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70:這い出て来たモノですわ

 リンディさんを袋叩きにしていたらゼブルスの欠片が零れ落ちたのですが、ムカムカしていてドロリとしている気配と共に生えて来た赤黒く輝く触腕が欠片を掴み取ってしまい……たぶん長い年月をかけながら封印の綻びを何とかする術を身につけたのだと思いますが、こんな漁夫の利のタイミングで出て来るのは反則ですわ!


「ゼブルスの!?まだ出て来る周期じゃ…もしかして反乱軍が利用された!?」

 色々な仕込みを行っていたリッテンベルン宰相が驚いていたのですが、どうやら帝都に乗り込んで来ていたヴァーナルの人達から力を奪い取っていたようで……攻めて来ている人達は人類側の精鋭ですし、そのような人達からエネルギーを奪い取る事で活動周期の短縮に成功したのかもしれません。


(そういうものだと思い込んでいたのですが…しくりましたわ!)

 タマを包む時に違和感を覚えていたのですが、謁見の間だから妨害効果が強いのだろうと軽く考えておりまして……どうやら(わたくし)達はゼブルスが張り巡らせていた罠の中に飛び込んでしまっていたようですわ。


【フーハッハッハッ!ようやく、ようやく我が力の源が揃ったぞっ!!】

 そうして欠片を取り込んだ赤黒い触腕からは暴力的な風圧を感じるレベルの瘴気が噴き出して来まして……ゼブルスの思念が無理やり摺りこまれているような奇妙な高揚感に思考がブレそうになるのですが、何とか歯を食いしばって耐える事にしました。


(ほん…とう、に、ひゅん!?最悪…ですわ!)

 動こうにもニュルニュルと絡まりついて来る瘴気に撫で回されているとそれだけで汗が滲んでしまいますし、ピンと立った乳首を弾かれるとビクンと身体が跳ねてしまい……ヌルヌルとした感触が恥ずかしくてモジモジとしてしまうのですが、こんな場所で無様な姿を見せる訳にはいきませんわ!


(と、いうより…(チート無し)がゼブルスの瘴気を浴びたら!?)

 大丈夫なのでしょうかと振り返った瞬間、地面から伸びて来ていた触腕が襲い掛かって来ていたのですが……。


「油断…するな!っと、流石に刃が通らない…か、仕方がない、一時撤退だ!」

 愛用のツーハンデッドソードを振るい襲い掛かって来ていた触腕を弾いたミレーヌさんなのですが、渾身の一撃を入れても微かな切れ込みを作るのが限界のようでして……というよりこの状況で動けるのが凄いですし、ゼブルスに掠り傷を与えているというのが物凄いですわ。


(慣れというものは…恐ろしいですわ)

 因みに聖勇者である私以外で動けているのはミレーヌさんくらいで……なんて思っていたら膝をついている雨宮さんの周りを不安そうな顔をしたタマがぽよんぽよんと跳びはねていたのですが、こちらはどういう原理なのでしょう?


(魔物だから…という訳ではありませんのね、私の聖氣(女神の聖氣)で守られているから…でしょうか?)

 ミレーヌさんの場合は私の聖氣とか聖乳とかが打ち込まれた事でゼブルスの呪縛から解き放たれていますし、一時的に女神パワーを宿す事になったのかもしれません。


「アリシア…引くぞ!」

 とにかく地面の下から這い出て来ている……今まではどこかブヨブヨとした物体だったのですが、形がハッキリしてきた巨大な爪を見据えながらミレーヌさんが叫んでいたのですが、こんな場所に留まっていたら復活したゼブルスに押し潰されてしまいますわ。


「わ、わかりました…けど、少々お待ちになってください!」

 ミレーヌさんからしたら何としてでも一泡吹かせたい怨敵ではあったのですが、ゼブルスの瘴気に当てられたリッテンベルン宰相やヴォッサム将軍が大変な事になっておりまして……自分の我が儘の為に大事な2人を巻き込む訳にはいかないという使命感が勝って安全な場所までの避難を優先したのかもしれません。


 なので気付け薬か何かを噛み砕いて意識を保とうとしているリッテンベルン宰相には背中にしがみついてもらい、股間が大変な事になっているヴォッサム将軍と手近な所に転がっていたノアさんを両脇に抱えたミレーヌさんが皇居を破壊しながら這い出て来ようとしているゼブルスをチラ見(警戒)しながら「こっちだ」というように体を揺すっていたのですが、私も慌ててアンジェリカと雨宮さんを掴んで運び出さなければいけなくなりました。


(とはいえ…このままでは)

 引きずっているのはご愛嬌とさせてもらいますし、ゼブルスの気配が強すぎるせいでビクンビクンと震えて潮を吹きながら白目を剥いている2人を運搬するのはなかなか骨が折れるのですが、大ダメージを受けて膝をついているリンディさんにもゼブルスの魔の手が伸びておりまして……このままでは邪竜に吸収されてエネルギー源にされてしまうのかもしれません。


「仕方が、ありませんわ…なんとか運び出して…っと、タマが運んでくれますの?」


「ぷっ!」

 「了解!」というようにキリッとしたタマがリンディさんの下に潜り込んだかと思うとぽよんとバランスを取りまして……。


「おっふ!?って、な、なんだ、こいつ…お、おい、ちょっと…揺れ、運ぶならもう少し丁寧に運びやがれ!」

 どうしても跳ねながらの移動となるのでガツンガツンとぶつかりながらの移動となるのですが……命あっての物種とも言いますし、リンディさんの場合はとんでもなく体が頑丈なのでなんとかなるのでしょう。


(私達もさっさと逃げ出しませんと)

 縛り付けている封印を壊しながら這い出て来ようとしているゼブルスの動きは緩慢だったのですが、地上に出てきている部分からは灰色のドロドロと一緒に赤黒い瘴気が溢れ出しておりまして……あんなものに呑み込まれたら大変な事になるのが目に見えていますし、こうなったら三十六計逃げるに如かずですわ。


 そういう訳でミレーヌさんの案内で崩壊して行く皇居から脱出する事になったのですが、女神の使徒(聖勇者)である私を逃すつもりがないのか巨大な腕を伸ばしながら捕まえようとしておりまして……空を覆うような大きさで広がるブヨブヨとした腕は物の怪的な姫のラスト近くの一幕を思い出してしまったのですが、返す頭もない状況では起死回生の妙案も思いつきませんでした。


(不幸中の幸いは帝都からの避難が進んでいる事なのですが、このままだと…逃げ切れませんわ!?)

 飛んで逃げるにしてもアンジェリカと雨宮さんを運びながらでは速度が出ませんし、どうしたらいいのかと視線を走らせていますと……帝都の郊外から眩い極太ビームが発射されました。


【…なんだ?】

 漂う瘴気を貫き飛来した極太ビームがゼブルスに命中した瞬間物凄い衝撃波が周囲の建物を吹き飛ばしまして……不思議パワーに守られているゼブルスが傷つく事は無かったのですが、衝撃波で押し返す事くらいは出来たのかもしれません。


 微かに身震いするように動きを止めたゼブルスが片腕と頭の半分を地上に覗かせながら攻撃地点を睨みつけていたのですが、なにやら怪獣大決戦みたいな状況になっているような気がしますわ。


(今のうち…ですが、今の光は?)

 少しだけ気になったので屋根の上に飛び乗って光が伸びて来た方向を見てみたのですが、何やらゴチャゴチャとした……機械、でしょうか?大砲というよりレールガンみたいな大型の機械の周りでワチャワチャとしている人達が見えたのですが、背丈から考えるとドワーフさん達が機械の操作をしているのかもしれません。


(もしかして…ルルさん(里長の孫)が作った魔導機械の一種でしょうか?)

 ジオルド(鉱山街)を吹き飛ばすために仕掛けられていた結晶からエネルギーを取り出す為の機械を大型化したといった感じですし、エネルギー源を自作する事でビーム兵器として利用できるように魔改造したといった感じなのでしょう。


 そんなルルさん式のビーム兵器が帝都の郊外に配置されていたのですが、本格的な攻城戦に向けて引っ張り出されたのか必要が無かったと引っ込めていたのかはわかりませんが、いきなり出て来た巨大な化け物(ゼブルス)目掛けてぶっぱなされたという事なのかもしれません。


(本当に訳の分からない科学力ですわ)

 色々と進みすぎているルルさんなのですが、次弾装填の為のチャージが始まっておりまして……。


【オォオオオオオオッ!!】

 そうして2発目が発射される前にゼブルスから奇妙なオーラが広がりあちらこちらから悲鳴や叫び声が上がるのですが、広がるゼブルスの瘴気のせいで帝都に攻め込んでいた人達がバタバタと倒れて行きまして……どこかブヨブヨとしていたゼブルスの体から巨大な翼と尻尾が生えて来たかと思うとその尻尾の先端にはポッカリとした大穴が開いておりました。


(あれは獄牢(ごくろう)から逃げ出した…まずい、ですわ!?)

 快堕(かいだ)の獄牢で灰色の肉人形を取り込んでいた虚無の大穴が周囲のマナやら残骸やらを吸い込み始めたのですが、発射された巨大ビームも吸い込まれて無効化されたりとこのままではゼブルスを肥え太らせるだけの逆効果になってしまいますわ。


「よくもあんなモノを封印していたものだと呆れかえるばかりだが…大丈夫か?」

 身体強化に回している聖氣まで吸い取られていくのでアンジェリカ達の重さが倍以上に跳ね上がりましたし、屋根の上に登って来たミレーヌさんに言われて観察している場合ではないと思い直したのですが、とにかく今はアンジェリカ達を安全な場所に避難させるのが最優先ですわ。


「だ…大丈夫ですわ」


「よし、では…こっちだ、抜け道がある」

 なんて言いながら勝手知ったるといった様子で脇道に逸れて行ったミレーヌさんなのですが、なんでも子供の頃は皇居を抜け出して帝都を見て回っていた事もあるのだそうです。


(それにしてもなのですが…流石にこれは、ですわ)

 這い出て来ようとしているゼブルスの頭だけでも皇居どころか帝都の大半を超える大きさでして……これだけ大きな化け物だったら女神様が動くのも致し方なしといった案件ですわ。


(同じ竜族といってもノルニス(火竜)とは全然違いますのね)

 あちらはあちらでかなりの大きさだったのですが、竜と言われて想像するような常識的な大きさでして……なんて事を考えていたのですが、どうやらゼブルスの表面を覆っているドロドロとしたモノは灰色の肉人形に近い素材で出来ているようで、その内側には赤黒く輝く竜っぽい姿をした何かが蠢いているような感じがしました。


(核となるゼブルスの周りにドロドロがあるから大きく見える…という感じなのでしょうか?)

 どれだけ力を蓄えたらこうなるのかがわからないのですが、広がる尻尾の黒点にエネルギーが吸い取られていく度にその大きさが増していきまして……。


(出て来るだけで帝都が…本当に傍迷惑な相手ですわ)

 皇居のあった辺りがゼブルスに呑み込まれていますし、攻め込んで来ていたヴァーナルの人達や最後まで帝都に残っていた人達の聖氣が吸い取られて倒れていくのですが……私に出来る事は瘴気に呑み込まれていく人達が気合と根性で脱出して来てくれる事を祈る事しか出来ませんでした。

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