5:戦闘後の諸々ですわ!
私の華麗なる活躍で5つ首のヒュドラを葬り去った後、これから郊外に陣取っている帝国軍を蹴散らしますわよ!と意気込んでおりますと、彼らは一戦も交えないまま撤退して行く事になりました。
というのも逃げ帰って行った帝国軍の指揮官達は根性無しの烏合の衆だったようで……この辺りの事情は後々教えて貰う事になるのですが、サウサイド地方を治めるルブルス・ドゥークーは私利私欲に塗れた人物で、国から課せられている以上の重税を課した上で差額をポケットに仕舞い込んだり自分好みの人間を集めて酒池肉林の限りを尽くしたりしているような悪代官なのだそうです。
そんな奴がトップに立っているので心ある者から逃げ出しており、残っているのは決断する事が出来ない優柔不断な人物かルブルスに同調するような碌でもない屑ばかりで……そんな連中の独断専行にも似た進軍だった為、切り札である5つ首のヒュドラが倒されてしまうと臆病風に吹かれてあっさりと撤退を決め込んでしまったのだそうです。
なので崩れた城壁の上から撤退して行く帝国軍を見送る事になったのですが、そんな事情がわかるのはもう少し先の話で……。
「アリシア様、ご無事ですか!?まさかヒュドラまで倒してしまわれるとは…流石聖勇者様ですじゃ!」
私がこれからどうしましょうと悩んでおりますと、様子を見に来たターナー神官長や護衛の方々、そして何事かと様子を見に来た大量の信者達が激しい戦闘の痕跡におったまげながら駆け寄って来るのですが……神官長が「聖勇者様」なんて叫ぶものですから周囲の人達がザワつき「聖勇者様?となるとマリエラ様に認められたお方なのか!?」とか「おお、マリエラ様は我々を見捨てておりませんでしたか!」なんていう風に涙を流しながら天に向かって祈りを捧げる人が居たりと大賑わいになってしまいました。
(凄い…熱気ですのね)
鼻高々……ではありません、格好が格好なのでまずは上に羽織る物か替えの服を持って来ていただかないとドレスの残骸を身に纏ったまま皆様の前でふんぞり返っている変な人になりますわ。
「もっと褒めてくださってもよろしいのですが…その、何か羽織る物はありませんか?流石にこのような格好では」
聖氣を使って自動回復するという特殊なドレスを着ているのですが、聖氣が枯渇している状態だと回復速度が遅くて……キラキラと輝きながら再生していっているのですが、これはこれで謎の光で身体を隠しているみたいで恥ずかしいですわ。
(ああもう、どうしてこういう時に限って再生が…これだと私が変態みたいですわ!)
なんていう状況なので胸とか股間を隠しながらモジモジとしていたのですが、そんな私を見ていたターナー神官長は「はて?」という顔をしながら目をパチクリとさせていました。
「光り輝く神々しいお姿かと存じ上げますが?」
微妙に論点のズレた感心のされ方だったのですが、私が言いたいのはそういう事ではありませんわ!
「私が神々しいのは今に始まった事ではありませんし、この服装にも宗教上の理由があるのは認めますが…流石に色々と見えてはいけない所が見えてしまっておりますので」
というより私の……その、少しだけ人より大きな乳輪がはみ出してしまっているような気がして物凄く恥ずかしいのですが、意識すると余計に身体が火照って汗ばんでしまいます。
(色は綺麗なピンク色なのですが…って、そんな事を考えている場合ではありませんわ!!)
キラキラとした光のせいで見えていないのかそれとも見えているのにスルーされているのかはわかりませんが、胸と息が弾む度にピンと立った乳首から聖乳が垂れてきていますし、半裸以上のほぼ全裸なのでスースーしていますし、丸見えになっている下着も大変な事になっていて……。
「時間が無かったので渋々着る事にしましたが、出来ればもう少し防御力がある鎧か何かを所望いたしますわ!」
これが戦うための衣装だというのなら三百歩譲って我慢いたしますが、アンジェリカさんは軽装とはいえ鎧を着ていましたし、聖騎士の皆様は白色の全身鎧を着ていて……何故私だけがこんなにエッチでヒラヒラとしたドレスを着ていないといけないのかが謎でした。
「確かに質は最上級ですし可愛らしいといえば可愛らしいデザインなのかもしれませんが、これを着て戦うとなったら色々と厳しいものがあるのでチェンジをお願いしますわ!」
なんて事を熱く語るとターナー神官長がビックリ仰天していたのですが、彼らは本気でこのドレスが良いデザインだと思っているのですよね。
「なんと!?そこまで思い悩んでおられたとは…申し訳ありませんでした、誠心誠意最上級の物をご用意させてもらったのですが…むむむ、なんという事だ…フレンの奴は自信満々に作り上げておったが、こうなったらマエリラ様の元に赴き謝罪の意を示してもらうしかありませんな」
「あら?フレンというのが誰なのかはわかりませんが…マリエラ様というのはそこまで気軽に会いに行けるような女神様なのですか?」
それなら一度くらいは会ってみたいと思うのですが、ターナー神官長は私の疑問に対して純粋すぎる“凶信者”の目を向けながら淡々と答えてくれました。
「いえ、マリエラ様の元へというのは婉曲な表現でして…ハッキリと申し上げるとフレンには死んで詫びてもらうしかありませんという意味ですじゃ」
サラッと言ってくれるのですが、急に物騒な話になりましたのね!?
「待ってください、何故いきなりフレンさんが処刑される流れになっていますの!?」
よくわからなかったのですが、何でもフレンさんというのは私のドレスを作ったデザイナーの方で……彼は彼で夢枕に立ったマリエラ様から聖勇者の為の衣装を作るようにという神命を授かったのですが、そんな女神様に痛く感銘を受けたフレンさんのごり押しで出来たのがこのドレスなのだそうです。
つまり現在進行形で私が辱めを受けている直接的な原因を作ったのがフレンさんという事になってしまうのですが、このドレスは世界樹の葉というエリクサーの材料にもなる貴重な薬草を天蚕というこれまた貴重な生き物に食べさせて作り出す特別なシルクから作っているようで……要所要所に使われている魔法の金属も数年がかりで鍛造するという滅茶苦茶貴重で高価な物ですし、下手をしたら国家予算並みの資金と労力をつぎ込んで作りあげておりますので、そのような途轍もない労力をかけた物が“失敗だった”となれば処刑もやむなしという事になるのだそうです。
(それだけ高価な物だったらと納得してしまいそうになるのですが、いくら何でも横暴すぎますわ!?)
私がエッチなドレスを着ないだけでデザイナーの方が処刑されてしまうという大問題に発展してしまうのですが、ターナー神官長が言うにはそれくらいの価値がある物なのだそうです。
因みにドレスの布地が少なすぎるという問題なのですが、材料が貴重すぎて大量生産する事が出来なかったという理由もあって……とにかく恥ずかしいからという理由では断れない雰囲気になってしまいます。
「わかりました、わかりましたから…その、フレンさんを処刑するのはやめてください!まるで私が処刑させたみたいで気分が悪いですわ!」
「そう、ですか…?時間を頂ければ別の者に作り直させる事も出来ますが?」
「別の者」というフレンさんがいなくなる前提で話が進んでいるのが微妙に怖いのですが、私はおもいっきり手と首を振ってフレンさんの助命嘆願をお願いしておきました。
「大丈夫ですわ!慣れてきたら味わい深いドレスのような気がしてきましたし、流石女神様からドレスの製造を任される方だけはありますのね!」
ケチをつけただけでデザイナーの方が処刑されるというのは後味が悪すぎますし、よくよく考えたら見られて恥ずかしいモノでも……いえ、滅茶苦茶恥ずかしいのですが、そのせいでデザイナーの方が処刑されるとなったら何とか耐えてみますわ!
(他の信者の方達にも崇められているような気がいたしますし、本当にこの格好が神々しい物だと思われておりますのね)
私としては顔から火を噴き出しそうなくらい恥ずかしいのですが、私達の周りで拝んでいる人達の目には邪な感情が無くて……まるで神様仏様と言った様子で拝まれているので諦める事にしますわ。
なんて事を考えられる強メンタルだからこそこちらの世界に召喚されたのかもしれませんが、恥ずかしい恥ずかしいと泣き言を言っている場合でもなくなってしまい……。
「むっ、いかん!?聖勇者様の聖氣に惹かれおったか!?」
「GOBUGOBU!!」
人が集まっていたから寄って来たのかターナー神官長の言う通り私が発する聖氣とやらに引き寄せられて来たのかはわかりませんが、突然数十体のゴブリンが乱入してきました。
そうなると当然「きゃーっ!?魔物の残党がー!?」とか「聖勇者様を守れ!?マリエラ様よ、我々の勇気をご照覧あれぇ!!」とかワチャワチャとした乱戦になってしまうのですが、戦えない人達まで女神の使徒である私を守ろうと人の壁を作り上げてしまいます。
そのような混戦ではターナー神官長も大規模な魔法を使う訳にはいかず……チマチマとした魔法でゴブリン達を蹴散らしていくのですが、こいつら妙に執念深いですわね!?
「死なばもろともなんていう殊勝な考えなんて持ち合わせてなさそうですのに…って、ちょっと、貴方達…助かり…じゃ、なくて…滅茶苦茶邪魔ですわ!?あひんっ!?誰ですの、どさくさに紛れて私のお尻を触った人は!?」
ワラワラと集まって来る人達が私を守ろうと動いてくれるのは嬉しいのですが、こんな人混みの中でインペールを振るう訳にもいきませんし、飛び立とうにも自らの体を盾にしようと集まりおしくらまんじゅうのようになっている人達を翼でバチボコに叩いてしまいそうで……なんて事を考えていると、赤色の残光を残したピンク髪の女騎士が民衆の壁を跳び越えゴブリン達に全長2メートル弱の鉄板を叩き込んでくれました。
「ホーン神官長!アリシア様!?ご無事ですか!?」
それだけでドーン!とクレーターが出来て地面が揺れるのですが、振るう武器は側面に取っ手がついている白い盾のような造りで……刃にあたる部分が赤色の聖氣で覆われているので大剣という分類でいいのかもしれませんが、本質的には鈍器のように振り回して使う武器なのかもしれません。
「うむ、こちらの守りは任せてアンジェリカは魔物達を!」
「はっ、お任せください!」
そんな無骨な武器を振るうアンジェリカさんなのですが、戦闘中はムクゲの花を模ったカチューシャをつけていますし、白とピンクのブレストプレートやポールドロン、その下には太腿の辺りまで伸びた短めの前垂れを付けていました。
そうしてマリエラ教の紋章が入った左肩を覆う片マントを付けていたりガントレットや脛から下を守るグリーブやサバトンを身に着けていたのですが、その鎧の要所要所にマリエラ教らしさが出ていると言いますか……横や後ろから見るとローライズのパンツが丸見えなのですよね。
(そんな姿で戦っているので若干目のやり場に困りますし、生命を司る女神様だからと言われればそうなのかもしれませんが)
アンジェリカさんが身に着けているマントや振るう大剣にはマリエラ教の紋章……インペールのデザインにも取り入れられている二重のハートを意匠化したものが描かれていたのですが、どこか子宮を模しているような淫紋じみた図案に見えてしまうのは私の心が薄汚れているからなのでしょうか?
(たぶん…気にしたら負けですわね)
この二重のハートには愛情や生命とかいう意味があるようで、転じて『愛情を内包している命=女神様を奉じる我々』とかいう宗教的に意味のある図案なのでケチをつけるのは止めておきましょう。
とにかくファティエラのいたるところにこの紋章が描かれていたのでこれがマリエラ教のシンボルだと思っていたのですが……これは『簡易紋章』というかなり端折った図案であり、マリエラ教の正式な紋章は両手を広げたマリエラ様の前に太陽と大地とハートを意匠化した物なのだそうです。
ただ正式な紋章には女神様が象られているので使用するのが恐れ多いと身に着ける物や日常使いする物には描かれず、慣例的に簡易紋章の方が使われているのだそうです。
(ややこしい事情がありそうな事には首を突っ込まないのが吉ですし、今はそれより目の前の問題ですわ)
なんて事を考えながらワチャワチャとした人混みに揉みくちゃにされている間に下半身の装備が貧弱なアンジェリカさんが奮戦してくれているのですが、ゴブリン程度の攻撃力では神躯で守られた体には傷一つつける事が出来ませんし……こうした乱戦になると近距離戦闘が得意なアンジェリカさんの独壇場で、襲い掛かって来ていた数十体の魔物達をあっさりと蹴散らしてくれたのですが、改めて見る事になった戦闘のプロの動きは無駄が無くて恰好良いですわね。
「皆の者!襲って来た魔物は竜滅の騎士である聖騎士ルヴァニスが撃退してくれた!だが、帝国軍の残党がどこに潜んでいるのかがわからない状況じゃ!戦えぬ者は一旦安全な場所に避難し…」
因みに私の場合は女神の七色と呼ばれる白色をベースにした特殊な色を纏っているのですが、アンジェリカさんが纏っている聖氣は赤色で……火竜ノルニスというドラゴンの神躯を使用している影響が出ているのだそうです。
そのような力を得ているアンジェリカさんが瞬く間に魔物達を蹴散らしてしまいましたし、ターナー神官長が興奮する信者達を纏め上げようとしてくれていたのですが……アンジェリカさんはアンジェリカさんで有名人なのか、皆のボルテージが最高潮すぎまして「おおお!!流石竜滅の騎士様だ!」とか「アンジェリカ様ーこっちを見てー!」とか騒いでいたりと収集がつく気配がありませんでした。
「と、とにかく…アリシア様もアンジェリカもお疲れでしょう、帝国軍の動きもよくわからぬ故、一旦この場は我らに任せてあちらへ…」
私達が居ると収拾がつかなくなると判断したターナー神官長の提案でこの場を離れる事になったのですが、聖勇者や竜滅の騎士というのは本当に絶大な人気を誇っておりますのね。
※アリシアが崩れた城壁に居たのは魔物が入り込んで来ていた穴を塞ぐためで、強攻してくるようなら撃退してあげますわ!みたいな感じで腕を撫して待ち構えていました。




