表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/74

28:噂の肉人形ですわ

「でも…良いのですか?私達が代表面して向かう事になりますし…特に交渉ごとに長けている訳でもありませんが?」

 あれよあれよという流れで(わたくし)達が不帰(かえらず)の森に向かう事になってしまったので苦笑いを浮かべているザックスさんにそんな事を聞いてしまったのですが……その辺りは特に問題がないのだそうです。


「我々は交渉ごとがとにかく苦手だからな、それにお前達を向かわせると決めたのはこの俺だ、それで失敗したというのなら俺の判断が間違っていたという事なのだろう…それよりレスリーナの事を頼む、なんだかんだと気を張っているがまだまだ子供だからな」

 なんて逆に娘さんの事を託されてしまったのですが、レスリーナちゃんのお父様は色々な種族を纏めあげているだけの事はある懐の大きな人ですわ。


「とはいえ…本当に子供達だけで大丈夫なのでしょうか?忘れ物はありませんか?手ぬぐいは持っていますか?変な虫に悪さをされないように注意しなさい、後は生水は飲まないようにと寝る時はお腹を出さないように…」

 そうしてどっしりと構えているザックスさんと違ってオロオロと細かな事まで気にしている雨宮さんなのですが、実は雨宮さんは集落に残る事が決定しているのですよね。


「母の事は良いのです…刀の手入れくらいなら自分でも出来ますし、それほど急ぎの用事でもありませんので」

 なんて言っていたのですが、獣人達の武装化が始まったらそちらの準備や製造に人手が取られる事になりますし……本格的な修理をする場合は数日がかりになるので落ち着いてから頼み込む事にしたのだそうです。


「それに…彼らには一宿一飯以上の恩義がございますので、放っておく訳にはいかないでしょう?」

 そう言う雨宮さんは少しだけ誇らしそうではあったのですが、帝国軍の動きが活発になって来ているので護衛に残る人も必要で……不帰の森に向かうのは私とアンジェリカ、そして獣人側の代表としてレスリーナちゃんとゴロさんとシンデさんの5人で旅立つ事になったのですが、これがなかなか大変な旅路となりました。


(一言で不帰の森へ…みたいに言いましても、片道で数日がかりというのが相変わらずですわ)

 帝都(現在地から北東)から離れて行く方向(西)に進んでいるので帝国軍の動きは気にしなくても良いと教えられていたのですが、慣れてきたといっても街道沿いはまばらだった草木も奥の方に進めば鬱蒼とした森林へと変わっていきますし、こういう場所の移動に慣れているレスリーナちゃん達(獣人の皆様方)とは違ってひーこらとした移動になってしまいます。


(飛んだら飛んだで移動速度が違いすぎますし、地道に歩いて行くしかありませんわ)

 というより樹高より低く飛ぶと生い茂っている木にぶつかりますし、それより高く飛ぶと生い茂っている葉っぱが邪魔をしてアンジェリカ達を見失いますし……。


「そういえば…なのですが、アン(アンジェリカ)は獣人達の武装化に反対なのですか?そういう話しが出た時に渋い顔をしていましたが」

 そんな移動を開始してから3日目のお昼過ぎ、少し気になる事があるとレスリーナちゃん達(獣人チーム)が別行動をしている時にふと思い出した事をアンジェリカに訊ねてみる事にしたのですが……あれはいったいどういう意味があったのでしょう?


「ん?ああ…アリシアが提案した時の話ですか?あれは…部族単位の武器を他種族に作らせる事についての危険性を危惧していたからで、獣人達が武装化を受け入れるのなら反対はしませんよ?」

 なんて事を言っていたのですが、アンジェリカは脳筋過ぎる彼らが騙されたりしないのかが心配だったようで……私は反帝国という括りで物作りが得意な人達が武器を作って戦える人達が戦えば良いのでは?と考えていたのですが、アンジェリカは各種族の独立性とかを考えていたのだそうです。


「後々問題になって来る…という事ですか?」


「そういう事ですね、武器を手放しても元に戻るだけではあるのですが、一度便利さ慣れてしまうとなかなか手放す事ができませんし…友好関係が未来永劫続くものでも無い事を不帰の森に引きこもっているエルフやドワーフ達が証明しておりますので」

 今は疎遠になっているエルフやドワーフ達もザインブルグ帝国が建国された当時は他種族と一致団結していた時期があったのですが、帝国が腐って来た辺りで徐々に離れていく事となり……未来永劫続く帝国も無ければ永遠に続く盟友もいないのだという考えで組織づくりをするべきだと考えているのだそうです。


「もちろんそんな事を言っている場合ではないという事は重々承知なのですが、どうしても騎士としての考えが抜けきらず…私はやはり頭が固いのでしょうか?」

 だから獣人達が協力路線を選ぶというのならと何も言わなかったのですが、国防を担う(騎士)として武器の生産を他種族(別の勢力)に委託してもよいものかと不安を覚えてしまうのでしょう。


「そんな事はありませんわ、私なんて場当たり的に適当な事を言っているだけで…こうして一般論を述べてくれるだけでも助かっていますわ」


「そう言ってくれると助かります…が、本当にこれで良かったのかと考えてしまうのですよね」

 なんて獣人達の行く末の事まで考えてくれているアンジェリカは心優しい心配性なのだと思いますが、確かに未来永劫仲良しのままという保証もありませんし……。


「そうなってくると…獣人達だけでも維持管理ができる物を注文しないといけませんのね…ならむしろいっその事、ドワーフ達に弟子入りをするというのはどうでしょう?アンも獣人達が作り上げた砦を見て驚いていましたし、物作りに興味がある人達が弟子入りをすればよろしいのでは?」

 それなら戦う事が出来ない(手先が器用なだけ)と馬鹿にされている人達の地位向上にも繋がりますし、思わぬ可能性が芽吹く事があるのかもしれません。


「それは…とても良い考えだと思います、やっぱりアリシアは凄いですね」


「あら?もっとめてくださっても良いのよ?でも…こうして気づけたのもアンが問題点を指摘してくれたおかげですわ」


「アリシア…」


「アン…」

 そうして最近ご無沙汰だった事もあって自然な流れでアンジェリカと唇を……。


(レスリーナちゃん達が戻って来るまでに済ます事が…って、私はいったいなにを考えているのですか!?)

 なんて1人でワタワタとしながら目を閉じたのですが、腰に回していた手を下に動かそうとしたタイミングでレスリーナちゃんがガサガサと茂みを掻き分け飛び出して来たのでおもいっきりビックリしてしまいました。


「大変だ!ゴロとシンデが肉人形に捕まった!!」


「はっ、え?何がどうなってそうなりましたの!?」

 そうしてドキドキした事やら告げられた言葉やらの温度差で風邪をひきそうになってしまったのですが、レスリーナちゃんが手短に説明してくれた内容によりますと少し進んだ先で肉人形と遭遇して血気盛んに挑んだ2人が捕まってしまったのだそうです。


「どういう事ですか?不帰の森の近くでは帝国軍の動きが低調だという話でしたが?」


「わからん、わからんが…我を逃がすために2人は…いや、それより見てもらった方が早いな、こっちだ!」

 なんて急いで下着を整えならレスリーナちゃんを追いかける事になったのですが、状況としては肉人形を見つけたゴロさんとシンデさんが勇猛果敢に突撃していってしまい……出来れば別動隊の有無とか相手の数などを考えてから動いて欲しかったのですが、レスリーナちゃんが言うには2人は敵を目の前にして逃げ出すような腰抜けではなかったのだそうです。


(だからといって…ですわ!)

 レスリーナちゃんを逃がす判断が出来たのは御の字なのかもしれませんが、出来たら私達と合流してから攻撃を開始するという判断をして欲しかったですわ!


「しかし回り込んで来ていたとなると…獣人達の活動に手を焼き迂回をして来た可能性がありますね、アリシアもレスリーナもあまり大規模な攻撃は行わないように、本隊がやって来たら厄介です」


「わかりました…が、本当に面倒臭い搦め手で攻めてきますのね」

 獣人達の防御施設は籠城戦に耐えられる造りをしていませんし、後ろに回り込まれて包囲されてしまったらひとたまりもありませんわ!


(そういう搦め手が苦手だとわかっているからの策略なのでしょうけど、本当に嫌らしいですわ!)

 なのでこのままでは不味いと心の中で悪態をついていたのですが、とにかく急いでレスリーナちゃんの後を追いかけるとグジュグジュに崩れた木々と灰色に変色した土が広がる場所に突き当り……場所の異常さやすえた臭いも気になるのですが、まるで精気が吸われたような枯れ木の中にブヨブヨとした肉の塊が蠢いていまして……あれが肉人形という奴なのでしょうか?


(思ったより肉々しいといいますか、ブヨブヨとしておりますのね)

 大きさは大体1メートルから1.5メートル程度の肉の塊が幾つか転がっておりまして、触腕のような物をウニョウニョと蠢かせながら転がるように移動をしていました。


「くそっ、放せ、放しやがっ、ぉおお、お前、そんな所を!?」


「お゙、お゙おぉお゙お゙お゙っ!!?」

 そんな肉人形に捕まっているゴロさんとシンデさんは必死に腕や足をブンブンと振り回しているのですが、おち〇ち〇に吸い付いている肉人形が前後に動く度にビクンビクンと身体を震わせながら雄叫びを上げていまして……助けなければいけないと思いながらも途轍もなく気まずいといいますか、とにかくそんな事を言っている場合ではないので何とかしないといけませんわ!


「大丈夫か!?助けを呼んで来た!」

 そうしてレスリーナちゃんが獣人特有の身体能力を生かして肉人形の集団に突撃して行きまして、私達も恥ずかしがっている場合ではありません。


「私達も…その、とにかく助けますわ!」


「アリシア!敵の強さが未知数なので無理はしないように…あと、大技は禁止ですよ?」


「ええ、わかっておりますわ!アンもフォローをお願いします!」

 他の増援が無いかと周囲の様子を窺っていたアンジェリカからそんな指示が飛ぶのですが、帝国軍に気付かれないように必殺技を放つ訳にはいかないと聖氣を込めたインペール(聖銀製の細剣)を構えまして……こういう急な接敵だと出力調整が大変なのですが、だからといって常時エッチなウェディングドレスを着ておくというのも恥ずかしいというジレンマが問題ですわ!


(そんな事を考えている場合ではありませんし…とにかく、今は!)


「BUXU!?」

 手近な肉人形から処理して行こうと攻撃を開始するのですが、当たった感触が微妙すぎまして……何なのでしょう、この感触は?


(妙にブヨブヨしていて…やりづらいですわ!)

 魔力や聖氣を吸い取る触贄の揺り籠(宰相の魔物)のようにこちらの力を吸い取ってきますし、ブヨブヨとした体はこちらの斬撃や打撃を吸収してしまってダメージを与えているという感触がありませんでした。


(ただ、動きが遅いので…っと、なんとか?)

 振り上げられた触腕がブワーンとゴムのように伸び縮みしてくるのですが、よくよく見ていれば回避できるくらいの速度ですし、軽く屈むように避けながら距離をとるとゴロさん達からの罵声が飛んで来ました。


「てめぇら、何ザコどもに苦戦してんだよ!そんな腰の引け…ったぁ攻…っぅ、ふぅううう!!」


「ああもう、捕まっているだけの人がうるさいですわ!文句があるのなら自力で脱出してください!!」


「そうだぞ、文句があるのなら何とかしろ!」

 というより知り合いのいき顔を見せつけられているのはなかなかキツイものがあるのですが、ここで平常心を崩したら私達まで肉人形に呑み込まれてしまいますわ!


 とにかくレスリーナちゃんが肉人形の攪乱をしてくれている間に私とアンジェリカで数を減らしていきまして……アンジェリカが立ち回りの上手さで捌いていくタイプだとすればレスリーナちゃんは乱戦に飛び込み縦横無尽に活躍するタイプといいますか、とにかく2人がヘイトを買ってくれているおかげで私も何とか立ち回る事が出来ているという感じでした。


(こうして2人の戦い方と比べると…必殺技を封じられた時の私って酷すぎますわ)

 アンジェリカは言わずもがなですし、レスリーナちゃんは連携が上手いとか状況の把握が得意なタイプといいますか、3人の中で唯一撤退を選ぶ事が出来たという冷静さもありますし、ザックスさん(獣人の族長)の娘という事で集団戦にも長けているのかもしれません。


(それにしても、魔力を吸われるからでしょうか?思ったより疲れて…)

 増援がなかったので肉人形達を倒し切る事が出来たのですが、どこまで斬り刻めば倒せるのかがわかりづらい敵でしたし、視界の端でビクンビクンと震えている2人が目障りすぎて精神面での疲労が著しいですわ。


「確かにこれは…何かしらの対策を考えておかないと不味いのかもしれませんね」


「ええ、これだけ手こずるとは…侮れませんわ」

 倒し切った後にアンジェリカが肉人形に対する感想を述べていたのですが、物理攻撃と魔法攻撃に対する耐性を持っている相手に対して粗末な武器や爪や牙だけで戦うのは無謀すぎると結論をつけざるを得ませんでした。


「ゴロ~シンデ~大丈夫か?」


「くっ、毛無しの前で不覚を取った…」


「面目ねぇ、くそ…やってやるって張り切ったのにこのザマだ」

 そんな事を話し合っている間にレスリーナちゃんが肉人形に聖氣を吸い取られていたゴロさんとシンデさんを助け出していたのですが、ヌチュヌチュにされていた2人は色々な意味でしょんぼりとしておりまして……命には別状がないようですし、レスリーナちゃんの手を借りて何とか立ち上がる事が出来ていたので一安心ですわ。


(やれやれですが…っと、今、何か動きませんでした?)

 とかそんな3人を見ておりますと、視界の隅で何かが動いたような気がいたしまして……。


「ちょっと待ってください、そこに何かいますわ!」

 私は枯れた木々の根っこの近くに落ちている人形……いえ、動いているので妖精か小人でしょうか?とにかくそんなモノを発見して大きな声を上げてしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ