第十七幕
「テメェ、冗談もいい加減にしやがれ」
そう言ってリースの首に刀の先を突き付ける。
「嘘など言ってどうなるでありマスカ?これは本当デス。炎磨みのり様があなたさまに会いたいとおっしゃっているのデス」
「有り得ねぇ!だってアイツは死んだ筈だ!」
「本当は死んでなかったとしたら?」
「なっ!」
「仮死状態だったら蘇生可能デス」
「…………」
「私には感情がありマセン。しかしいろいろな本を読んで学びマシタ。兄妹が会いたいと思うのは当然でしょ?」
「………今行けばいいのか?」
「ハイ」
「わかった」
「待て、隼人!」
行こうとした俺の腕が氷華に掴まれる。
「絶対に罠だ!よく考えろ!」
「罠だろうが行くぜ。だから止めんじゃねえよ!」
俺は腕を振り払い外へ飛び出した。
「お前の目的はなんだ?」
残された氷華がリースに問う。
「私は悪い事をあまりしたくありマセン。しかし命令は絶対なのデス」
「……っ…お前も来い!!」
「しかし!」
「様子を見るだけだ」
そう言って隼人の後を追った。
「ここか…」
例の廃工場に着いて辺りを見回す。
どうやら周辺には敵はいないようだ。
俺は扉を開けて中へ入った。
中には昔の機械がそのまま置かれていた。
俺は慎重に足を進めた。
氷華に言われた通り罠かもしれないからだ。
やがて何もない広いフロアに出る。
「久しぶりだね?兄様」
そこに居たのは昔より成長した妹だった。
「なんで…お前が?」
俺は目の前の光景が信じられなかった。
「私は辛うじて生きてたんだよ!そして治療のスペシャリストによって蘇生できたんだ」
「……本当に……みのり…なのか?」
「そうだよ!兄様」
目の前にある笑顔は昔と変わっていなかった。
その笑顔はいつでも俺を癒してくれた。
「会いたかったよ…兄様!」
走ってこっちに来る。
そして俺に飛び込んで来た。
その時胸の辺りに熱い感覚が走る。
口から何か液体が流れる。
「ゴメンね、にーいさま。さよなら」
俺は背中から地面に倒れる。
見ると胸の辺りにナイフみたいなのが突き刺さっていた。
「がふっ」
口から血が溢れだす。
鉄の味しかしねぇよ。
「なんだよ、お前。そんな簡単な罠に引っ掛かっちまうなんてな」
みのりの後ろから声がした。
だんだんと近付いて来る音がする。
姿を現したのは二十代ぐらいの男で髪は緑色で耳にピアスをしたりとなんかチンピラみたいな奴だった。
「…どういう…事…だ…」
俺にはもう立ち上がる気力がなかった。
「確かにこいつは生きてたけどさ。普通なら今まで虚無にいないっしょ?もう俺ら側の操り人形なのさ!」
ヒャヒャヒャと下品な笑い声が廃工場に響く。
「んじゃ、お前には死んでもらいますか。殺れ」
「はい」
みのりがまたナイフを取り出す。
その表情はまったく感情を表しておらず、人形みたいに冷たかった。
だんだんと近付いて来るみのり。
俺はもう諦めていた。
むしろみのりになら殺されても良いとも思っていた。
やがてみのりが振りかぶる。
そして俺の喉元に突き刺さる。
ハズだった。
みのりと男は距離をとった。
何故なら俺の隣りにはおせっかい女が立っていたからだ。
「だから罠だと言ったろ?」
「……わりぃ…」
「まぁいい。帰るぞ」
「逃がすと思ってんのか?」
男は俺を殺すのを邪魔されたせいか苛ついていた。
「逃げるさ、この馬鹿の怪我を治さないとね」
「みのり」
「はい」
そう言うとみのりが全力で走ってくる。
しかしその前にはサイボーグ女が立ちはだかった。
「みのり様どうしてデスカ?あの人はあなたのお兄様デスよ?」
「リース、退きなさい」
「……はい」
「アンタもう用済みだから消えていいよ」
その言葉を聞いたリースは無表情のままだった。
「では私の好きにしマス」
手首が外れて玉が飛び出す。
その玉から煙が溢れだす。
「煙玉か!?ちっ、みのり!」
「はい!」
しかし、すっかり煙で覆われた工場内に氷華達の姿はもうなかった。
「くそっ、やられた!」
「申し訳ありません」
「ちっ、まぁいいや。ゆっくりやろうや」
二人は廃工場を後にした。
隼人を連れ帰ると皆を家へと呼んだ。
「これはまた重傷だね」
そう言っている正一の顔は真剣な顔とはほど遠かった。
「まったく、隼人君はいつも怪我してばっかだね〜」
「…うっせぇよ」
その時隼人が目を覚ました。
「大丈夫か?」
「あぁなんとかな」
「申し訳ありませんデシタ」
「あ?」
リースはいつもと変わらないたんたんとした口調で頭を下げた。
「私はこんな事になるなんて思ってなかったのデス」
「別に気にしてねぇ」
「なぁ隼人」
私には聞かなければならない事があった。
「お前の妹はなんでああなった?私はお前の過去が知りたい」
それを言うと隼人は機嫌が悪い顔になった。
「……そんなもん知らなくても戦えんだろ」
「あぁ、その通りだ。でも知りたいんだ。そして私達にも背負わせろ」
隼人の顔が唖然としていた。
「私達は仲間だろう?一人で背負うな!!」
「んな事…」
「ウジウジするな男だろう!!」
私の声の大きさに皆びっくりしていた。
しかも私は今隼人の胸ぐらを掴んでいるのだ。
私はそのままじっと隼人を見つめた。
その禍々しい紅い目が今はとても弱々しかった。
「……わかった…でも俺話するの下手くそだから…」
「それなら大丈夫」
正一がピースサインを右手で作って笑っている。
正直ちょっと引いた。
「僕の術で君の記憶を皆に見せてあげるよ?」
「……わかった…頼む」
そして隼人がまわりを見渡す。
「皆いいのか?」
「もちろんだ」
「私もいいよ〜」
「……ん」
「うん」
「私でもいいのであるならば」
「後悔すんじゃねぇぞ」
そして次の瞬間私達の意識が途絶えた。
―五年前―
俺が十二歳、みのりが九歳の時俺は初めて負けた。
悔しかった。
今まで築いたものが全て崩れたような気がして。
どうしたら強くなれるんだ。
そんなことばかり考えていた頃だった。
彼女に会ったのは。
「はぁ?許婚ぇぇぇ!?」
父さんが突然俺に告げた。
それは当主候補失格を告げられた次の日だった。
「どういう事だよ!?」
「そのままの意味だ」
「でもいきなり…」
「あとは母さんに任せる」
そう言うと父さんは出ていってしまった。
「母さん!」
「大丈夫よ!」
「母さん!!」
流石母さんだ。
父さんに説得してくれるように頼もうとした所で悟ってくれたようだ。
「相手の子、かわいいわよ」
「ちがぁぁう!」
結局説得する事が出来ずに明日その子が来るらしい。
俺は明日が来るのが憂鬱だった。
そして次の日。
俺は神経集中の修行をしていた。
坐禅をしていたらなにか視えるかもしれないからだ。
しかし何も見えなかった。
その時後ろから声がした。
「何してるの?」
振り向くとそこには黒い長くて綺麗な髪の少女がいた。
「そんなことしてて強くなれるの?」
「わかんない」
「そっか」
すると少女は隣りに座った。
「何してんの?」
「私も精神統一するんだよ」
そう言って屈託のない笑顔を向けてきた。
俺はついドキリっとしてしまった。
「あれ?どうしたの?顔赤いよ?」
「え!?いやなんでもない」
慌てて俺は顔をそらした。
「あっ、私の名前言ってなかったね」
そう言うと立ち上がって俺の前に回り込んだ。
「私は観音寺伽音。よろしくね」
これが俺と伽音の初めての出会いだった。




