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20:地下通路とルブルス・ドゥークーですわ

(庁舎の中に礼拝室が…こちらの世界ではこういう物が当たり前にあるというのが驚きですわ)

 それだけ宗教というものが身近にあるのかもしれませんが、ドゥークーさんが逃げ込んだとされている隠し通路はマリエラ様の彫像が置かれている庁舎内の立派な礼拝室の中にありまして……敬虔なマリエラ教信者という訳でも無い(わたくし)でも何となく厳かで神聖な場所であるような気がしてしまうのですが、そんな場所に逃げ出す為の通路を作るのは罰当たりと言われても仕方がない事なのかもしれません。


「駄目だな、他の連中も絞り上げてみたんだが…ドゥークーの野郎がその穴の中に入って行ったのは確定だ、それはいい、ようやく追い詰めたっていう事なんだが…奴の性格を考えると罠の十や二十は覚悟しないといけないっていうのが問題だ」

 とにかくそのような場所の一角、床下収納に偽装された通路には誰かが通っていったような足跡が残っておりまして……複数の情報源からドゥークーさんが逃げ込んだという証言が集まって来ていたのですが、隠されている通路の大きさは人が並んで進むのが精一杯といった大きさですし、そんな場所に罠を仕掛けられていたら逃げ道が無いので大変な事になってしまうのかもしれません。


「では…私が確認してきます、安全が確認出来たら呼びますので…皆は予定通り庁舎の制圧を進めてください」

 なので最も防御力が高くて盾剣(ランプデトネイター)を持っているアンジェリカが突入すると言い出したのですが、ゲオルグさん達もそれしかないと言った様子で頷き合っておりまして……。


「わかった、俺もついて行きたいが…このくそったれな穴が庭に続いているだけという可能性も捨てきれないからな、周囲の調査や諸々の後始末は任せてくれ」

 との事で、ゲオルグさんはスピードタイプの戦い方をするので閉鎖空間は苦手なのかもしれませんし、突入グループのリーダーとしての役割(制圧任務)もあるので突入する事ができないのだそうです。


「です…が、アンジェリカ1人では心配ですわ、私なら多少の不意打ちくらいならへっちゃらですし、魔物が出て来てもちょちょいのちょいでやっつけてあげますわ!」

 だからといって1人で突入させる訳にはいかないと私が名乗り出ると、皆が「どんくさそうだけど大丈夫か?」みたいな顔つきになってしまったのですが、意見を変える気がないという事がわかると「仕方がないな~」みたいな溜め息を吐いて許可を出してくれる事になりました。


「止めても無駄…か、だが…捕らえるとなったら人手がいるし何かあった時の連絡役が必要になってくる…ジャン達を連れて行け、若いが機転の利く奴だ、雑用くらいには使える」


「え、あっ、俺ですか?は、はいっ!よろしくお願いします!」

 そうして助っ人要員として若手のリーダー格であるジャンさんを含む3名のヴァーナルメンバーを寄越してくれる事になりまして、トータル5名の通路突入グループの出来上がりですわ。


「何をのぼせあがっているのかはわからないが…2人は将軍と同じ上級持ちだからな、足を引っ引っ張るなよ?」


「なっ、そんな事は!?は、はい…頑張ります!」

 なんて精一杯の虚勢をはるジャンさんなのですが、その視線は私の胸とか色々な所に向いている事が丸わかりですし……同年代の男子という事で仕方がないのかもしれませんが、自信満々に胸を張っているとアンジェリカが露骨な咳払いで話を戻してきました。


「コホン、でも…良いのですか?もし相手が攻めて来たら…」

 私とアンジェリカが秘密の通路に突入するという事は帝国軍が庁舎を取り戻しにやって来た時はゲオルグさん達だけで守り抜かなくてはいけなくて……改造オーガや強めの魔物がやって来たら苦戦は必至なのですが、その辺りは「上手くやるさ」という事なのだそうです。


「守るだけなら俺達だけでも十分だ、いざとなったら脱出して将軍と合流する事も出来る…それよりどんな悪辣な罠が仕掛けられているのかがわからないからな、偉そうな事を言うんだ、取り逃がすなよ?」


「そちらこそ…健闘を祈ります」

 この戦いは悪代官を成敗しなければ終わりませんし……ゲオルグさんが言っていた通り私達がさっさと終わらせたら何もかもが上手くいくという奴なのかもしれません。


「わかりました、それでは…ドゥークーさんをとっちめに行きますわよ!」

 なのでこんな所でまごまごしている暇はないと握りこぶしを突き上げるのですが、皆さんの視線が聖氣が溢れてキラキラと虹色に光輝いている私の翼に向いておりまして……。


「わかりました…が、その…アリシア?」


「わかっていますわ!ただちょっと…その、仕舞うのには時間がかかると言いますか…明かりか何かかと思ってくださいませ!」

 張り切った分だけ恥ずかしくなってしまうのですが、一度翼を出すと聖氣を調整するのにも時間がかかりまして……こんな所で搾り出す訳にもいかないので目立つのは百も承知で突っ込むしかありませんわ!


「そう、ですか…では…ジャンさん達は少し距離を置いて…私達だけなら不意打ちでも対処できますので」


「わ、わかりました…お恥ずかしい話ではありますが、お…お願いします」

 との事で、アンジェリカの次に私、少し距離を置いてからジャンさん達がついて来る事になりました。


(そうと決まったらですわ…って、ぐっ…っとうに、何の臭いですの?)

 通路に入った辺りで奇妙な生臭さに眉を顰めてしまったのですが、何か赤紫色っぽい煙が薄っすらと充満しておりまして……ゆっくりと深呼吸をするように息を吸うと鳥肌が立って汗が滲むのですが、空気が悪すぎて落ち着きませんわ。


「軽度の媚毒のようですね…皆さん、あまり吸い込み過ぎないように…この先に毒を発生させている魔物が潜んでいると思います」


「媚…!?」

 なんていうアンジェリカの忠告に対してついつい大声を出しかけてしまったのですが、咄嗟にアンジェリカが口を塞いでくれまして……。


「声が響きますので…ドゥークーが居たらバレてしまいます」

 アンジェリカの注意にコクコクと頷いておいたのですが、媚毒が充満していると言われたら余計に身体がムズムズとしてしまうといいますか、エッチな気分になってきてしまうのですが……アンジェリカは大丈夫なのでしょうか?


「瘴気と同じですよ、この程度の濃度なら平静を保っていれば問題はありません…ただ吸い過ぎも身体に悪いので呼吸を浅くしておいてください、ジャン達は大丈夫ですか?無理そうなら引き返しておいた方が」


「い、いえ…だ、大丈夫です…俺達も媚毒訓練は受けていますし、ほら…気付け薬も…こういう魔物は不帰(かえらず)の森や辺境領に多いと聞いていたのですが…こんな所にもいるのですね」

 私の視線に気づいたアンジェリカがシレっとそんな事を言っていたのですが、神躯の防護がないジャンさん達は股間を押さえながら丸薬を噛んでいて……彼らは私達だけを突入させる訳にはいかないという使命感だけで頑張ってくれているのですが、安全な場所で待っていてもらった方がいいのかもしれません。


「代官がよからぬ目的で運び込んだのだと思いますが…とにかく先を急ぎましょう、説明は道すがらしますので」

 媚毒と聞いておっかなビックリになってしまった私に対して媚毒の説明をしてくれる事になったのですが、媚毒にも色々な種類があるようで……魔物が獲物を捕らえる時に使う麻痺毒だったり瘴気が変質して欲望を増幅させる物になっていたりと碌でも無い効果になる物を媚毒と呼んでいるだけなのだそうです。


「帝国軍ではこの手の魔物を扱わないので忘れていましたが…触ったらかぶれる植物程度の認識でよいかと」

 なんて物凄く軽く言われてしまったのですが、即死しないタイプの毒を媚毒と言っている場合も多いようで……毛の部分に掻痒感を与える成分が混じっていたり触れたらピリピリする粘液を持つ魔物が居たりと私が知らなかった(被弾しなかった)だけでその手の魔物とは遭遇していたりするのだそうです。


「そう…でしたの」

 久しぶりに感じる異世界間ギャップ(こちらの世界の常識)にモゴモゴとしてしまったのですが、どうやら帝国軍ではその手の魔物は自滅する恐れが高いので扱っていなかったようで……。


「例外的に媚毒持ちを使ってくる場合もありますし、方針を変えてきた…という可能性もありますので、次からは説明していく事にしますね」

 との事で、そんな説明を受けながらアンジェリカの後を追って地下通路を進んでいると壁の感じが変わって来まして……地肌を覆っているのは植物の根っこ、でしょうか?通路を埋め尽くすような勢いで生い茂っている根っこが赤紫色に点滅しているのがとても不気味なのですが……なんて首を竦ませながらインペール(聖銀製の細剣)を握りしめておりますと、先頭を歩くアンジェリカが立ち止まって皆に停止の合図を送ってきました。


「どう…しました?」

 なので恐る恐るといった様子で覗き込むのですが、少し進んだ先が数百メートル単位の広場になっておりまして……地下にこれだけの空間が広がっている事に奇妙な違和感を覚えてしまうのですが、よくよく見てみるとに一本の不気味な植物が天井を支えている事に気が付きました。


(何でしょう、あの植物を見ていると気分が…何か途轍もなく不気味な物のように思えてしまうのですが)

 それは葉っぱのついていない肉感的な樹皮を持つ巨大な大木だったのですが、伸びた枝や根っこが地面や天井に広がりこの辺り一帯を支えているようで……天井や壁からは人の頭くらいの薄気味悪く光る果実のような物が垂れ下がっていたのですが、その果実が時折奇妙なガスを噴き出しているようでした。


「媚毒を発しているのはあの植物のようですね…見てください、あそこ」

 そうしてアンジェリカが指差す先には改造オーガと奇妙に太った人……人、なのでしょうか?一瞬人型の魔物かと思ってしまうような潰れた饅頭がモゾモゾと動いていたのですが、私が目を瞬かせている間に距離を詰めて来たジャンさん達が憎き敵を見つけたという形相で前に出ようとしており……。


「ドゥークー…!」


「待ってください、いきなり飛び出してはどのような罠があるか…それに、何か…やっているようです」

 流石に護衛の改造オーガも居るのでアンジェリカが止めていたのですが、私達が息をひそめるように窺っていますと、ドゥークーさんが生い茂っている奇妙な果実を集めて荷台の上の放り込んでいるようで……果実をもぎ取る毎にプシューと媚毒が漏れていますし、怪しげな果実を集めて碌でも無い事をしようとしているという事は確定しているのかもしれません。


「ふひぃー…しかしなぜワシがこんな…それもこれもあの堅物が裏切ったりしなければ…ぶえっへっへっ」

 とかなんとか言いながら脂ぎった潰れたお饅頭がぼやいているのですが、不摂生が祟っているのか肌の状態がとても悪いですし、太りすぎている影響なのか「ぶえっへっひっひっ」とかよくわからない音を発しているのですが、もしかして呼吸をしているだけなのでしょうか?


 とにかく贅肉が多すぎるせいで一動作ごとにいちいち休憩を入れているような有様ですし、着ている物はゴチャゴチャとした装飾がついているのでジャラジャラとうるさいですし、ザインブルグ帝国の人達のデフォルトなのかローブのような服装の下は裸だったり横から見たら両脇に入っているスリットから粗末なモノがチラチラと見えたりしているのが最悪ですわ。


(これ以上見ていても仕方がありませんし、さっさと捕まえませんと)

 そんな事を考えながらアンジェリカの方を向くと軽く頷き返されて……魔物がいるのでジャンさん達を前に出す事は出来ないのですが、彼らにはドゥークーさんを見つけたという事を報告してもらう事にしまして……私とアンジェリカの2人で制圧してしまう事にしましょう。


「BUMO…?」

 なんて動き始めますと、不穏な気配を嗅ぎつけたのか護衛をしていた改造オーガが鼻を引くつかせながら辺りをキョロキョロとし始めてしまい……。


「どうした?まさか…反乱軍か!?」

 そうして臆病なドゥークーさんが果実を投げ捨て逃げるそぶりをみせておりまして……これ以上あれやこれやと考えている暇はありませんでした。


(こうなったら…先手必勝ですわ!)

 アンジェリカは罠の有無や逃亡を気にして回り込むような動きをみせているのですが、そんな事をしている間に逃げられてしまう可能性もあるわけで……兵士の反乱を恐れているのかドゥークーさんの護衛は改造オーガが3体だけですし、私だけでもやってやれない数ではありません。


「くらいなさい!ジャッジメント・ディザスター!!さあ…チェックメイトですわ!」

 なので翼を使って距離を詰め、聖句を唱えながら護衛として引き連れていた改造オーガを吹き飛ばすと聖氣の渦に煽られたドゥークーさんが「ぶぅへぃうわあああああ!!?」と驚きゴロンと腰を抜かしてしまいまして、私はその首筋にインペールを突きつけて差し上げました。

※サクッと制圧しましたが……。

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