EP32. 衝撃の糸
紅蓮と轟雷、二つの力を内に抱いたアズマリアの体は、傍目にも分かるほど、その輝きに深みを増していた。
だが同時に、その細い肩は、微かに震え始めている。玉座の間に満ちる光は、もはや目を細めなければ直視できないほどの強さになっていた。石壁に反響する光の粒子が、まるで無数の星屑のように、ちらちらと瞬いている。汗ばんだ肌に触れる空気は、これまでにない熱を帯び、鉄のような味が、微かに喉の奥に残った。
「――次は、あたしの番」
進み出たのは、リザだった。
◇ ◇ ◇
短く刈り込んだ赤茶の髪の下、彼女の表情には、これまでの戦場で見せてきた勇ましさとは、少し違う、緊張の色が浮かんでいた。
「アズマリア。……その、大丈夫か。無理してないか」
「大丈夫です。……ありがとうございます、心配してくださって」
その答えに、リザは、唇を噛みしめた。
◇ ◇ ◇
「――《衝撃献奏》」
彼女の拳に、これまでの荒々しい衝撃波とは違う、静かに脈打つような光が集まっていく。それは、まるで、彼女自身の鼓動そのものを、そのまま力へと変換したかのようだった。
放たれたその光の糸が、アズマリアへと触れた瞬間――流れ込んできたのは、これまでで最も生々しい、剥き出しの感情だった。
◇ ◇ ◇
誰よりも若くして戦場に立たされ、誰よりも「強さ」だけを求められ続けてきた少女の記憶。実戦での戦果だけが、自分の価値を証明する唯一の手段だと、ずっと思い込まされてきた日々。
そして――アズマリアを見捨てた、あの日の自分を、誰よりも激しく責め続けてきた記憶。
「――ごめん」
リザの声が、震えた。
「あたし、王国の決定に、何も考えずに従った。……ううん、違う。考えないようにしてた。考えたら、自分がしてることの意味に、耐えられなかったから」
◇ ◇ ◇
「リザ……」
「あんたが追放された後も、あたし、ずっと自分に言い聞かせてた。仕方なかったんだ、って。……でも、本当は分かってた。あれは、ただの、卑怯な言い訳だった」
その告白には、これまでのリザからは想像できないほどの、剥き出しの脆さがあった。歴戦の誇りを持つ聖女という鎧の下に、ずっと隠され続けてきた、少女らしい後悔だった。
◇ ◇ ◇
アズマリアは、静かに、しかし確かな温かさを込めて答えた。
「あなたは、今、ちゃんと謝ってくれています。……それだけで、十分です」
「十分な、わけないだろ」
リザは、涙を堪えるように、強く目を瞑った。
「あたし、あんたに、もっと酷いことだって言った。戦えない癖に、って。……あんな言葉、簡単に許されていいはずない」
◇ ◇ ◇
「許す、許さないの話では、ないんです」
アズマリアは、静かに首を振った。
「私は、あなたを恨んではいません。……でも、もし、あの頃の私が、あなたの言葉に傷ついたことも、なかったことにはしたくない」
「――それって」
「両方とも、本当のことだから。……傷ついたことも、今、こうして謝ってくれていることも。どちらも、なかったことにはしません」
その答えに、リザは、堪えきれず、静かに涙をこぼした。
◇ ◇ ◇
衝撃の光が、アズマリアの中に溶け込んでいく。橙色と青白い光に、そこに力強い緋色が重なり、三色が複雑に絡み合う、これまでにない輝きへと変わっていった。
その光の美しさとは裏腹に、アズマリアの膝が、微かに崩れかけた。
「――アズマリア!」
ヴィルヘルムが、思わず駆け寄ろうとする。だが、アズマリアは、片手を上げて、それを制した。
「大丈夫、です。……まだ、続けられます」
◇ ◇ ◇
その声には、確かな強がりが滲んでいた。だが、その奥にある芯の強さもまた、その場にいる誰の目にも、はっきりと映っていた。
「――次は、精霊と聖獣の力だ」
ガルシュタインが、静かに告げた。フィーと白煌が、そっと歩み寄ってくる。
三人の聖女の力は、確かに結ばれた。だが、この儀式は、まだ折り返し地点にすら達していなかった。
アズマリアの体に刻まれる負荷は、静かに、しかし確実に、限界へと近づきつつあった。




