第十五幕
「想姉…?」
デカッチョからの追撃を受け止めたのは最も戦いが似合わない少女だった。
「離れてて」
その言葉はいつものように温かくなくて、無機質で冷たかった。
俺はその言葉に恐怖を感じ想姉の言うとおりにした。
「なんだぁ?また新手か?」
デカッチョがめんどくさそうに呟く。
「当主を呼んできなさい」
さっき不意をついて攻撃をしてきた細っこいほうの男が敵意むき出しで言った。
「私が当主です」
その言葉を聞いて俺は今までのおかしい点に気付いた。
想姉は街の中に倒れていた俺を連れて帰ったと言っていたがあそこは戦場のど真ん中だ。
一般人がいるはずねぇ。
それに俺の傷は重傷だった。
普通の奴なら三か月はかかる傷を二日でふさいで疑問に思わないのはおかしい。
それに想姉言ってなかったか?
俺なら明日には大丈夫って。
つまり俺の力を知ってるって事だ。
一体何者なんだこいつ。
想姉を見ると場は一触即発のムードがただよっていた。
「ほう、あなたが当主ですか。若いな」
「何の用ですか?」
「単刀直入に言おう。虚無に入らないか」
「お断りします」
想姉からは威厳みたいなオーラはあるが殺気はまったく感じられなかった。
「それなりに見返りはあるのだ。調整者全員虚無に入れてほしい」
「お断りします。この敷地から早く出てください。敷地に入って逃がすのは今回だけにします。だから早急に出ていってください」
「兄貴」
デカッチョがボス格の男に許可を求める。
「仕方あるまい。力づくで仲間になってもらう」
そう言うと男は刀を構えた。
三人が想姉に向けて殺気を放つ。
「想姉!」
アイツらはかなり強い。
俺も手伝おうとした所を想姉の手で制された。
「必要ないよ」
彼女が二つの鉄扇を取り出す。
すると一気に想姉の殺気が溢れだす。
ボス格の男が右手をあげる。
すると五十人ほどの黒スーツの男達が現われた。
「いくらアンタが強くてもこの人数は無理だろう?」
ボス格が不敵な笑みを浮かべる。
一人一人が相当な実力をもっている事がその構えを見て分かる。
しかし、想姉はまったく動じずただ前を見る。
「殺れ」
その一言で皆が動きだす。
「舞え、神楽」
何が起きているのかまったく分からなかった。
「一の舞。桜」
そう呟いた彼女は舞を始めた。
その姿は美しくて思わず戦いだと忘れるくらい華麗だった。
そして気付くとあれだけいた黒スーツの男達は肉片へと化していた。
そして血で染まった朱の世界に立っていた想姉は返り血がついてなかった。
「まさか…」
ボス格の男も開いた口がふさがらないようだ。
「くそがぁー!」
デカッチョがハンマーを振り上げる。
しかしそのハンマーが振り下ろされる事はなく、両腕と首がむなしく地面に落ちるだけだった。
「化物がぁぁぁ!」
細っこい男も刀を振るうが一瞬で細切れになってしまった。
「これが…立浪家当主の力…」
「私を力づくで仲間にしたいならボスを呼びなさい」
「保険をかけておいて良かった」
手に何か持つと男の姿が消えた。
テレポーション系の魔具を使ったか。
「逃げられないよ。生きて帰さないって言ったのに」
そして想姉は目を一旦閉じて開いた。
「危なかったな。帰って報告せねば」
生きて帰れた。
それがこんなに嬉しいと感じたのはこの男にとって初めての体験だった。
しかしこの魔具で移動出来る距離は五キロだ。
すぐに追いつかれてしまうと考えて男はアジトに帰ろうとする。
しかし次の瞬間男はひれ伏していた。
上に何かが乗っている感じがする。
しかし上には何もなく、ただただ地面にめり込んでいく自分がいた。
「くそっくそっ!これもあの女の力か!」
この男は後悔していた。
あの時素直に帰っていれば生き長らえたのに。
あれは戦いなんかじゃなかった。
あの女にとっては駆除だったんだ。
そんな事を考えながらぐちゃっという音をだして潰れた。
その姿は車にひかれたカエルのようだった。
「終わったよ」
想姉がこちらを見る。
その目はいつもと同じで温かかった。
俺は緊張をとく。
「終わったって?」
「立浪の力は『引』の力。視界に入った範囲の重力を操るの」
「でもそれじゃあ…」
「私の能力は透視能力。つまり千里眼。半径十キロは私の視界」
つまりこの街を一瞬で潰せるって事だ。
格が違う。
「つーかなんか風みたいなのも使ってたじゃん」
「あれは魔術だよ。魔術と併用する術師なんていっぱいいるよ」
「想姉は…何者なんだ…?」
「私はね―――」
俺は調整者の事や立浪家の事、全て聞いた。
「そうか…」
「やっぱりあんまり昔と変わってないね」
「あ?俺?会った事あったっけ?」
「まぁ覚えてないのも無理ないか。隼君全然変わってないよ。……変わったのはその哀しい目だけ」
「なんだって?」
「隼君の目哀しいよ。だって憎しみしか映ってないよ…」
「は?んな事ねぇよ」
「ゴメンね…」
「なんであやまんだよ?」
「私があの時第一研究所に行っていれば…助けられたかもしれないから…」
自分でも顔の血の気がひいているのが分かった。
「ゴメンね…本当にゴメン」
「いや想姉が謝る必要ねぇし。恨んでるとしたら虚無の奴等と自分の無力さだけだ」
「優しいね…でも違うよ。私が謝ってる理由は」
「は?」
「本当にゴメンね…だって私はあなたを――――――――――――――――――――――――――
――――――殺さなきゃいけないから」
時間が止まったような気がした。
「は?なん…で?」
「あなたの中にいるものは危険すぎる。だから目覚める前に殺す、それだけの事」
その声はあの時のように冷たく、俺の心臓を掴んでいるような錯覚さえ覚えた。
「でも俺がコントロールすれば…」
「無理だよ。人間の力で操るのは不可能なんだよ」
そして腹部に激痛がはしる。
想姉は目の前にいる。
何をされたかまったく分からなかった。
「く…そ…」
意識が薄れる中で見た想姉の顔は無表情だった。
「当主様」
「桜ね?」
「はい」
後ろに姿を現したのは和が似合う大人の女性だった。
「いいのですか?」
「…なにが?」
「見逃す気なんですよね?」
「炎磨隼人はジョーカー。これから先最強のカードになるか、ババになるかは分からない。私は覚醒してデルトロが降臨する一歩手前まで待とうと思う」
「…………」
「ダメかな?」
「いえ、当主様の意思のままに」
片膝を地面に着き頭を下げる。
「そいつは街に私が置いておきましょうか?」
「いやいいよ」
「分かりました」
そう言うと桜と呼ばれた女性は姿を消した。
「この子がどうなろうと私が世界を守る…」




