第十三幕
ここはどこだ?
体中がいてぇ。
俺は死ぬのか?
死にたくねぇ。
「お前はまだ視えていない」
何だ?
これは昔親父が俺に言った言葉だ。
昔の事を思い出すなんていよいよまずいな。
死にたくねぇ。
けど今の俺じゃ確実に殺される。
どうする?
『解』の力を使えれば。
恐らく俺と母さんを除けば炎磨家は皆使えていた。
思い出せあの時の事を。
あれは俺が十二歳の時で妹が九歳の時だった。
妹のみのりに初めて負けた。
俺は術師として千年に一人の天才だ、とも言われていた。
みのりも才はあったが俺ほどではなかった。
初めて負けた組手もスピード、パワー、どの能力値も俺のほうが圧倒的に上回っていた。
しかし床にひれ伏していたのは俺のほうだった。
俺の攻撃はまったく当たらなかった。
かすりはするけどまともに当たる事はなかった。
そしてみのりの攻撃も的確に俺を痛め付けていた。
みのりは無駄がなかった。
「大丈夫〜!?兄様!」
みのりが心配そうに駆け寄る。
「お前…どうして強くなったんだ?」
「世界を視るんだよ」
「世界…?」
みのりが知らないうちに遠くにいるような気がした。
「そう。世界。この世界にはいろんな世界があるよ。兄様の世界、わたしの世界、炎磨家の世界、戦闘の世界。様々な世界をわたしたちは視ることが出来るんだよ」
若干九歳の妹の言う事が理解出来なかった。
「どういう事だ?わかんねぇよ」
「これは教えられるものじゃないよ。気付くものなんだよ。私は縁側でぼーっと空を見ていたら世界の真理が視えただけ」
真理?
小学六年生の俺ですら理解出来ない言葉を使うみのりを見て、なんとなく負けた理由が分かった気がした。
「兄様にも視える日が来るよ」
そう言うとみのりはスキップして部屋に戻って行った。
俺は縁側に寝転がっていた。
こうしていたら強くなれるのだろうか?
幼い俺にはこうするしか思い付かなかった。
「隼人」
起き上がると父さんが立っていた。
「ちょっと来なさい」
父さんに呼ばれる時は悪い事しかなかった。
障子に穴を開けまくった時とか、高価な花瓶でキャッチボールをしていて割った時とか。
とにかく父さんの部屋に行くのが嫌だった。
部屋に入ると父さんは座りなさいと言った。
俺が座ると父さんはいつもと変わらない顔でこう言った。
「現段階で次期当主はみのりとする」
そう言われる事は予想していた。
別に当主の座などには興味はなかった。
けど次期当主である事は皆から認められているという事。
家の者達にも。
父さんにも。
認められていた証を失った。
炎磨として失格した。
そういう事だった。
「お前はまだ視えていない」
顔をあげると父さんはいつもと変わらない。
いつものままで話を続ける。
「確かにお前は術師としての才はみのりよりも上だ。しかし、炎磨としての才はみのりの方が圧倒的に上だ」
炎磨としての才?
なんだよそれ?
教えてよ父さん。
俺を見捨てないで。
「みのりはかなり高い次元まで視えている」
炎磨としての才がその『視える』と関係すんのかよ。
「結果として祓魔師としてみのりの方が上だった」
「………俺はどうすりゃいいんだよ!」
「視ろ」
そんなこと言ったって俺はちゃんと見てるじゃないか。
「『視る』とは見るとは違う。『視る』とは答を解っているという事だ」
意味わかんねぇって。
「視ろ」
「結局何言ってたのかわかんねぇよ」
俺は目を開けると俺がいた所はうまく隙間出来ていた。
まったくつくづく運がいいね。
「けど分かった事が一つある」
俺は刀を手に取ると瓦礫を斬り、吹っ飛ばす。
そして立ち上がり、目の前の敵を睨み付ける。
「俺は負けらんねぇって事だ」
「ほう、まだ生きていたか。しぶといな」
「テメェごときに殺されるわけにはいかねぇんだよ!!」
「我ごときか、言うてくれる」
腹の傷から血が溢れだす。
こりゃあじき死ぬなぁと呑気に考えているとアヌビスが背後にいた。
それを前に跳んで避けると俺はとりあえず見た。
言われた通りにしてやるよ。
敵を見続けた。
しかし、見失った。
敵は右にいた。
「どうした?威勢よく出て来たわりにはその程度か?」
俺は間一髪躱す。
全然かわんねぇじゃねぇか。
やばい、血の流し過ぎで意識が朦朧としてきた。
くそっ、もう一回だ。
見ろ。
敵を。
敵の世界を。
見ろ。
アヌビスは剣を構え俺の命を刈り取ろうとしている。
見ろ。
見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ
視ろ!!!
アヌビスは隼人の足元から潜り込み首に剣を突き刺そうとした。
隼人はこっちを見ていない。
終わった。
そう思った時、隼人は剣先を手で掴み、刀を降り下ろした。
刀はアヌビスの左半身を縦に一閃した。
「ぬぅ!」
体が真っ赤に染まる。
「貴様…何故…?…………!?…なんだ…その…目は!!」
隼人の赤眼の部分に字が書いてあった。
『解』と。
「やっと視えやがった」
笑みを浮かべ剣を放す。
アヌビスは距離を取る。
「貴様…何故トドメを刺さなかった!?」
「だってもったいねぇーよ。せっかく視えたんだ。テメェには練習相手になってもらうぜ」
「我を…このアヌビスを練習相手だと!!」
アヌビスの怒りのボルテージは最高潮に達した。
アヌビスは隼人の背後に回り剣を降り下ろす。
それを最小限の動きで躱し、アヌビスの顔面を蹴り飛ばした。
「ぐぁ!」
「なんだよ?そんなもんか?」
「き、貴様ぁー!」
アヌビスは天に手をかざす。
すると空は沢山の剣で生め尽くされた。
「これは避けきれまい。死ね!」
ズドドドという轟音とともに剣が降り注いだ。
「な、な…んだ…と?」
そこにはまったく無傷の隼人が立っていた。
「俺は視えてんの。だから剣の隙間をかいくぐれんだよ」
「これが話に聞いた炎磨の解の力か…最強と呼ばれるわけだのう」
「死ね」
刀身が黒く光り、黒龍が放たれる。
アヌビスはあとかたもなくなる程吹き飛んだ。
「ハッ!」
隼人は地面に倒れこんだ。
(せっかく解の力も手に入れたのによ。血を流し過ぎたぜ)
やがて隼人の視界は真っ白になった。
「隼人!」
轟音がしていた所に来ると隼人の姿はなかった。
残っていたのは戦いの後とおびただしいほどの血だけだった。
「あのヤローはどこ行った?」
「まさか他の魔獣に?」
不吉な事を正一が言う。
「正一さん!」
「ご、…ゴメン」
ガタンと音がなった。
刀を構えて見るとそこにはいつも表情を変えない少女が取り乱しながら瓦礫をどかしていた。
「はやと…!はやとはやとはやとっ!!」
その姿は痛々しかった。
「私達も探そう」
「おう!」
皆で瓦礫の下などを捜索する。
突然、沢山の魔力を感じた。
空を見上げるとおびただしい数の魔獣が降りて来ていた。
「くそっ」
「今の状態じゃあ…」
「やるしかねぇんじゃん?」
満身創痍の状態で倒せる数じゃなかった。
「来るよ!刹那ちゃん!?」
刹那はまだ瓦礫を探していた。
「花ちゃん!敵をちゃんと見るんだ!」
「で、でも…」
「大丈夫、刹那ちゃんは僕が守るよ」
そう言うと刹那の前に正一が立った。
「行くぞ!」
氷華の合図に攻撃を開始しようとした瞬間、魔獣たちはペチャンコになってしまった。
グチャグチャに潰された魔獣たちを見て皆状況が理解出来なかった。
五百近くいた魔獣が一瞬で肉片と化したのだ。
理解出来る筈がなかった。
「どういう…事だ…?」
「…こりゃあ…」
刃が驚きながらも何か分かったようだ。
「どういう事だ?」
「こいつは――」
何か言おうとした時遠くで歓声が上がった。
「なに?」
「戦争が終わったみてーだわ。話は下村の家でしよう」
「僕たちが勝ったのかい?」
「そうみたいね」
「よし、分かった。かえろう」
「刹那ちゃん…帰ろう?」
花が優しく刹那に語りかける。
しかし刹那は首を横に振り断固としてここから動きそうになかった。
「嬢ちゃん、アイツは多分…無事だよ」
するとその言葉に刹那は振り向き、
「ほ…んと…う?」
すがるような目で見ている。
「あぁ。ま、詳しい話は下村の家で話すからよ。来てくんね?」
そう言うと刹那は立ち上がり、トコトコと歩きだした。
それに続いて私達も私達の家に帰る事にした。




