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EP104.未知なる岸辺

水平線の彼方に緑に覆われた陸地が姿を現した。


 甲板に降り注ぐ陽射しは強く肌を刺すような熱を帯びている。吹き抜ける風には甘く濃厚な花の香りが混じり遠くから聞いたこともない鳥の鳴き声が響いてきた。


 亀はそこで足を止めまるで別れを告げるように一度大きく水面を叩くと静かに深い海へと姿を消した。


 「――あれが」


 リザが目を細めて呟いた。


 「南方の大陸か」


   ◇ ◇ ◇


 船が浅瀬に近づくにつれ岸辺の景色が鮮明になっていく。白い砂浜の向こうに見たこともない巨大な樹木が壁のように立ち並んでいた。


 「――人の気配は、ありませんね」


 アズマリアの呟きにオルディスが慎重に頷いた。


 「少なくとも見える範囲には。……だがこの先の森には何が潜んでいるか分からない」


 一行は小舟に分乗して慎重に岸へと向かった。砂浜に降り立つと足裏に温かく柔らかな砂の感触が伝わってくる。


 「歩きやすい。……何か変な気配もない」


 ダリオが周囲を警戒しながら呟いた。


   ◇ ◇ ◇


 岸辺の探索を進めるうちセーラが砂浜に埋もれた奇妙な石を見つけた。


 「これ見て。島で見た文様とよく似てる」


 駆け寄ったフェリクスが眼鏡を押し上げ慎重に石を観察した。


 「間違いありません。《根源語》です。……ここにも古い儀式の跡が」


 その発見にアズマリアは胸が高鳴るのを感じた。


 「この大陸にも聖樹や泉と同じ起源を持つ何かがあるのかもしれません」


   ◇ ◇ ◇


 石の周囲を調べていたアズマリアがふと森の奥から視線を感じて顔を上げた。


 「誰かいます」


 その言葉に全員が一斉に身構える。木々の影から現れたのは褐色の肌に白い装束を纏った人影だった。


 「――よく来た。遠き海の彼方からの客人たち」


 静かに響いたのは穏やかな女性の声だった。


 銀の髪を長く伸ばし額には聖樹の紋様によく似た刻印が淡く輝いている。


 「私はこの地の見守り手。……あなた方の来訪をずっとお待ちしておりました」


 その名乗りに一同は息を呑んだ。


   ◇ ◇ ◇


 「あなたが世界の傷を見守り続けた者」


 アズマリアの問いに女性は静かに頷いた。


 「千年の間この大陸で静かに眠りについていました。……ですがあなたが世界の傷を癒やしたことで私も目を覚ましたのです」


 その言葉にオルディスが深く頭を下げた。


 「やはり伝承は真実だったのですな」


 「はい。……詳しい話は私の住処でいたしましょう。あなた方を歓迎いたします」


 その誘いに一行は顔を見合わせ頷き合った。


   ◇ ◇ ◇


 夕暮れ見守り手に導かれ一行は森の奥深くへと足を踏み入れていく。


 巨大な樹木の間を縫うように進む道は不思議な光で照らされ幻想的な雰囲気に満ちていた。


 「――この先に何が待っているんでしょう」


 アズマリアの呟きにヴィルヘルムが静かに頷いた。


 「分からん。だがきっと俺たちが知らなかった大きな真実が待ってるはずだ」


 その言葉を胸に一行はさらに森の奥へと歩みを進めていった。


 この大陸に眠る真実とは何なのか。見守り手が語る千年の物語とは何なのか。


 その答えはもう間もなく明かされようとしていた。

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