67:戦況と解放ですわ
女神パワーのおかげで枯渇していた聖氣が回復していったのですが、凌辱の日々が続いたせいで精も根も尽き果てておりまして……とはいえ泣き言を言っている場合でもありませんし、アンジェリカが用意してくれていた疲労回復用のポーションをガブ飲みしながら頑張るしかありませんでした。
(聖氣を使い切ったり鍛えたりする度に回復量が増えていっているような気がするのですが…これでもレベルアップをしているという事なのでしょうか?)
なんて事を考えていたのですが、アンジェリカ達の手で秘密の地下室から救出されると見張り役を買って出てくれていた垢嘗めスライムのタマがと元気よく「ぷいっ!」っと跳びはねていまして……地上の様子はなかなか混迷を極めているようですわ。
(と、いいますか、皇居の中を灰色肉人形がウロウロとしているのですが…どういう事なのでしょう?)
戦闘音や怒号や悲鳴があちらこちらから響き渡っていますし、皇居の中を魔物達が闊歩しているのは違和感がありまくりなのですが……とにかく帝都デファートに雪崩れ込んで来ていたヴァーナル達は瞬く間に市街地と貴族街を占領したのだそうです。
因みにこの時点で市街戦が発生して多くの犠牲者を……と、なるところだったのですが、ミレーヌさんが早々に市街地の放棄を宣言したおかげで目立った犠牲者はいないのだそうです。
(不幸中の幸い…と、いうより、ミレーヌさんのおかげでしょうか?)
甘い汁を啜ろうと残っていた人達は命令が無くても逃げ出してしまいましたし、高すぎる忠誠心に支えられていた人達はミレーヌさんの宣言に従う形で帝都を脱出する事となりまして……代わりに溢れて来た肉人形達がヴァーナルの前に立ち塞がる事になりました。
「一応ディー…なんとかという騎士が部下を引き連れて来たのですが、ヴァーナルを率いているのがヴォッサム将軍ですからね、あっさりと撃退されて捕縛されて…戦闘らしい戦闘というとそれくらいですね」
とかなんとかで比較的スムーズに制圧して行ったのですが、流石に皇居となると忠誠心が高すぎる騎士達が陣取っているのでそこそこの防御力を有しておりまして……ヴァーナル側からしたらファティエラでの決戦からの逆侵攻、多様な種族や勢力からの援軍や援助があるといっても皇居を包囲した辺りで息切れを起こし始めてしまったのだそうです。
そうして打って出る訳にもいかない帝国軍と攻めきれなかったヴァーナルで膠着状態が続くかと思われていたのですが、皇居に潜入していたアンジェリカ達が内応する形で魔物達を解き放って混乱を助長させる事に成功しまして……ヴァーナル有利の攻城戦が開始される事になっているというのが現在の状況でした。
「その混乱に乗じて助け出してくれて…ありがとうございます、アンには助けてもらってばかりですわ」
因みに前線を突破して来た雨宮さんと内応の為に動いていたアンジェリカ達が合流してという流れなのですが……。
「いえ、私はたまたま皇居内に捕らえられていた反帝国派の人達と接触できただけで…そんな事よりも、この混乱はいつまでも続きませんので動くのでしたら今のうちに」
「そう、ですわね…と、いっても…どこに向かえばよいのでしょう?」
奪い取られたゼブルスの欠片が怪しげな気配を撒き散らしているのかゼブルスの復活が近いからなのかはわかりませんが、薄っすらと瘴気が漂い始めているので気配が読みづらくなっていますし……あちらこちらから激しい戦闘音が鳴り響いていたり魔物達が我が物顔で闊歩していたりするので落ち着いて探索をするという状況でもありませんわ。
「謁見の間だ」
そう思って探し物が得意そうなノアさんに話を振ってみようと思ったのですが、そんなタイミングでガシャンガシャンと黒衣の全身鎧を鳴らしながら割り込んで来た人が居まして……。
「ヴォッサム将軍!と、ヴァーナルの…ハスラー、だったか?どうしてこのような場所に?2人だけで突入して来るのは流石に軽挙と申し上げるほかありませんが」
やって来たのは騎士剣にフィートシールドという愛用の武具を手にしたヴォッサム将軍とベルザの町で出会ったヴァーナルメンバーのゲオルグさんだったのですが、いくら膠着状態に陥ったからといって指揮官自らが突入して来るというのはアンジェリカが言う通り無謀としか言えませんわ。
「なに、上級持ちだと単独行動の方が暴れられるからな…と、言いたいところではあるのだが、動ける連中が少なすぎるのと皇居内に残っている連中を助ける為には兵を分けなければいけなかっただけだ…まあ、仕方なくというのが本音だな」
「無謀だとお止めはしたのですが…皇居の事なら俺が一番よくわかっているとおっしゃられて」
なんて付き従っているゲオルグさんが苦笑いを浮かべておりまして……とにかくあまり長話をしている場合でもなかったのでゼブルスの欠片の話になったのですが、ヴォッサム将軍が言うには怪しげな儀式をするのに適した部屋が謁見の間に隠されているのだそうです。
「ゼブルスの民が封印を解こうとしているのだろう?殆どの地下通路は市街地や郊外に繋がっているくらいで…消去法で謁見の間にある隠しが怪しいと睨んでいるのだが」
「っすね、それっぽい場所は他にもいくつかあるんですけど、一番怪しいといえるのがそこくらいかと…勿論裏をかいて全く別の場所に封印されているという可能性もありますが、疑い始めたらキリがないっすからね」
独自の調査を進めていたノアさんもヴォッサム将軍の意見に賛同していたのですが、将軍が言うには謁見の間には皇族の為の一時的な避難所とか物資が蓄えられている小部屋……と、いうにはいささか大きすぎる部屋が隠されている事になっていたのですが、長年帝国に仕えている将軍ですらその部屋に物資が運び込まれているのを見た事がないという謎の部屋なのだそうです。
「では…謁見の間に行ってみる事にしましょう、よくよく考えてみたら悪党が最後に逃げ込むのが謁見の間というのはお決まりといえばお決まりなパターンですし、そこに居なかったら別の場所を探すだけですわ」
皇居内では魔法の制限がかかっているのですが、取り上げられてしまった武器を探している時間が惜しいですし……私は聖氣の盾での援護に徹する事にしましょう。
なんて事を考えていたらあまりにもフワフワとした理由だったからなのか皆さんが苦笑いを浮かべながら顔を見合わせていたのですが、こんな所で話し込んでいる場合ではございませんわ。
「そうだな、悩んでいても仕方がない…決着をつける事にしよう」
代表する形でヴォッサム将軍が厳かに頷き襲い掛かって来ている魔物達を蹴散らしながら進んでいく事になったのですが、もう少しで謁見の間だという所でまさかの……肉の鎧に侵蝕されているミレーヌさんが立ち塞がる事になりました。
「そこまでだ、すまないが…ここを通す訳にはいかなくてな」
ウニョウニョと蠢く肉の鎧は相変わらず酷い有様だったのですが、リッテンベルン宰相の努力のおかげなのか意識を保ったままですし、色々な面での改善がみられるのかもしれません。
「陛下、そのお姿は…まさか」
側近中の側近でもあったヴォッサム将軍に隠し事を続けるのは難しいと思うので昔はここまで酷くなかったのかもしれませんが、ミレーヌさんの身に何が起きていたのかを察した将軍が目を瞠るのですが……その様子を自嘲気味に見据えていたミレーヌさんが肩をすくめてみせました。
「ヴァルドには事情を説明できなくてすまないと思っている、ウィズベリアとそこに居るアリシアのおかげでようやく意識を取り戻す事が出来たのだ…が、すべては今更だ、ゼブルスの復活が近いからなのか私の体は私の物であって私の物ではないようだ」
言いながら剣を構えるミレーヌさんなのですが、軽く息をのむように呼吸を整えたヴォッサム将軍が厳しい顔つきのまま前に出まして……いくら上級神躯持ちだからといって将軍自らが突入して来た理由がよくわからなかったのですが、もしかしたら狂ってしまったと思い込んでいたミレーヌさんを止める為に無茶をしてきたのかもしれません。
「って、勝手に決めつけてヒートアップしないでください、これはお互いの勘違い…と、言いますか、ここで私達が争う理由が…」
「無い…の、かもしれないが…もう…いいんだ、邪竜が無理やり私の体を動かしているので止める事が出来ない、だから…出来るだけ抵抗を試みてはみるが、すまない…死ぬな!」
そうして最大出力の聖氣を肉の枷に侵蝕された大剣に流し込むと女帝の圧力が周囲を埋め尽くすのですが、その圧力に抗しながらヴォッサム将軍が盾を構えました。
「ぐっお!?陛、下…くっ、仕方が…ない、お前達は先に行け!ここは俺が引き受ける!」
「あらあら、この方は通す気がなさそうですし…押し通るしかないのではありませんか?」
「くっ、アリシアは私の後ろに…あと、コレを!」
そうして紫雲斬鉄を構える雨宮さんが前に出ましたし、ランプデトネイターを構えたアンジェリカが私を守る位置につきながら護身用のショートソードを差し出して来たのですが、このままでは同士討ちを始めてしまう事になりまして……ゼブルスだけが高笑いをしてしまう結末が待っているような気がしますわ!?
「待ってください、こんな状況で戦っても…って、リッテンベルン宰相!?貴女もミレーヌさん達の説得をお願いしますわ!」
そうしてミレーヌさんが戦いの場に出て来たのならこの人もという感じでリッテンベルン宰相がのそりとやって来てくれたのですが、彼女ならこの場を治めてくれるのかもしれないという一縷の望みに賭ける事しか出来ませんでした。
「もう、いいの…ラーズグールも、今までありがとう」
そうしてリッテンベルン宰相は張りつめた顔つきでいつも連れ回していた肉塊に腕を突っ込んでいたのですが、ドロリと溶けて消えて行く肉塊の中から濃縮されまくったグチャグチャの聖氣の塊にも似た棒を取り出しまして……。
(なん、ですの…あれは?って、まさか!?)
ラーズグールというのが肉塊の名前で取り出した武器がリッテンベルン宰相の切り札なのかもしれませんが、そんな怪しげな物を腰だめに構えながら……仲間だと思って油断しているミレーヌさんを後ろから突き刺しました。




