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6:しばしの休息ですわ

 マリエラ教の皆さんに担ぎあげられながら揉みくちゃになっていたのですが、このままでは復旧作業が進まないという事でその場を離れる事となり……最大戦力である(わたくし)とアンジェリカさんが揃って前線から離れても大丈夫なのかと思ってしまったのですが、帝国軍に動きがあれば連絡を入れるので問題がないのだそうです。


(だからといって…ですわ、皆さんが頑張っているというのに私達だけのんびりとしていても大丈夫なのかしら?)

 そんな疑問が浮かんでしまうような光景が目の前に広がっていると言いますか、休憩と神躯(かむい)の習熟と諸々の事情が重なりアンジェリカさんと一緒に重厚感溢れるローマ風のお風呂場に居たのですよね。


 正確に言うと神殿の奥にある『清めの間』とか呼ばれている(みそぎ)をおこなう場所にいたのですが、奥まった場所にあるので外の喧騒もどこ吹く風ですし……あまり体を冷やさないようにという配慮や冷水が汚れて濁らないようにと体を洗う為の温かいお風呂まで用意してくれているという気配りに感服するしかありませんでした。


(まあ、ターナー神官長には色々なお考えがあるようですし…)

 そういう訳で戦いで疲れた体を温かいお湯で癒していたのですが、訊いてみると一般の人達が利用できる場所にある蒸し風呂も大盛況なようで……上下水道が発展しているというのはこれからこの国で暮らしていく上での安心材料になりますわ。


(今は…お言葉に甘えておきますわ)

 なんて事を考えていたのですが、いくら私の活躍があったといっても亡くなられた方や連れ去られてしまった人達もいますし、私もチートパワーが無ければ今頃ヒュドラのお腹の中だったという可能性もあった訳で……荒事が得意ではないと言っていた私に対して気持ちの整理をつける時間を与えてあげようという気遣いや配慮があっての入浴タイムなのかもしれません。


「アリシア様、あまり熱いお湯に浸かり過ぎているとのぼせてしまいますので…汚れを落としたらこちらに」

 因みに何故か前屈みのアンジェリカさんが入っているのは水風呂の方で……というより私達には呑気なお風呂タイムにみせかけた使命があるといいますか、このままふやけ切っている訳にはいきませんのよね。


「大丈夫ですわ、むしろこれくらいのお湯の方が好みですし…頼まれているポーション作りもちゃんと覚えておりますので、もう少ししたら行きますわ」


「そう…ですか?わかりました」

 魔法がある世界なのでそういうものだと言われたらそういうものなのかもしれませんし、聖氣の種類によって効果はマチマチなのですが、聖勇者である私と竜滅の騎士であるアンジェリカさんから出ている聖氣を水に溶かすと簡易なポーション代わりになるようで……。


「私達の出汁で多くの人が助かるというのも…衛生概念がぶっ壊れておりますわね」


「えいせいがいねん…ですか?」

 なんて呟くと、よくわかっていないというように首を傾げるアンジェリカさんなのですが……こういうところにも異世界間ギャップがありますのよね。


「私の居た世界だと汚れた水は体に悪いという考えでしたので、残り湯が回復薬になるというのが斬新すぎて…という話ですわ」


「それは…こちらでもそうですが、聖氣は聖氣という尊きモノですから」

 一種の思考停止にも似た考え方は魔法や女神様が存在している異世界特有のものなのかもしれませんし、瓶詰めするさい丁寧に汚れを取り除くようですが……考えてみたら薬草を煎じた物も葉っぱの出汁といえなくもないですし、薬の種類によっては魔物の内臓を加工する場合もあるようで……異世界には異世界なりの事情がありますのでいつまでも何となく嫌だという理由で逃げている訳にもいかないのでそろそろ腹を括る事にしましょう。


(よっこい、しょ…っと、本当に、飛ばない時は邪魔物以外の何物でもありませんわ)

 お湯を吸った翼が重くて傾いてしまうのですが、お風呂の縁を掴んで立ち上がり……こういう諸々の変化に慣れるための時間でもありますので、出来るだけ体を動かしていた方が良いのかもしれません。


「どう…しました?」

 そうして水に落ちた動物のようにブルリと翼の水分を飛ばし、えっちらおっちらと水風呂の方に移動をしていたのですが……その動作を物凄くマジマジと見られておりまして、私は軽く首を傾げてしまいました。


(身体を見られていた…の、かしら?それとも私があまりにもノタノタと歩いていたので笑いが込み上げてきたのかしら?)

 アンジェリカさんの体は筋肉質というより女性らしい柔らかい曲線を描いているのですが、騎士でもあるのでそれ相応に鍛えているようで……そういう人から見たら私の動きが滑稽すぎたのかもしれません。


「いえ…その、アリシア様は本当に異世界より来られたのですね」

 多分その辺りの事情(女神の力で異世界転移)はターナー神官長から訊いているのでしょう、露骨に視線と話を逸らされてしまったのですが……そんな事を言ってから申し訳なさそうに眉を伏せられました。


「こちらの事情に巻き込んでしまい…申し訳ありませんでした、アリシア様にはアリシア様の生活がありましたのに」

 何の前触れもなく異世界に呼び出されてしまった私がもと居た世界に戻れるかどうかは女神様しだいで……こういうのは使命を果たしたら戻るかどうかの選択をする事ができるみたいなのがテンプレートなのですが、何故呼ばれたのかすらわからない状況では帰るに帰れやしませんわ。


「私が助けたいと思ったから手を貸している…それで良いのではなくて?」

 見捨てて逃げるのも寝覚めが悪いですし、ここまで来たら一蓮托生、今更申し訳なさそうにされる方が水臭いですわ。


「そういう訳には…ですが、感謝いたします」


「あら?言葉だけではなくて行動で…感謝を示すために肩の一つや二つくらい揉んでくれてもよろしくてよ?見ての通り大きいので肩が凝りますのよね」

 恭しく頭を下げるアンジェリカさんに自慢の巨乳を見せびらかせながら冗談を言うと苦笑いを浮かべられてしまったのですが、笑うとなかなか可愛い顔立ちをしておりますのよね。


(何て言ってみたものの、そんな事より物凄く気になる事があるのですが)

 ややセンシティブな話題なので触れていいのか悩んでしまったのですが、まず最初に気になるのが私が全裸なのにアンジェリカさんが腹掛け(金太郎の前掛け)みたいな湯浴み着を着ている事で……それが肌に張り付きなかなか形の良いDカップが目に入って来ますしスラリとした女性らしい体型をしているのが丸わかりなのですが、股間からそそり立っている巨大で棒状のモノはいったい何なのでしょう?


「私がもう少し強ければ皆に楽をさせてあげられるのですが」

 私が腹掛けで良く見えないモノから目が離せないでいると、アンジェリカさんがシリアスモードに入ってしまったので訊き時を逃してしまったのですが……あれだけの活躍をしていて思い悩む事があるのでしょうか?


「アンジェリカさんの頑張りのおかげで助かっている人が大勢いると思いますが?」


「いえ、結局私は東門を守るのが精一杯で…一番手強い(ヒュドラ)をアリシア様にお任せする事になりました」

 なんて言われるのですが、アンジェリカさんが居なければ東門から侵入して来た魔物達のせいで大変な事になっていたような気がするのですが……妙に真面目腐った完璧主義者ですのね。


「それは…まあ、役割分担という事にいたしませんか?」

 私からしたら適材適所とかたまたまそうなっただけという感じなのですが、アンジェリカさんとしては東門をさっさと奪還してからヒュドラの元に向かいたかったようで、騎士としての不甲斐なさが出てしまった悔いが残る戦いになってしまったのだそうです。


「そう言ってくださるのはありがたいのですが、光り輝く翼をはためかせながら戦うアリシア様は聖勇者の名にふさわしい活躍で…それと比べて私は…修練を積んだといってもまだまだです」

 なんて頬を染めるアンジェリカさんなのですが、あの戦いを下から見られていたかと思うと一気に恥ずかしさが込み上げてきますわ!


(いえまあ全裸で一緒にお風呂に入っている方が恥ずかしいのかもしれませんが、ノリノリで鼻歌を歌っていたらこっそりと聞かれてしまっていたというくらいのこっぱずかしさがありますわ!?)

 ワチャワチャと思考錯誤をしていたのを本職の人(聖騎士)に見られていたのかと思うととんでもなく恥ずかしくて……。


「あ、の…時は必死でしたし!戦闘のプロであるアンジェリカさんに褒められると照れ…ツゅぃッ!?」

 現役の聖騎士からのお褒めの言葉に照れながら水風呂に足を浸けると滅茶苦茶冷たくて……アンジェリカさんはすまし顔で入っておられるのですが、こんな冷水に長時間浸かっていたら凍えてしまいますわ!


「申し訳ありません!?私の場合は寒暖耐性があるのを伝え忘れて…大丈夫ですか?」


「だ、い、丈夫…ですわ、少しばかり油断していただけですから」

 あまりの冷たさに固まってしまったのですが、直立不動で耐えているというのも間抜けに見えるので頑張って大浴場くらいの広さのがある水風呂の中心までザブザブと進んでブルブルと震えながら浸かっているとアンジェリカさんが中腰になったり座ったりしていたのですが、色々な事を思い出してくると恥ずかしい記憶がグルグルと回って体が火照ってしまいます。


(ああもう、愉快なところを見られて…穴があったら入りたいとか言っている場合でもありませんし)

 なんて悶々としながら体育座りで水風呂に浸かっていると、頭の中がスッキリしてきたのか妙案が湧いて来ました。


「話を戻しますが…駆けつけられなかった事を後悔するより次の戦いに備える方が賢明ですわ、ですので…次の戦いではこうしてテレパシーで連絡を取り合えば円滑に…って、繋がりませんのね、どうしてかしら?」

 念じてみてもアンジェリカさんとテレパシーが繋がらなくて、どうしたものだろうと首を傾げてしまいます。


「アリシア様がおっしゃっているのは伝心(でんしん)の事だと思うのですが、私程度の実力では使いこなすのは難しいかと」


「そう…ですの?そんなに難しい技術でしたのね」

 ターナー神官長が当たり前のように使っていましたし、気づけば私も使いこなせるようになっていたのですが……アンジェリカさんが言うには神躯使用者でもモヤモヤとした漠然としたイメージしか伝わらず、適性が無ければ連絡を取り合うのが難しい高等技術なのだそうです。


(これは…アンジェリカさんがとんでもなく不器用という訳でなければ私の才能が飛び抜けているという事になるのかしら?)

 なんて事を考えてしまったのですが、マリエラ様には神託を授けるという能力があって……たぶん私の場合もそういう技術の応用といいますか、どのような力を使っているかという得手不得手の問題なのでしょう。


「私の場合は単純な筋力強化と炎にまつわる能力ですので、アリシア様のように伝心を使いこなすのは難しいかと…ただ、おっしゃる通り便利な技術なので練習をしてみるのも悪くはないのかもしれません」

 反復的な訓練をする事によって繋がり易くなる事もあるようで……特訓してみる価値はあるのだそうです。


「ですわね、連絡を取り合う事が出来たら困っている時に助けを呼ぶ事も出来ますわ」

 なんて事を言っておいたのですが、アンジェリカさんがテレパシーを習得するまでにどれくらいの時間がかかるのかわかりませんし……。


(困りましたわ、アンジェリカさん(上級神躯使用者)で無理となると…やり取りが出来るのはターナー神官長だけという事になりますのね)

 アンジェリカさんの言葉に適当な相槌を打ちながらそんな事を考えていたのですが、この場合は誰であろうとテレパシーを送れるターナー神官長が凄いだけといいますか、伊達や酔狂で神官長を務めていらっしゃらないという事なのでしょう。


「ふぅ~…それにしてもようやく水温にも慣れ…って、あひっ!?ちょ、ちょっと、何をなさっておりますの?」

 そうして水温にも慣れてフワフワとした感覚に浸かっておりますと、いつの間にやら背後に回り込んで来ていたアンジェリカさんに翼を撫でられてしまい……ちょっとばかり変な声が出て羽を広げてしまいました。


「申し訳ありません、肩をお揉みしようとしたら…つい?神経が繋がっているのですね」

 なんてつい先ほどの軽口(肩でも揉んで)を真に受けていたアンジェリカさんが申し訳なさそうにしていますし、目の前にフワフワとした純白の翼があったら触ってみたくなる気持ちもわかるのですが、触る前に一言くらい断りを入れて欲しかったですわ!


「どう…でしょう?羽そのものより…んっ、根元の方がゾワゾワ…ぁっ、っと…します…んっ…だか、ら…撫でる手を一旦止めてくださいませ!?」

 触られていると産毛を逆撫でされているようなゾワゾワとした感触が背中の辺りから広がって来て……下腹部の辺りがキューっと切なくなってしまうのですが、羽自体に神経が通っているというよりその根元の部分が敏感になっておりますのよね。


(翼を撫でられただけで気持ちよくなってしまったなんていう事になったら恥ずかしすぎて死んでしまいますわ!!)

 何て心の中で叫んでいたのですが、翼の感触を堪能し終わったアンジェリカさんがなかなか心地よい力加減で首周りと肩が揉み解してくれて……温まった後に水風呂に入った影響なのか妙に神経が過敏になっていますし、マッサージが滅茶苦茶気持ち良くてこのまま溶けてしまいそうでした。


(っ、ぁあ…これが聖氣が溶け出すという感覚なのかしら?)

 ヒュドラの攻撃で付けられていた頬の傷も治っているようですし、白色のキラキラとした聖氣が水風呂に溶けていき……ビックリした時に漏れた聖乳が水に溶けているのが滅茶苦茶恥ずかしいのですが、もうこの辺りの事は考えたら負けだと思う事にしますわ。


「でも、やっぱり…邪魔ですわね」

 小声で呟くとアンジェリカさんの指が止まるのですが、揉み解された余韻で背中の翼がピクンピクンと跳ねていて……「何か不味い事をしましたか?」と固まるアンジェリカさんにぶつかりワッサワッサしていたのですが、日常生活に支障をきたしそうな大きさなのですのよね。


(戦闘中は便利なのですが…なんて考えていたら動いてしまいますし)

 意識すると翼が広がってしまい……アンジェリカさん(異世界の人)はそういうモノだと思っているのか無言で流してくれているのですが、流石に何かしらの対策を考えた方が良いのかもしれません。


「ちょっとした疑問ですし無理なら無理とおっしゃってくれても構わないのですが…翼を収納する魔法とかってありませんの?このままでは色々と不便すぎますわ」

 簡単に解決しない問題だろうと思いながら訊いてみたのですが、アンジェリカさんは止めていた息を吐き出しながらあっさりと頷き……。


「あ、ああ…翼の事でしたか、は、はい…神躯を制御すれば出来ると思いますよ?その辺りの制御方法についても教えておくようにと言われておりますので」


そうでしたわ(制御方法を学ぶ)…って、出来ますの!?」

 ビックリしすぎて水飛沫を上げながら勢いよく振り返ってしまったのですが、アンジェリカさんが言うには神躯を制御すれば羽無し形体に戻れるのだそうです。


「はい、ただ…アリシア様の場合は内包している聖氣量が多いので、制御が難しくなっている恐れも」


「構いませんわ、なんたって私はマリエラ様に選ばれた聖勇者ですのよ?修行の一つや二つくらいお茶のこさいさいで熟してみせますわ!」

 自信満々に言い切るとアンジェリカさんは何とも言えない顔で視線を泳がせてしまい……その様子を窺っている限りではとても苦しくて大変な修行が待っているのかもしれませんが、慣れて来ると簡易な収納魔法(一緒に仕舞い込む)まで覚えられるようになるというのでなんとしてでも極めてみせますわ!


「わかり、ました…では、まず…張りつめている聖乳を絞り出してもよろしいですか?」

 なんて思っていたのですが、どこかモゴモゴとした様子で告げられたマリエラ教の修行というのは少しだけ……いえ、かなり……奇妙で特殊なものでした。

※お風呂についての補足ですが、『清めの間』は基本的に何かしらの儀式や特定の人にしか解放されていない神聖な場所であり、一般大衆向けに解放されている蒸し風呂の方は基本的に混浴ですしマリエラ教徒であれば誰でも格安で利用する事が出来る場所です。


※悶々としている内に話が進んでしまったのですが、アンジェリカさんの股間の謎については次回解き明かされる事になるのですが、スタートダッシュ期間終了に伴い明日からは20時台での毎日更新となります。

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