EP100.五年目の祭り
辺境エルグラードの広場には朝から祭りの装飾が施されていた。
色とりどりの旗が風にはためき焼きたてのパンと甘い果実の香りがそこかしこから漂ってくる。太鼓の試し打ちの音が遠くから響き子供たちの浮き立つような足音が絶え間なく聞こえていた。
この日は世界が救われてから五年目を記念する祭りの日だった。
◇ ◇ ◇
広場の中央にはこの五年間で紡がれてきた物語を象徴するように人間と魔族と島の人々が入り混じって準備を進めていた。
「看板はこっちでいいか」
ダリオが人間の職人と並んで木の看板を立てている。その隣ではナディアが島の飾りを丁寧に取り付けていた。
「もう少し右かな。皆が見やすいように」
セーラの指示に二人は息を合わせて作業を続けた。
◇ ◇ ◇
正午王都からエレオノーラとアロセールそしてリザが揃って到着した。
「久しぶり! 五年前のあの日からもう五年だなんて信じられない」
エレオノーラの声に出迎えたアズマリアが温かく微笑んだ。
「大神官様立派になられましたね」
「やめてよ。あんたの前ではただのエレオノーラでいさせて」
その軽口に周囲から笑いが起きた。
アロセールは静かに辺りを見渡し小さく頷いた。
「毎年来るたびにこの土地は豊かになっている」
「ありがとうございます」
日に焼けたリザは両手いっぱいに島の土産を抱えていた。
「ほらイサベル様から皆によろしくって。あとこれ南方の話」
その言葉にアズマリアの胸が静かに高鳴った。
◇ ◇ ◇
祭りの中心では魔王城から訪れたガルシュタインが人間の子供たちに囲まれていた。
「魔王様って本当に角があるんだね!」
無邪気な問いにガルシュタインは穏やかに笑った。
「ああ。だがこの角はもう恐怖の象徴ではない。共に生きる証だ」
その言葉に子供たちは興味深そうに目を輝かせた。
◇ ◇ ◇
夕暮れ前広場の舞台にはこの五年を振り返る催しが用意されていた。
エリアーナとノアハルトそしてゲイルが代表して簡単な寸劇を披露することになっていた。
「むかしむかし傷ついた聖女様がこの土地にやってきました」
エリアーナの語りにゲイルが続く。
「聖女様は何も見返りを求めず皆を癒やしてくれました」
その素朴な演技に観客席から温かい拍手が起きた。アズマリアは目元を潤ませながらその様子を見守っていた。
◇ ◇ ◇
「それにしても」
寸劇を見終えたヴィルヘルムが静かに呟いた。
「俺たちの子供が俺たちの物語を演じる日が来るとはな」
「はい。この子たちが大人になる頃にはどんな物語を紡いでいるんでしょうね」
アズマリアの言葉にヴィルヘルムは静かに微笑んだ。
◇ ◇ ◇
夜空に花火が打ち上がった。エレオノーラの《紅蓮閃・華式》が中心となり精霊たちの光と絡み合いながら夜空を彩っていく。
その光景を見上げながらフェリクスが感慨深げに記録帳に書き込んでいた。
「五年前誰がこの光景を想像できたでしょうか」
「誰もできなかったでしょう。でも今確かにここにあります」
アズマリアの答えにフェリクスは深く頷いた。
◇ ◇ ◇
祭りの夜更け静かになった広場でアズマリアとヴィルヘルムは手を取り合い星空を見上げていた。
「リザが持ってきた南方の話。気になるか」
ヴィルヘルムの問いにアズマリアは静かに頷いた。
「はい。でも焦る必要はありません。いつか機が熟した時に」
その答えにヴィルヘルムは優しく彼女の肩を抱き寄せた。
この五年間で積み重ねてきたすべての物語。それはまだ終わりではなく新しい広がりへの確かな通過点に過ぎなかった。
次にどのような出会いと試練が待っているのか。その答えはまだこれからの歳月が静かに紡いでいくことだろう。




