53:ジオルドの占拠と進入経路ですわ
棚から牡丹餅的にジオルドを奪還する事が出来たのですが、制圧したら制圧したらで色々な問題が噴き出してきまして……まず降伏して来た帝国兵の処遇について頭を悩める事になりましたし、ボロボロになってしまった町並みの復興についても考えなければいけませんでしたし、そもそも最後の大爆発の影響で鉱山がどのようになってしまっているのかという事を確かめる必要もありました。
(まったくもって頭の痛い問題が目白押しですが…文句を言っている場合でもございませんし)
予定通り資源だけを運び出すという案も出ていたのですが、折角帝国軍が逃げ出していったのだからという感じで統治をする方向で進んでおりまして……人手が足りなさすぎるのでファティエラに向かったギルバさん達に助けを乞う必要が出て来ましたし、ジオルドの治安が落ち着くまでは私達が近隣に散らばって行った魔物達を何とかする必要がありました。
「あら、ようやく修理が終わりましたのね」
そんな感じで近隣を荒らしまわっている魔物達を倒していたのですが、鍛冶場が使えるかどうかという試運転が行われる事となりまして……聖銀などの希少素材は一朝一夕で用意できる物でも無かったので少しばかりゴツくなってしまったのですが、鉱山から産出される豊富な資源と腕利きのドワーフさん達がランプデトネイターを打ち直してくれる事となりました。
「はい、借りていた大剣も良い物だったのですが…ドワーフ1の腕前だと豪語するだけの事はありますね、強度も上がっていますし、重量配分も見直してもらったので見た目の割りには取り回しが良くなっていますし…アリシアの武器も直してもらったのですよね?」
「ええ、一応は…私の場合は癖が強くなりましたので、アンのように使いこなせる気がしませんわ」
どうやら凝り性なのはドワーフ特有の職業病みたいなものでして、インペールの短さを補うために鞭のようにしなる刀身に改造されてしまい……基本的な使い方としては生み出した盾の後ろから一方的に武器を振るって攻撃を行うみたいな運用方法が想定されていたのですが、そもそも鞭を振るう経験が無さ過ぎて使いこなせる気がしませんわ。
(折角のご厚意なので無下にするのもどうかとは思いますし、長さが可変になった事を考えれば純粋な強化なのかもしれませんが…なんとか数メートル先の的に当てられるかどうかという精度では使い物になりませんわ)
そんな事を考えておりますと、デフォルメされた黒色の蝙蝠みたいなモノがパタパタと飛んで来まして……。
「地味に大変そうな武器っすからね、どんくさいアリシアには一生かかっても使いこなせないんじゃないっすか?」
なんていう憎まれ口をたたいている小さな生き物がノアさんの新しいボディーでして……体の大部分が吹き飛んでしまったのでまだまだ人間の姿には戻れていないのですが、意識を繋ぎとめれた事に関しては本当に良かったと思いますわ。
「大丈夫ですわ、これでも女神の加護を受けておりますので…それよりだいぶその姿にも慣れて来ましたのね」
「まあ…僕はアリシアのように不器用じゃないんで、これくらいなら楽勝っすよ」
因みにノアさんが蝙蝠っぽい姿をしているのは移動が楽だからという理由でして……ネズミでも虫でもそれくらいの大きさのモノだったらある程度は自由自在のようですし、魔力を吸っていればそのうち大きくなっていくのだそうです。
「そいつの戯言はともかく、問題になりそうな魔物達も倒し切りましたし、武器の修理も終わったとなると…そろそろ一区切りですね」
「です…わね、皆も頑張っているようですし、私達も私達で使命を果たさないといけませんわ」
苦笑いを浮かべているアンジェリカと頷き合うのですが、ジオルドを巡る戦いがひと段落したといっても大陸全体でみると帝国軍と抵抗勢力の戦いが激化の一途をたどっておりまして……帝都から出撃した主力部隊が目の上のたん瘤になっているベルザの街に襲い掛かっているのだそうです。
そこには神殿都市からの援軍やゼブルスの復活を阻止する為なら止む無しといった感じでデヴァン大森林からの援軍も送られて来ていまして、食料の問題や住居の問題を解決する見返りにレスリーナちゃん達も動いてくれる事になっているので総力戦の様相を呈していました。
(出来たら私達も駆けつけたかったのですが…仕方がありませんわ)
大陸の命運を賭けた戦に参加できないというのは心苦しいのですが、私達の目的は帝国の打倒ではありませんし……マリエラ様からの宿題を終わらせる為に防備が薄くなっている帝都に侵入するという計画を立てていました。
「心配はごもっともですが、ベルザで指揮を執っているのはヴォッサム将軍ですし…少々変わり者ではありますが、雨宮さん達もいるのでよほどの事が無ければ後れを取る事は無いかと」
「そう…ですね、私達が勝利を信じてあげなくては…ですわ」
雨宮さん達があっさりと敗退するとは思えなかったのですが、ゼブルスの復活まであまり余裕がありませんし……宰相にははぐらかされてしまいましたが、改めて事情を聴きに行くというミッションが残っていました。
(それに…ドラゴンゾンビが不穏な事を言っていましたし)
ただの負け惜しみであればよいのですが、帝都で眠っているというゼブルスに私達の事が伝わっていると厄介な事になりまして……瘴気溜まりを通して覗き見る能力を持っているようですし、下手に間を開けると悪辣な罠が仕掛けられていたり万全な状態で待ち構えられていたりするのかもしれません。
なので虎穴に入らずんば虎子を得ずの精神で潜り込む事にしたのですが、堂々と乗り込むのはリスクが高すぎるという事になりまして……。
「秘密の通路があるの…でしたよね?」
「そうっすね、管理しきれなくて放棄された場所といいますか、怪しげな遺跡といいますか、まあ…薄々勘付いているのかもしれませんが、本当に碌でもない場所っすけど」
「それでも良いんですか?」と言いたげなノアさんなのですが、元の姿に戻れないので正規の手段で門を超える事が出来ないのだそうです。
「もしかしたら出来るのかもしれませんが、難癖をつけられても面倒臭いだけですし、それなら堂々と裏道をって感じで…覚悟は…出来ているんっすよね?」
「ええ、リッテンベルン宰相にも事情を聞かないといけませんし…ここまで来たら毒を食らわば皿までですわ!」
ジオルドの事は合流してくるギルバさんやルルさん達に任せて帝都に向かうのは私とアンジェリカとノアさんの3人だけなのですが、このメンバーなら何かあったとしても飛んで逃げれば良いだけですし……物見遊山気分で帝都に乗り込む事にしましょう。
「了解っす、帝都に入っちゃえば知り合いに匿ってもらえば…いけ好かない女とかおっかない女とかの動向を調べている間は潜伏していないといけないっすからね、それを踏まえた準備を整えたら…出発するっすよ」
とか言う感じでルルさん達に別行動を取る事を伝えてから帝都に……実はデファートという名前だったのですが、この大都市は大陸のほぼ中央近くに存在するザインブルグ帝国の首都でして、二百数十年前に暴れていた暗黒竜ゼブルスを倒した事を記念して建てられた都なのだそうです。
色々な事情を勘案すると戦勝記念というよりゼブルスの封印を見張る為に築き上げられたというのが実情に近いのだと思いますが、魔物が闊歩している異世界らしく強固な城塞都市になっておりまして……。
「コッソリと忍び込む事に反対はありませんが、城壁くらいなら私とノアさんがいればひとっ飛びで越えていけるではありませんか?」
ベルザではそういう潜入方法をとりましたし、同じ方法が取れないかと聞いてみたのですが……ノアさんが言うには難しいのだそうです。
「う~ん…出来なくはないのかもしれないっすけど、あまりお勧めはしませんね」
というのも帝都にはゼブルスを封印する為の結界が張られておりまして、それを防御用の結界に転用する事によって侵入者を防いでいるのだそうです。
「なので特別な通行証が無いと弾かれるんっすよ、そんでもって極々普通の人達は要所要所に設けられている関所みたいな所を通過する必要があるんっすけど」
通行できる場所が限られているという事は帝国軍もその場所に戦力を集中しているという事でして、監視の目が厳しすぎるので欺く事は容易ではないのだそうです。
「無理やり押し通る事も出来るっちゃあ出来るっすけど、それは最後の手段っすね」
ノアさん1人だったら専用の通行証があるので通り抜ける事が出来るのですが、ただでさえ堕落したザイブルグ帝国を象徴するような場所ですし、帝都を守る兵士達は見回りすら出来ない碌でもない連中ばかりが配属されているようでして……ボディーチェックと称したセクハラ紛いの行為がまかり通っていますし、最悪の場合は「反逆者だった」というでっち上げで取り調べという名の拷問が待っているのだそうです。
「性格はともかく2人とも顔立ちが整いすぎていますからね、十中八九後者になるんじゃないっすか?」
との事で、私達が正規ルートを通ろうとしたら碌でもない事がおきてしまう可能性が高いのだそうです。
「性格はともかくというのが気になりますが…そういう事態に陥るのは避けたいですわ」
「ええ、アリシアに手を出す不埒者がいたらと考えると…皆殺しにする訳にもいきませんし」
物騒な事を言っているアンジェリカなのですが、そんな事をしたら警戒されるどころの話ではありませんし……こっそりと事情を訊きに行くというという私達の目的とはそぐわない結果になってしまいますわ。
ではどうするのかという事なのですが、帝都の北側は辺境領から押し寄せる魔物達のせいで荒れ放題でして、いくつかの砦や防壁が散見するだけの不毛な土地が広がっているのだそうです。
ノアさんが目を付けたのはそういう砦の中の一つでして、放棄された砦と帝都の一区画が地下通路で繋がっている事がわかっているのだそうです。
「まあ…僕も資料を見ただけで詳しい事はわからないんっすけど、こんなご時世ですからね、保守点検用の人員が送られたっていう話も聞かないんで…見つかる可能性だけは低いと思うっす」
との事で、巡回の兵士が居ないのならという事で様子を見に行ってみようという事になりまして……。
「あ、見えて来たっすよ、あそこに見える建物の残骸っぽいのが…帝都と繋がっているっていわれている『快堕の獄牢』っす!」
ぐじゅぐじゅとした触手っぽいモンスターが犇めく辺境寄りの荒野のど真ん中に石造りの砦がぽつんと建っていたのですが、嫌な予感がしまくりなのでここから侵入するのは止めておいた方がいいのかもしれません。




