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24:垢嘗めスライムと和服美人ですわ

 旅支度を整えた(わたくし)達は、ヴォッサム将軍から託された親書を不帰(かえらず)の森なんていうおどろおどろしい場所に住んでいる人達に渡すために旅立ったのですが、途中でウロウロとしている帝国兵の小隊を見つけたので迂回する事になりまして……。


「ただいま戻りました、帝国兵は誰かしらを探している様子でしたが…日が暮れて来たので拠点に戻って行ったようですね」

 下手に見つかっても厄介ごとの種になるだけなので街道沿いに広がる林の中に潜んでいたのですが、帝国兵の巡回が増えて来ると動きづらくてしょうがないですわ。


「お疲れ様です、それじゃあ(離れて行ったのなら)…今日はこの辺りで野宿かしら?」

 やり過ごすのに時間をかけてしまいましたし、不帰の森に近づけば近づくほど鬱蒼とした木々が茂っているので日の光が入らず薄暗くなるのが早くなっているような気がいたします。


「そう…ですね、周囲の確認もしておきたいですし…早めに野営の準備を始めておきましょう」

 しかも久しぶりの野宿続きの旅路という事もあって無理をしないというのが方針になっておりますし、早々に野営地を決めて腰を落ち着けてしまった方が良いのかもしれません。


「そうなりますと…もう少し奥の方に入っていた方がいいのかしら?」

 街道沿いでは帝国兵に見つかってしまう可能性がありますし……。


「では…向こうに小休憩に適した広場がありましたのでそちらに、この辺りは獣臭がいたしますので森の奥に魔物が潜んでいないかの確認をしてきますので…本格的な野営の準備はその後という事で」


「わかりました、それじゃあ…アン(アンジェリカ)が調べてくれている間に焚火の用意をしておきますわ、帰って来たらティータイムとしゃれこみ一息入れますわよ」

 コソコソとした忍び足が出来ない私がついて行っても足を引っ張ってしまうだけですし、私はアンジェリカが一休みできる場所を用意しておく事にしましょう。


「お願いします」

 しかしこれがなかなか大変な事なのでクスクスと笑われてしまったのですが、念のためという事でお鍋とコップとお茶っ葉の入った袋を渡されてしまいました。


(さて、自信満々に言い切ったのはいいのですが…相変わらず火力の調整が難しいですわ!)

 そういう訳でそれぞれの作業を熟す事になったのですが、適当な枝を拾い集めて魔法で火をつけるのが難事業すぎまして……。


(アンは練習あるのみだと言っておりましたが、こういう細かい作業は苦手ですのよね)

 私の場合は内包している聖氣が多すぎるせいで細かな作業が出来ないといいますか、魔力を純化させたら少量の聖氣が生まれるという魔法力学的な原理と逆の事をしておりまして、少量の聖氣を莫大な魔力に変換してから魔法を使う事になるのでどうしても供給過多になってしまいます。


 だからといって聖氣専門のままだと出来る事の幅が狭くなってしまいますし、退屈な反復練習より実践的な特訓の方が私にあっているのでは?という事で事あるごとに挑戦をしている状態なのですが……その成果がなかなか出て来ないというのが辛いところですわ。


「熱っつ…い、ですわ!?」

 そうして絞りに絞った魔力でライターくらいの火をつけようとしてみたのですが、ボン!という音と共に小爆発が起きて組みあげた薪セットが吹き飛びまして……本当にもう、やっていられませんわ!


「何か爆発音が聞こえてきたのですが…大丈夫ですか?」

 そんなタイミングでアンジェリカが戻って来たのですが……まったくもって恥ずかしいところを見られてしまいました。


「平気ですわ!それよりお早いお帰りで…どうでした?」


「すみません、あまり奥の方までは調べられてはいないのですが…何かしらの魔物が潜んでいる痕跡がありましたので、野営を取り止めて別の場所に移…」

 なんて言っている途中でガサリと近くの茂みが揺れまして、アンジェリカが無言でランプデトネイターを取り出しました。


 それを見ていた私も掴んでいた薪を構えまして……構えてから何でこんな物を持っているのだろうという感じでインペール(聖銀製の細剣)に持ち替えたのですが、私達がガサガサと揺れている茂みを見守っていると奥の方から半透明な何かが飛び出して来まして……。


「きゃー!って、可愛い!可愛いですわ!」

 茂みから飛び出して来たのは40センチくらいの透き通った薄紫色をしている潰れた水風船みたいな生き物だったのですが、ちょこんとしたつぶらな瞳やωみたいな口がとってもプリティですわ!


「ねえ、何て言う魔物なのかしら?」

 いくら見た目が可愛いといっても魔物である事には変わりがない訳ですし、アンジェリカに触って良いのかと視線で聞いてみたり指をさしてみたりしていると苦笑いを浮かべられてしまいました。


垢嘗(あかな)めスライムですね、野外で見かけるのは珍しいのですが…触っても大丈夫ですよ、益獣(えきじゅう)ですので」

 との事で、アンジェリカが言うには汚れとかを綺麗にしてくれる掃除用のスライムで、トイレを綺麗にしてくれたり生ゴミをムシャムシャしてくれたりとファティエラ(神殿都市)でも人目に付かない場所で頑張ってくれている生き物なのだそうです。


「え…っと、それは…?」

 アンジェリカの許可が出たので撫でてみようとしゃがみ込んでいたのですが、生ゴミはともかくトイレの掃除をしていると聞いてしまうと手が止まってしまい……その動きが露骨すぎたのかアンジェリカにはクスクスと笑われてしまったのですが、今目の前に居る個体は大丈夫なのだそうです。


「その子は大丈夫だと思いますよ、垢嘗めスライムは食べている物によって色が変わりますので…そこまで透明な個体ですとゴミの類は食べていないと思いますので」

 との事で、そういう物を食べている個体は濁って透明さを失うのだそうです。


「そ、う…ですの」

 因みに人間の言葉を理解できる程度の知能があるのでペットとしての人気も高いようで、生きている物は食べないという安全性や触り心地の良さからマニアックな人になると夜のお供にしている人もいるのだそうです。


(夜のお供にというのはどうかと思いますが、触り心地が良いというのは同意見ですわ)

 感触としては弾性の高い水風船みたいな手触りでして……垢嘗めスライムの方も満更でないのか「ぷぃ~」と目を細めながらプルプルと震えていますし、この子の人懐っこさを見ているとペットにしたいという人の気持ちがわかるような気がしました。


「プニプニしていますのね…って、この子ったら」

 頭を撫でていると小さな口で指先を咥えて来たのですが、プチュプチュとした感触は奇妙な生暖かさがあるのに嫌な感じがしませんし、魔物や帝国兵との戦いがなければこのまま連れて行ってしまいたいくらいですわ。


「それはよろしいのですが…そろそろ出て来たらどうですか?」

 なんて私が垢嘗めスライムと戯れておりますと、スライム君のやって来た方向に向けてアンジェリカが声をかけていたのですが……。


「あら~気づいておりましたの…不審者ではありませんわ、その子(スライム)の母で様子を見に来ただけですので」

 なんて事を言いながら出て来たのは深紫のデコ出しストレートを腰の辺りで括っているというおっとりとした感じの背の高い(175cm)女性で、スラリとしていながらも筋肉質な体やたわわなバスト(Hカップ)を巫女装束っぽい衣装で身を包んでいる和服美人といった感じの人でした。


(綺麗な人…ではあるのですが)

 服装(巫女っぽい服)もそうなのですが、持っている武器も尋常じゃない長さ(全長3m)の大太刀ですし、こちらの世界にも和風っぽい国があるのでしょうか?


(一つだけ、分かった事がありますわ)

 もしかしたらザインブルグ帝国だけがエッチな服装をしているのではないかというささやかな希望があったのですが、別の国からやって来たと思われるこの人も絹で出来た襷ブラに短めの前垂れに褌という変態チックな服装をしていますし、お腹を守るように巻かれた帯や肩を覆わずに二の腕辺りで括られているだけの振袖やフットカバー型の足袋に厚みのある草履といった和風な見た目のおかげで何となく巫女装束っぽく見えているのですが、後ろからは色々と丸見えだったりとどこからどう見ても露出狂の痴女にしかみえない見た目が国際基準になっているという事ですわ!


「母?」

 なんてよくわからない事にショックを受けている私を他所に、垢嘗めスライムの事を我が子認定している女の人をアンジェリカが訝しがっておりまして……。


「うふふふ、母と子の間に種族や血筋などの問題は些末なものですわ」


「考えとしてはわかりますが、血縁上の(社会的な)問題が…って、待ちなさい!」


「え…ちょ、ムグっ!?」

 なんてよくわからない問答の末、長身の女性がスルリと近づいて来たかと思うといきなり抱き着かれてしまったのですが……私を守る位置にいたアンジェリカを無視して(突破して)抱きついて来た事に恐怖を感じてしまいます。


(アンが反応できなかった!?しかも私ほどではないとはいえなかなかのモノをお持ちなので押し付けられていると…じゃなくて、絶妙な力加減が逆に怖いですわ!?)

 まったく力を込められている感じがしないどころか丁度良い力加減なのですが、モガモガと藻掻いても女性の腕がピクリとも動かなくて……私が力負けをしているという事はこの人も上級神躯持ちなのでしょうか?


「うふふ、元気な事は良い事です…どうでしょう?タマ(垢嘗めスライム)も貴女の事が気に入っているようですし…一緒に我が子になるというのは?」


そひゃふにゃ(それは)…」


「お断りします、どこの馬の骨ともわからない輩にアリシアを渡す訳には…っ!?」

 そうして私が返事を返す前にアンジェリカが断りを入れつつ盾剣を構えるのですが、気勢を制するように鞘のついたままの刀をつきつけられまして……。


「あら~…武力に訴えても良いのですが、母は強いですよ?」


「くっ…と」

 アンジェリカも軽くフェイントをかけながら大太刀の間合いに入り込もうとしていたのですが、まるで先読みをしているように切っ先を向けられるので踏み込む事ができませんでした。


(アンが手玉に取られて…とか感心している場合では無いですわ)

 お互いに本気のホの字も力を発揮していないのですが、私を片手で抱きしめながらそんな事をやってのけるという超人的な技量を持っている女性に対してアンジェリカが焦れ始めていますし、モニュンとした胸の間に挟まれながらブランブランと揺れている私としてはまずは放して欲しいといいますか……2人が魔法や聖氣を使い始めたら大変な事になってしまいます。


(この人が人攫いや何かしらの悪人だというのなら容赦はしませんが、そういう感じでもありませんし)

 抱きかかえ具合が久しぶりに再会した我が子を抱きしめているだけという感じなのですが、このままでは不味いと全力で女性の腕から逃れようと力を込めまして……。


「ぶっは!と、とにかく一旦放してください!というより当事者である私を無視してヒートアップしないでくださいませ!」


「みゅーぅ!!」

 何とかおっぱいの間から脱出した私が叫ぶと垢嘗めスライムのタマも「そうだそうだ」と言っているような気がいたしますし、一体全体どうしてこのような事になっているかの説明を求めますわ!

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