23:戦いの傷痕やこれからのお話ですわ
※あけましておめでとうございます、今年もアリシア達の冒険をよろしくお願い致します。
ドゥークーさんとの戦いの後、落盤によって埋まりかかっていた私達は何事かと駆けつけて来たゲオルグさん達に掘り起こされまして……上級神躯持ちの私達はそれでよかったのですが、少し離れた場所に転がっていたジャンさんが全治数か月の大怪我を負ってしまいました。
「その…ブフッ、い、いや、ポーションのおかげで命に別状はない…が、そうだな、何の役にも立てなかったのが悔しくて合わせる顔が無いとか言っていたな、それ以上の詮索はしないでやってくれ」
なんてゲオルグさんが噴き出しながら搬送されて行ったジャンさんの話をしてくれたのですが、後々別の人から聞いた話だと高熱に炙られた事で髪の毛がチリチリに焼けてとても面白い髪型になってしまったり斑に焼け焦げたような日焼け跡が残って人前に出られなかっただけなのだという事を教えてもらい胸をなでおろす事になります。
(命に別状がないのならよかったですわ)
治そうと思えば治せたみたいなのですが、アフロになったからといって死ぬ訳でも無いですし……他に優先するべき重傷者が多かったので後回しにされているだけなのだそうです。
そうして途中で引き返した2人も無事だったので後々笑い話にできるくらいの被害しか無かったのですが、ここで問題となって来るのが私がドゥークーさんを消し飛ばしてしまった事でして……。
「連中も嫌気がさしていたのかただの腰抜けなのか…十中八九後者だと思うが、降伏して来たんだ、後の事はヴァルド将軍が何とかしてくれるさ…それに化け物になったんだろ?捕らえる事も無力化する事も出来なかったんなら仕方がないさ」
なんて状況証拠的に死亡しているのは確実とされていますし、最後まで残ってくれていたジャンさんが見届けてくれていたので何とか帝国兵を降伏させる事が出来たのですが……曖昧なまま終戦したので不穏な動きを見せている人達がいるのだそうです。
「仕方がない…です、か」
私達がもう少し上手く立ち回っていたらという罪悪感に歯切れが悪くなっておりますと、ゲオルグさんは「やれやれ」という感じに溜め息を吐きました。
「何をへこたれているのかはわからないが、お前達が頑張ってくれたおかげでこの戦いを終わらせる事が出来た、助かった連中も大勢いる、まずはそっちを誇ってやれ」
そういう風に励まされてしまいまして……政治的な話になると私達が居てもお役に立つ事が出来ませんし、不穏な状態を落ち着かせるのには少しばかりの時間が必要だという事で一旦後方に下がる事になりまして……私達はその時間を利用してフレイスト死火山にある神殿群やノルニスの洞窟を調べる事になりました。
「ヴォッサム将軍は約束を守ってくれたようですね、必要な人員や資料を回してくれているようですし…調査がはかどりますよ!」
「ええ…助かりますわ」
ややへこんでいた私を気遣うように明るく振る舞ってくれているアンジェリカの優しさが身に沁みますし、ギュッと握ってくれた手の温かさが嬉しくて……今はマリエラ様からの宿題を終わらせる事にしましょう。
そういう訳で気持ちを入れ替えながら最初に手を付けたのが裾野に広がる神殿群の調査だったのですが、ヴァーナルの人達が使っていなかった奥の方の建物には瘴気が滲んでいる場所がありまして……これに関してはごくごく普通の事なので異変といえるようなものでもないのだそうです。
「ノルニスに殺された人達の怨念が残っていますからね、瘴気が滲むのも仕方がないのでしょう」
との事で、私達の聖氣で浄化をしておきまして……調べた感じでは場所自体におかしなところは無かったのですが、ヴァーナルの人達が纏めてくれていたノルニスの民の日記……というより日報でしょうか?とにかくノルニスについての文章を纏めてくれていたのでそちらに目を通す事になりました。
(まったくどうでも良い事なのかもしれませんが、私って文字に対するチートもありましたのね)
会話には不自由していなかったので意識していなかったのですが、出された資料も読む事が出来まして……とにかくそれによるとノルニスとこの神殿群に住んでいた人達の関係が良好なものであったという事を知る事ができました。
(本当に…急に豹変しましたのね)
記録が途絶える前は『夢見が悪いと仰っていたが大丈夫だろうか?』とか『マリエラ教の神官長は治癒魔法の使い手だと聞く、一度相談を』とかノルニスの事を心から心配しているといった記述が多いですし、ノルニスの方も『必要なのは治癒魔法よりも悪魔祓いや呪いの類だろう』みたいな冗談を言っていたのだそうです。私にはその異世界ジョークの意味がよくわからなかったのですが……。
「ノルニスって喋れましたのね」
「え?ああ…そうですね、私も少しだけ話しをしましたが…やんちゃなお爺ちゃんみたいな感じの竜でしたよ?」
なんていう素朴な疑問にアンジェリカが過去を振り返りながら教えてくれたのですが、長年人間と暮らしている間に言語を覚えたようで……とにかく最終的には体調を崩して神殿群の寝床から洞窟の方に移って閉じこもってしまったのだそうです。
「ここで途切れておりますのね」
その後はごくごく普通の日常が書かれていたかと思うと『最近唸り声すら聞こえないので心配だ』という記述を最後に記録が途切れておりまして……つまり閉じこもってしまった後に豹変する何かがあって暴れ出してしまったのかもしれません。
「ですね…洞窟の方にも行ってみますか?」
「ええ、この様子なら洞窟の方には何かしらの証拠となる物が残っているのかもしれませんし」
なんていう感じで終の棲家となってしまった死火山の中腹にある洞窟の方に向かう事にしたのですが……。
(うっ、っとうに…下の方では感じませんでしたが…こっちはやばいですわ!?)
ブワリと淀んだ空気と共に酷い瘴気臭がいたしまして……それに合わせてジクジクと何かが地面から滲み出て来ているような感覚があるといいますか、とにかく誰かに見られているような強い脅迫概念に近い圧迫感を感じてしまいました。
「こっちは…一層酷い状況のようですね」
アンジェリカも瘴気の濃さに眉を顰めていたのですが、奇妙な視線や圧迫感のようなものは感じていないようで……もしかして聖勇者である私だけが感じる何かがあるのでしょうか?
「この様子だと…浄化をしないと調査も出来ませんね」
「ですわね、鬼が出るか蛇が出るかわかりませんが…ドラゴンだけは出ない事がわかっておりますわ」
洞窟の内部はノルニスの民が手を加えていたのでしょう、岩肌を削って利便性がはかられた形跡が残る巨大な洞窟住居になっておりまして……。
「OooOOxx…」
たぶんノルニスを諫めようとしたり助けを乞うために洞窟に入り込んでいた人がいたのでしょう、濃厚すぎる瘴気に曝されゾンビ化していた人達を倒して浄化をおこなうと奇妙な視線や嫌な感じが消えてしまいました。
「あの視線は…なんだったのでしょう?」
怪しすぎるので日数をかけて調査をしてみたのですが、最初に感じた視線とか圧迫感はそれ以降感じる事がなくて……。
「わかりません…が、これ以上の手がかりは残っていないと思いますし、調査の引継ぎをおこなってから下山する事にしましょう」
「ええ、仕方がありませんわ」
飲み水は作り出せるとしても食料的な問題がありますし、ずっと洞窟を調べていている訳にもいかないので継続的な調査はヴァーナルの人達に任せて神殿群に戻る事にしましょう。
(手がかりがありましたが…意味がわからなさ過ぎてよくわかりませんわ)
あの嫌らしい視線の主がノルニスを狂わせてしまったのだと思いますが、これ以上の尻尾を掴ませてくれるとも思えなくて……このまま調査を続けるべきかの判断もつかないままの下山だったのですが、この頃になるとベルザの復興が始まっていたりと色々な事が動き始めていました。
だからなのかはわかりませんが、ヴォッサム将軍から庁舎の方に顔を出して欲しいという連絡がありまして……たぶんドゥークーさんを消し飛ばしてしょげていた私の事を心配してくれているのだと思いますが、元気になって来たという事を知らせる為にも顔を出す事にしましょう。
「よく来てくれた、まあ…こっちは見ての通りだが、調査の方はどうだった?」
そういう訳でベルザに向かうと司令部に早変わりしていた庁舎でヴォッサム将軍と再会したのですが、相変わらず単刀直入に用件を切り出してくる御仁ですわ。
「お疲れ様です、こちらは…ボチボチですわ、奇妙な視線や圧迫感を感じたっきりで謎が謎を呼んでおりますの」
なので私達も手短に説明しておくのですが……。
「そうか、視線や圧迫感…ねぇ、大規模な儀式魔法の可能性があるが…ルヴァニスが感じ取れなかったというのがげせぬな…しかしまったく、あれだけ大口を叩いておきながら大した協力が出来ていないのがもどかしい」
「それは…しかたがないかと?」
「ええ、餅は餅屋、将軍には将軍にしか出来ない事がありますわ」
ここに来るまでに町の様子を見て来たのですが、人間狩りによって鉱山送りになっていた人達も部分的に戻って来ていたりとこれからへの希望とか不安がごちゃ混ぜになっているという感じですし、こんな状況でヴォッサム将軍がベルザを離れたら暴動が起きてしまうのかもしれません。
「そう言ってくれると助かる、一応往来を歩けるくらいの治安は回復させたつもりだが…まだまだこれからだからな…っと、細かい事はおいおい話すとして、お前達に伝えておこうという事案が幾つかあってな」
なんて言いながら本題に入っていくのですが、ヴォッサム将軍が言うにはドゥークーが利用していた植物……というよりリッテンベルン宰相が持ち込んでいた植物の報告を聞く事になったのですが、あれは最初からある程度の魔力や聖氣を集めたら暴走するように作られていた口封じも兼ねた代物だったのだそうです。
「集めた魔力を帝都に送らせていたようだし、アリシアが感じた視線…だったか?大規模な儀式魔法に使っているのかもしれないが、そちらに関してはわかり次第伝える事にしよう」
そんな事を教えてくれたヴォッサム将軍は「最初からそういう風に仕込まれていたのだから気に病むな」という事を言いたかったのだと思いますが、私の聖氣が吸われた事で条件を満たしてしまった感が否めなくて……それでも将軍の気遣いに対して軽く頭を下げておく事にしました。
その後はベルザを取り戻せたものの疲弊が著しい事やドゥークーを取り除いた事で帝国がどのように動くのかがわからないという話をしていまして……。
「そこで俺達は…ファティエラに居るマリエラ勢力と手を組む事にした」
ザインブルグ帝国もよくある中央集権的な構造をしていますし、中央の騎士団は一地方都市とは違うようで……このままではひとたまりもなくやられてしまうので中立化している教会勢力と手を組み戦う手筈を整えたいのだそうです。
「それ…は、将軍はマリエラ教徒を前線に立たせるおつもりですか?」
たぶんその事を伝える為に呼び出したのだと思いますが、ファティエラの戦力が乏しい事を知っているアンジェリカは難色を示しておりまして……ヴォッサム将軍は「違う違う」と軽く手を振って否定してみせました。
「どこも懐事情が良くないのはわかっているからな、無理やり協力させたら反発を招きかねん…前線に立つメンバーは志願兵を募って鍛えるつもりだ…が、専門職はそういう訳にもいかないからな、派遣してもらいたいのは治癒魔法が使える連中だ」
との事で、この度の戦いでヴァーナル側にも死傷者が多数出ておりまして……私達が作ったポーションにも限りがありますし、帝国が攻めてくる前に後方兵站を整えて長期持久を可能にする体制作りをしたいのだそうです。
「教会から離れている私が言うのも憚られるので協力についの発言は控えさせてもらいますが…そもそもの話なのですが、協力した程度で帝国と戦えるのですか?」
ヴァーナルがベルザに居座っている事で何かしらの利益を提供できるのなら多少の譲歩を引き出せるのかもしれませんが、マリエラ教の神殿騎士団がヴァーナルに合流したとしても後方支援要員が充実するくらいですし……帝都に駐在している主力がやって来たら鎧袖一触で蹴散らされてしまうような負け戦にマリエラ教を巻き込んで良いのかがわからないとアンジェリカは言葉を濁しました。
「難しいだろうな、だから俺達は…亜人連合にも話を通そうと思っている」
なんてヴォッサム将軍が言うとアンジェリカが驚いていたのですが……。
「可能なのですか?彼らはかなり早い段階で帝国を見限り独立してしまったと聞いていますが」
因みにアンジェリカが驚いていた亜人連合というのはエルフやドワーフとかいう亜人……とかいうとやや偏見的な蔑称になってしまうのですが、とにかくそういう人達の集まりなのだそうです。
「先帝の時代に離れていってからは事実上の絶縁状態だからな、懸念はもっともだが…協力して事に当たらねば順繰りに共倒れだ」
ヴォッサム将軍が言うにはエルフ達は薬学や魔法に精通している熟練の弓使い達であり、ドワーフ達は鍛冶精練に長けた屈強な戦士達なので合流してくれたら心強い味方になってくれるのだそうです。
「その様子では…交渉が上手くいっていないようですが?」
ヴォッサム将軍の口ぶりから上手くいっているように思えなかったアンジェリカが窺うように訊いていたのですが、何とも言えない表情を浮かべた将軍が腕を組んでしまいまして……連合の人達は魔境ともいえる不帰の森に拠点を置いて余所者を拒絶しているようで、将軍達が送り出している使者が悉く音信不通になっているので向こう側の事情がよくわからないのだそうです。
「場所が場所で帝国の圧力が強まっている時期だからな、巡回に見つかっているのか受け入れを拒否されているのかもわからず…何とかしたいと思っているのだが、これ以上送り出せる余剰人員がいなくて困っているのだ」
みたいな事を言いながらチラリチラリと私達を見て来ているのですが、つまり多少の障害なら蹴散らす事が出来る員数外の人材が居ればいいようで……そのあからさまな無言の催促にアンジェリカが溜め息を吐いていたのですが、まったくもって仕方がありませんわ。
「では…私達が使者となって連合に向かえばよろしいのね?」
私が胸を張りながらバーンん言い張りますと、最初からこうなる事がわかっていたアンジェリカは苦笑いを浮かべながら肩を落としていまして……。
「おお、厄介ごとを押し付けてしまったようで心苦しいが…そう言ってくれると助かる!ここに親書を用意しているのでこれをドワーフの里長とエルフの女王に渡してくれ!」
との事で、ヴォッサム将軍はさっそく2通の親書を取り出しまして……こんな物を事前に準備していたという事は私達が引き受けるものだと決めつけていたという事なのですが、困っている人を助けるのも聖勇者の務めというものですわ!
「わかりました、こうして引き受けたからには大船に乗った気持ちでご安心くださいませですわ!」
なんて調子の良い事を言いながらヴォッサム将軍からの親書を受け取ってしまったのですが、マリエラ様からの使命にも行き詰まりを感じていたところですし……警戒感が増している帝都に乗り込むのは難しそうなので帝国に抗う協力者を増やしながら潜入の機会を窺う事にしました。
※ノルニス達が言っていた異世界ジョークについてなのですが、魔法とかそういう技術に頼らず呪いみたいな曖昧なものに縋ろうとするのが一種のジョークになっています。猫達でいうと「科学的根拠に基づかずに呪術的な解決方法を試してみよう!」みたいな事を真顔で言い出したくらいのシュールさがある感じです。
※ちょっとした補足なのですが、エルフの女王がいる連合の事を「彼ら」といっているのはアンジェリカとヴォッサム将軍がドワーフ側(里長が率いている勢力)に縁とか親近感があるからです。
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