EP96.兄妹の絆
# 「役立たず聖女と追放された私、実は神様に愛された最強治癒師でした」
## EP96.兄妹の絆
辺境伯館の庭には初夏の穏やかな陽射しが降り注いでいた。
青々と茂った芝生の上を心地よい風が撫で花壇からは甘い香りが漂ってくる。遠くで小鳥のさえずりが響き庭の隅では蜜蜂が羽音を立てて飛び回っていた。
一歳になったノアハルトはよちよちと覚束ない足取りで芝生の上を歩いていた。その傍らでエリアーナが辛抱強く手を差し伸べている。
「――こっちだよノアハルト」
その呼びかけに小さな弟は嬉しそうに声を上げながら姉の元へとよろめき歩いた。
「上手上手! すごいよノアハルト!」
エリアーナの喜びの声に弟はきゃっきゃっと笑った。
◇ ◇ ◇
その様子を窓辺から見守っていたアズマリアの隣にヴィルヘルムが歩み寄った。
「――随分お姉ちゃんらしくなったな」
「はい。毎日弟の面倒を見たがるんです」
アズマリアの答えにヴィルヘルムは目を細めた。
その時庭で小さな悲鳴が上がった。ノアハルトが転び膝を擦りむいたのだ。
「――ノアハルト大丈夫?」
エリアーナが慌てて駆け寄る。弟の目に涙が浮かぶのを見て彼女は反射的に小さな手を傷にかざした。
「――治って」
その祈りと共に微かな光が差した。だが次の瞬間ノアハルトの体からも同じような淡い光が応えるように滲み出した。
◇ ◇ ◇
「――今のは」
窓辺で見ていたアズマリアが思わず声を上げた。急いで庭に出ると二人の子供の周りにまだ淡い光の残滓が漂っていた。
「――ノアハルトも」
ヴィルヘルムの呟きにアズマリアは静かに頷いた。
「はい。……この子にも、何かしらの、資質が」
その発見に驚きながらもアズマリアの胸には温かい確信があった。かつてフェリクスが語った通りこの力は完全な形ではなくとも確かに次の世代へと受け継がれていく。
「――エリアーナお姉ちゃんの真似したのかもしれません」
「そうかもな。あの子はいつも弟のことばかり気にかけてる」
その会話を聞いていたエリアーナが誇らしげに胸を張った。
「――あたしがノアハルトに教えてあげるの。お母さまみたいに優しい力の使い方を」
その宣言にアズマリアとヴィルヘルムは顔を見合わせ静かに微笑んだ。
◇ ◇ ◇
その夜フェリクスに報告するとやはり興味深そうに考察を述べた。
「――エリアーナ様の力に触発されるように発現したのなら想いの共鳴が引き金になった可能性がありますな」
「想いの共鳴、ですか」
「はい。血の繋がりだけでなく姉弟としての強い想いが力を呼び覚ましたのかもしれません」
その説明にアズマリアは深く頷いた。
「――力は血だけでなく想いによっても繋がっていくものなんですね」
その気づきにヴィルヘルムも静かに同意した。
◇ ◇ ◇
数日後学び舎から帰ってきたエリアーナが興奮した様子で報告してきた。
「――ねえ聞いて! 先生に相談したらノアハルトが大きくなったら一緒に授業を受けられるようにしてくれるって!」
「良かったですね」
「うん! あたしがちゃんと教えてあげるから!」
その意気込みにアズマリアは温かい笑みを浮かべた。
姉が弟を導き弟がまた姉の背中を追いかけていく。そんな当たり前の兄妹の日常の中にもこの物語が紡いできた繋がりの力が静かに息づいていた。
この二人が将来どのような道を歩んでいくのか。その答えはまだこれからの季節がゆっくりと描いていくことだろう。




