EP66. 新しい誓い
王城の大広間には、これまでにない数の人々が集まっていた。
磨き上げられた石床に朝の光が反射し柔らかな輝きを放っている。集まった貴族や民衆の衣擦れの音に混じる期待に満ちたざわめきが広間全体を満たしていた。焚かれた香の匂いが静かに漂っている。
壇上には国王グランツ、大神官グレゴリウス、そして三聖女の姿があった。アズマリアも来賓としてその場に招かれていた。
「本日をもって聖女制度を新たに改める」
グランツの宣言に広間が静まり返った。
「これまでの戦果のみを尊ぶ在り方を正式に廃する。聖女とはこの国に生きるすべての者を守る存在であり、その守り方に優劣などない」
その言葉にエレオノーラが静かに前へ進み出た。
「これからは攻撃の力だけでなく癒やしの力、繋ぐ力、支える力――あらゆる形の貢献が等しく評価される仕組みを作っていきます」
「――聖女の在り方そのものを変えるということか」
貴族の一人が戸惑ったように呟く。アロセールが静かに答えた。
「変えるのではなく本来あるべき姿に戻すのです。この国は争いを超えた場所として始まりました。その原点を今こそ取り戻すべき時でしょう」
その言葉にリザが続けて力強く頷いた。
「あたしたちも、これまで戦うことだけが価値だと思い込んでた。でも、それは違ったんだ」
三人の言葉に、広間には静かな感動が広がっていった。
「――さらに」
グレゴリウスが一歩進み出て続けた。
「神殿としても新たな教育制度を設ける。回復術式、浄化術式、そして種族を超えた協調の術――これらを次代の聖女候補たちに幅広く教えていく所存です」
その発表にアズマリアは深い感慨を覚えた。自分が辺境で積み重ねてきたことが、こうして国全体の在り方を変える力になっている。
式典の終わり、グランツがアズマリアへと視線を向けた。
「――アズマリア。この改革の名付け親になってはくれぬか」
「私がですか」
「そなたの生き方こそが、この改革の原点だ。ふさわしい名を贈ってほしい」
その求めに、アズマリアはしばらく考え込んだ。やがて静かに答えた。
「――《分かち合いの誓い》というのは、いかがでしょうか」
その名に、広間に集まった人々の間から静かな賛同のどよめきが広がった。
「良い名だ」
グランツは深く頷いた。
「これより、この国は《分かち合いの誓い》のもとに新たな一歩を踏み出す」
式典を終え王城の回廊を歩くアズマリアに、エレオノーラが駆け寄ってきた。
「――ねえ聞いた? あたしたち、これから辺境の治療院とも正式に連携することになったんだよ」
「連携ですか」
「うん。回復術式の指導とか共同での治療活動とか。セーラも、きっと喜ぶと思う」
その報告にアズマリアは嬉しさに目を細めた。自分が育て始めた小さな芽が、また一つ確かな形になって広がっていく。
その夜、辺境へ戻ったアズマリアはヴィルヘルムに今日の出来事を語った。
「――《分かち合いの誓い》か」
ヴィルヘルムは静かにその名を繰り返した。
「あんたらしい名前だ」
「そうでしょうか」
「ああ。あんたが、この国に来てからずっと体現してきたことそのものだ」
その言葉にアズマリアは静かな充足感を覚えた。
王都で「役立たず」と呼ばれた日から、ここまで長い道のりだった。だがその一歩一歩が、この世界を少しずつあるべき姿へと近づけている。
この国が、そしてこの世界が、これからどのような未来を歩んでいくのか。その物語は、まだこれからも続いていく。




