼人の番だ」



正直俺はやる気がしなかったのだ。


みのりでも負けた相手に俺が勝てるわけがない。

でも万が一勝ったらって思うとやるしかなかった。


こうなったら意地でも負けらんねぇ。


俺は木刀を手に取り、少女と向かい合った。


「始め!」


氷華が一瞬で俺の前まで距離を詰めた。


俺は慌てて木刀を振り下ろすが、氷華は居合いの構えをしていた。


(やばい!)


俺は辛うじて居合いを躱す。


だが、氷華は居合いの勢いを利用してまわしげりを俺の顔面にくりだした。


俺は横に吹っ飛ぶが何とか体勢を崩さずキープをした。


(ダメだ。今のままじゃ勝てない。どうすれば…)


完全に相手のほうが何もかも上だ。


俺はせめてパワーやスピードぐらいは上回りたいものだった。


そして考え事をしている内に氷華の木刀が頭に直撃した。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!」


俺は吹き飛ばされ壁にぶつかる。


そして俺は俯せに倒れる。


頭がいてぇ。


血がいっぱい出てんじゃねぇか。


戦いてぇ。


勝ちてぇ。


もっと強くなりてぇ。


俺は静かに目をつぶった。


ドクン、ドクンと心臓の鼓動が響く。


体が熱い。


いつの間にか頭の痛みもなくなった。


やれる。


まだ戦える!


俺はゆっくりと立ち上がった。


そして相手を睨み付ける。


しかし今度は負ける気がしなかった。


俺は氷華の後ろにまわる。


「なに!?」


氷華は辛うじて俺の刀を躱す。


俺は猛攻を続ける。


徐々に俺の木刀がかすり始める。




「くっ!」


氷華が苦しそうな顔を浮かべる。


そして氷華を壁際まで追い詰めた。


「終わりだ」


俺は刀を振りかぶる。


しかしその時辺りの空気が冷たくなった気がした。


背筋がゾクッとする。


氷華の目を見るとその目は恐ろしく冷たかった。

その瞬間に俺は死んだと思った。


だが、ふと気付くと俺は父さんに抱えられていた。


前を見ると氷華の刀を片手で止めていた。


「氷華、それは使うなと言っただろ」


「…すいません…父様」

木刀を奪い取っておじさんは俺にゴメンなと謝った。


俺はなんで謝られたのか分からなかった。


俺はとりあえず頭の傷を治療室で治療する事にした。




「氷華ちゃんはすごいな」


「あ?まだまだ半人前よ」


親バカな笑みを浮かべる。


「しかしお前のとこのみのりちゃんも将来良い術師になるな」


「当たり前だ」


「問題は兄のほうか」


「そのとおりだ」


一気に場の空気が重くなる。


「氷華やみのりちゃんは階段を上るのが異常に早い。いわゆる天才だ。だけど隼人君は違う。あの子は階段を飛ばして上る」




「確かにあの子は時々とんでもない力を発揮する」


「そうだな。隼人君は戦いの中で成長するタイプだな。だが、普通は階段を飛ばす奴はそういないんだけどな」


玄三が苦笑いを浮かべる。


「あの子は心の底で戦いを嗜好している。隼人の力は大きすぎて危険だ」

「だからお前はあえてみのりちゃんを次期当主にしたんだな?」


「あぁ」


「まぁこのまま純粋に育ってくれればいいな」


「そうだな」


二人は空を見上げた。










「大丈夫?」


伽音が心配そうな顔で治療室に入ってくる。


「たいした事ないよ」


それを聞いてもまだ心配そうな顔をしている。


「大丈夫だって!ほら傷ももう治ったし」


俺は包帯をとって傷が治っているかを見せた。


それで初めて伽音は安堵した。


「もう心配させないでよ」


「しゃあねーだろ?試合だったんだから」


伽音がリンゴを向き始める。


その作業は一瞬で終わった。


「お前、料理できんのか?」


「お前じゃなくて、伽音」


「…伽音、料理できるんだ」


「まあね」


そうやって剥かれたリンゴをシャリシャリと食べながらぼーっと話を聞く。


伽音はかわいいし、いい嫁になるなぁ。


って俺もそんな馬鹿な事考えんなよ。


まだ認めてないんだから。


「さぁ、食べたらやるよ」


「何を」


正直俺は眠りたかった。

しかし伽音は寝かしてはくれないようだ。


「決まってるじゃない。修行だよ」


「は?」



「だから修行だって」


「え!?ちょっと待てよ」


「稽古してもらえって言われたじゃん?」


俺らは道場に行きひたすら戦った。


俺はボコボコにされた。

「はい、じゃあ今日はここまで」


俺は道場の床で寝る事にした。


「明日から毎日やるから」


……勘弁してくれよ。











このまま他愛のない幸せな生活が続くとその時の俺はそう信じていた。

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