EP78.白い島の岸辺
グランディア諸島連合の港が、水平線の向こうに姿を現した時、甲板には歓声が上がった。
白い珊瑚の岸壁が朝日を受けて輝き、島を覆う緑からは甘い花の香りが風に乗って届いてくる。波が岸を打つ音に混じって、遠くから太鼓のような音色が響いていた。
「――綺麗……!」
エリアーナが、目を丸くして、島の景色に見入っていた。
船が接岸すると、桟橋には、長老イサベルをはじめ、島の人々が、大勢集まっていた。色鮮やかな布を纏った人々が、花で編んだ首飾りを手に、出迎えの準備を整えている。
「――ようこそ、大陸の使者の皆様」
イサベルの声に、アズマリアは、緊張しながらも、丁寧に一礼した。
「初めまして。アズマリアと申します。……このたびは、このような機会をいただき、ありがとうございます」
その名乗りに、イサベルの表情が、大きく動いた。
「――あなたが、あの《神癒》の……」
彼女は、深く、深く、頭を垂れた。周囲の島民たちも、次々と、同じように、敬意を示していく。
「――どうか、頭を上げてください」
アズマリアの言葉に、イサベルは、静かに顔を上げた。その目には、涙が滲んでいた。
「――長年、言い伝えの中だけの存在だと思っていた方に、こうして、直接お会いできる日が来るとは」
その感激に、アズマリアは、少し戸惑いながらも、静かに微笑んだ。
「――私一人の力では、ありません。ここにいる皆で、成し遂げたことです」
その言葉に、島民たちの視線が、代表団の面々へと向けられた。人間だけでなく、魔族の姿があることに、一部の島民が、戸惑いの表情を見せる。
その空気を察したガルシュタインが、静かに、しかし確かな声で前に出た。
「――我らは、かつて、世界の傷を、代わりに引き受け続けてきた者たちだ。……その姿に、驚かれるのも無理はない」
その率直な言葉に、イサベルは、静かに頷いた。
「――伝承の中にも、大地を守る、傷ついた守り人の話が、ございます。……もしや、あなた方が」
「――その通りかもしれぬ」
二人のやり取りに、双方の緊張が、少しずつ、和らいでいくのが分かった。
歓迎の宴は、夜まで続いた。島特有の料理――新鮮な魚介と、見たこともない果実を使った料理が、次々と振る舞われる。太鼓の音に合わせた踊りが披露され、代表団の面々も、その輪に加わっていった。
「――こんな踊り、初めて見た!」
セーラが、島の若者たちに手を引かれ、ぎこちなくも楽しそうに、踊りの輪に加わっていた。ダリオも、その隣で、慣れない動きに苦笑しながら、それでも笑顔を見せている。
その光景を見つめながら、ヴィルヘルムが、静かに呟いた。
「――言葉も、文化も違う。それでも、こうして、共に笑い合える」
「はい」
アズマリアは、腕の中で眠るエリアーナを、優しく抱き直しながら、頷いた。
「――繋がる力、というのは、種族だけじゃなく、こうして、文化の違いすら、超えていけるものなんですね」
その気づきに、ヴィルヘルムは、深く同意した。
宴も終わりに近づいた頃、イサベルが、アズマリアのもとへ、静かに歩み寄ってきた。
「――明日、正式な会談を、開かせていただきたく存じます。……この島々と、大陸との、新しい関係について」
「――ぜひ」
アズマリアの答えに、イサベルは、深く頷いた。
「そして、もう一つ。……あなた方に、お見せしたいものがございます。この島の最奥、古くから伝わる、聖なる泉です」
その申し出に、アズマリアの胸に、新たな好奇心が芽生えた。
「――聖なる泉、ですか」
「はい。……もしかすると、そなた様の力と、深い関わりがあるものかもしれません」
その言葉に、アズマリアとヴィルヘルムは、静かに顔を見合わせた。
この島に眠る、まだ知らぬ謎。それが、これから、どのような形で、明らかにされていくのか。夜空に輝く、見たこともない星々の下、その答えを求める旅は、まだ、続いていく。




