27:誇示と提案ですわ
ひょんな流れで獣人達の集落にやって来た私達なのですが、居並ぶお偉いさん達の前で力を示せと大岩を持って来られまして……こんな事で怖気づいていたら聖勇者の名が廃るというものですわ。
「では、私から…動かせばよいとの事ですが、持ち上げても良いのですよね?」
なんて燃えていたのですが、まずは自分がとアンジェリカが名乗り出て挑戦をする事になりました。
「問題ない、己の力を示す事が出来たら良いのだからな…だがこの大きさを1人で持ち上げるのは骨が折れるぞ?なんたって我らの中でも選り抜きの力自慢が数人がかりで運んで来た大岩だからな!」
そうして挑戦的な笑みを浮かべるザックスさんが頷くのを見てからアンジェリカが大岩の前に立つのですが、身体強化を強めてヒョイっと大岩を持ち上げておりまして……あちらこちらから「おぉ」といった感嘆のため息が漏れましたし、疎らにパチパチといった拍手があがりました。
「天晴!この大岩を持ち上げる事が出来る者は我らの中でもそうはおるまい、それを楽々と…この結果に意義がある者は名乗り出るが良い、ここで力比べをして競い合おうぞ!」
「では…俺が!」
ザックスさんが周囲を見回しながら呼びかけると若いトラ系の獣人さんが出て来たのですが、周囲からは「お前があの大岩に挑戦をするのか?まだ早いんじゃあ」とか「よく言った、毛無しに目にものを見せてやれ!」とか野次なのか応援なのかがわからない言葉が飛んできまして……力比べ大会みたいなノリになっているのですが、こんな軽い感じで大丈夫なのでしょうか?
「シンデか…よし、挑戦してみろ!」
「うっし、おぉおおおおおっ!!」
そうして顔を真っ赤にしながら大岩に掴みかかったシンデさんが力を入れると数センチだけ持ち上げる事が出来たのですが、ヒョイっと持ち上げてしまったアンジェリカと比べるとどうしてもショボく思えてしまいますわ。
「っ!?くっ、毛無しなんぞにぃ…ぃいいい!!」
それでも何とか必死に気力を振り絞ってもう数センチだけ持ち上げていたのですが、彼が頑張れば頑張るほど軽々と持ち上げたアンジェリカの凄さが引き立つだけのような気がしてしまいます。
「シンデ、それくらいにしておけ…」
「ふっ、ッ!?た、戦えれば俺の方が強いからな!こんな岩っころを持ち上げただけで良い気になるなよ!」
なのでザックスさんからの仲裁が入ってしまい……捨て台詞を残しながらズズーンと大岩を置き直していたのですが、これでアンジェリカが認められたのかと思っていたら「次は俺が!」とか「いや、俺だ!」と次々とチャレンジャーが現れてしまいました。
「本当に…競い合うのが好きな方達なのですね」
一仕事終えたアンジェリカがそんな事を言いながら近づいて来ていたのですが、何かもう私達をそっちのけで力比べ大会を繰り広げている人達を観戦する事になりまして……。
「さて、そろそろ梢子の娘の出番だが…どうする?」
殆どの人が微かに持ち上げられるかどうかという結果に周囲の人達がザワついていたのですが、皆が一通り挑戦してから私の番が回って来る事になりました。
「任せてください、ただ私も…シンデ…さん?のように力自慢という訳ではありませんので、別の方法で力を示してもよろしくて?」
素の状態の雨宮さんに力負けする程度の身体強化しか出来ないといいますか、魔法関連の練度が全体的に足りていないのですよね。
「ふむ…まあ、よし、だがてこの原理などを使うのは駄目だぞ?己の体に宿る力をこの大岩にぶつけるのだ!」
だからといってここで引き下がる訳にもいきませんし……アンジェリカがあっさりと持ち上げていた事や獣人達から一目も二目も置かれている雨宮さんの娘という事で「コイツにはどのような力があるのか」みたいな期待のされかたをしているのですが、上がりまくったハードルを越える為にも頑張らないといけませんわ。
「ええ、おもいっきりぶつけさせてもらいますわ…では、簡易版…ジャッジメント・ディザス…ってあぁあああ!?」
「なっ!?おぉぉおおおお!?」
「アリシア!?」
魔法では練度が足りませんし、触媒にインペールを使った方が良いというのはわかっていたのですが、皆が素手で頑張っているので私も聖氣で作った棒を構えて必殺技を放ちまして……すぐに強度不足の棒が崩れて集めた聖氣が拡散してしまったのですが、それが良い感じに作用したのか大岩と私の服だけを消し飛ばしていきました。
(そ、そうでしたわ…旅装のままだと服が)
衆人環視の前でいきなり全裸になってしまった私に対してアンジェリカがすかさず新しい服をスポっと被せてくれたのですが、突然の事でドキドキしてしまい……。
(け、結果良ければすべてよし…ですわ)
アンジェリカには「無茶をしないでください」みたいな視線を向けられてしまったのですが、聖氣の暴風に当てられた人達がコテンと転がり私の事を見ている余裕がなかったというのが不幸中の幸いですわ。
「皆、無事か!?いや~しかし…綺麗サッパリ抉り取ったな、流石梢子の娘だというべきか、やはり梢子の娘だったというべきか」
「あら~娘の頑張りに対して不満でもあるのですか?母の前で良い所を見せようと張り切りすぎてしまっただけではありませんか」
「結果に対しての不服はない…が、荒れ狂う海を平然とした顔で泳いできたかと思ったら若い連中をボコボコにしていた人間の事を思い出していただけだ」
うふふと笑いながら首元と肩を示している雨宮さんと頭をガシガシと掻いているザックスさんがのんびりとした声で話し合っていたのですが、私の必殺技で吹き飛ばされていた人達も「いや~まいったまいった」とか「良いモノを見せてもらった」とかケラケラと笑いながら起き上がっていたりと色々と聞きたい事があったのですが……真実を知るのも怖いので何とかこの場を切り抜ける事が出来ましたという事にしておきましょう。
「しかし本当に…これだけの力があれば肉人形にも対抗ができるというのに…どうだ?いっその事梢子がこの群れを率いるというのは?」
なんていう重大な話し合いがサラリとおこなわれていましたし、周囲に居た人達がピンと耳をそばだて始めたのですが、言われた方の雨宮さんは「面白い冗談です」みたいに手を振りながらうふふと笑っていました。
「申し訳ありませんが、それだけは…諸国放浪の旅が終わっていませんので…それにこの子もまだまだひよっこ、言うなれば相性的なものでどちらが優れているという話でも」
「そうか…お前達が上に立てばと思ったのだが、上手くいかないものだな」
ザックスさんとしては「力のある者に皆を任せたい」という感じなのかもしれませんし、そんな弱音を言い出したくなるレベルで肉人形達に手を焼いているのかもしれませんが、いきなり獣人達を率いてくれと言われても困ってしまうというものですわ。
(私達が手伝えれば良いのですが、人種の壁を気にしているといいますか…群れの外に居る人達の助力を拒んでいる感じがしますのよね)
なので彼らの力だけで帝国軍を何とかできないかと考えてみたのですが、タマの頭を撫でている雨宮さんを見ているとふと思い立った事がありまして……。
「皆さんからは自分達の力で肉人形をぶちのめしたいという気概を感じるのですが…その場合、自分達で倒せたら武器を使っても良いのですよね?」
獣人達の中には石の武器を使っている人達がいますし、禁止されている訳でも無いと思いながら確認を取ってみたいのですが……ザックスさん達はおもいっきり渋そうな顔をしていました。
「う~ん?それは、まあ…構わないが…武器、かぁ?」
ザックスさん達は「何を言い出すんだ?」みたいな顔をしていますし、武器を持っている人達は何とも言えなさそうな顔で視線を逸らしていました。
そんな態度を見ている限りでは武器を持っている人達の立場が低そうだと思ってしまったのですが、事情を聞いてみると武器というのは爪や牙を持たない者が持つ代用品といった扱いなのだそうです。
「少し強く叩きつけたら刃が欠ける、手入れを怠ればすぐに壊れるような粗悪な代物だからな、最後に信じられるのは己の肉体のみよ!」
とかいう考えが獣人達の中では一般的なようで……となると私の提案を受け入れてくれるのかがわかりませんが、ここまで言ってしまったからには最後まで言い切ってしまう事にしましょう。
「それは…武器の精度に問題があるだけで、例えば雨宮さんの持っている紫雲斬鉄は特殊な製法で作られておりますし、そういう特殊な魔法武器を不帰の森にいるドワーフの皆さんに作ってもらう事が出来れば肉人形とやらにも対抗できるのではありませんか?」
エルフ達もいるというのであれば何かしらの魔法的な武具を持っているという可能性もありますし、そういう特別な武器を持てば肉人形だろうと何だろうとザックスさん達の力だけで撃退できるのではないかという作戦ですわ!
「なるほど、肉人形を倒せる武器をドワーフ達に作らせる…か、考えた事が無かったが、ふぅむ…試してみる価値はあるのか?」
武器に対する不信感は根強いものの肉人形の対策に困っているザックスさんからは好意的な反応が返って来たのですが、アンジェリカが一瞬何かを言いかけていたように武器を持つ事に反対している人達も当然いる訳で……。
「いやいや、やはり己の肉体で戦ってこその猛者というものよ、軟弱な武器に頼るなど…」
「待たれよ、つまり牙も爪も持たぬ我らは狩られるだけの弱者だと?」
「いや…そのような事を言っている訳ではないが」
なんて肉食系の獣人さん達と草食系の獣人さん達に分かれて激論が交わされる事になったのですが、獣人達の武装化を実現させる為には避けて通る事が出来ない問題点をアンジェリカが指摘してきました。
「待ってください、武器を持つ持たないを論ずる前に不帰の森に棲んでいるドワーフ達と接触しなければいけないという問題がありますし…その辺りの話し合いは進んでいるのですか?それに作ってもらう場合の対価はどうするのですか?」
「そんなのは…ドバーっと行って占領すればいいだけよ、ドワーフ共も殴って言う事を聞かせればいいのではないのか?」
そうして誰かが上げた声に対して皆が頷いていたりと弱肉強食な獣人達は暴力的な解決策をとろうとしておりまして、それでは帝国がやっている事と何ら変わりがありませんわ。
「脅して従わせるのでは帝国がやっている事と同じですわ、ここに居る人達はそのような理不尽な暴力によって住処を追われたのではないのですか?」
「む、それは…いや、しかし…あれだ、俺達はあんな野蛮人とは違う!」
「その通り!帝国の奴らが卑怯な手を使わなければ俺達は負けなかった!」
反論してきた人達の中には自分達は帝国と違うと言っている人が居ましたし、中には力があれば負ける事が無かったと言っている人達も居たのですが、具体的に帝国とどのように違うのかを説明できる人はおらず……別の意味でザワザワとし始めたタイミングでザックスさんが口を開きました。
「落ち着け、まだ不帰の森に到着した訳でも食糧の問題が解決した訳でもない…それに伝え聞いた限りでは帰って来た者がいないと言われている難所だ、そのような場所にどのようにして移り住むのか…エルフやドワーフとかいう連中は俺達を迎え入れてくれるのか…それらの問題を話し合うために集まってもらっていたのを忘れたのではあるまい?」
なんて静かな気迫を発散させると全員が黙り込んでしまい……どうやら色々な種族の代表が集まっていたのは移住に関する話し合いをするためだったのだそうです。
「では…言い出しっぺの私が行ってきますわ、元から不帰の森に向かっている途中でしたし、皆さんの受け入れについての話や武器についての話をして来れば良いのでしょう?」
元からそのつもりでしたし、ヴォッサム将軍からの親書を渡す必要があったので名乗り出たのですが、部外者である私がそんな事を言い出したので「毛無しを代表として送り出すなんて」という人達もおりまして……そういう風にゴチャゴチャと言っている人達を黙らせる為にもレスリーナちゃんが前に出てきました。
「アリシアで問題があるのなら…我が代表として向かう事にしよう、それなら皆も納得するか?」
「む、ザックスの娘か…それなら、まあ…」
流石に皆を纏めているザックスさんの娘という事でレスリーナちゃんに対する信頼は厚いようで……族長の娘が同行するのならみたいな感じで纏まりかけたところで元気な人達が声をあげました。
「ちょいちょいちょーい、お嬢が行くのならオレもついて行くぜ?ザックスの旦那の娘さんが不帰の森に呑まれたってなったら一大事だからな」
「俺もついて行く…負けたまま尻尾を巻くのは一族の恥だ、毛無しなんぞに良いところを持っていかれてたまるか」
なんてレスリーナちゃんの事を慕っているゴロさんやアンジェリカに敵対心を燃やしているシンデさんも名乗り出て来まして、売り言葉に買い言葉の流れで不帰の森に向かう即席の使節団が結成される事となりました。




