2:襲撃ですわ!
帝国の圧政に魔物の被害と異世界に召喚された私の運命はいかに!といった感じなのですが、小さなお爺ちゃん神官長であるターナー神官長が「最近物騒ですので」と薄いピンク色のポニーテールの……所謂パッツンとか姫カットとか言われている髪型をしている可愛らしい女の子に合図を送ると、彼女は銀細工の細剣と謎の結晶体とレースの束を持って来ました。
(妙に雰囲気のある女性ですが、持って来たのは武器と白色の水晶…じゃ、ないですわね、鉱石?でしょうか?)
この女の子も際どい恰好をしていたのですが、私がまじまじと見ていると微笑もうとして失敗したような笑みを返されてしまい……実はかなり緊張をしているのかもしれません。
「ホーン神官長、マリエラ様より賜った神躯をお持ち致しました」
女性は真面目くさった声で告げながら繊細な銀細工が施された細剣と手のひらサイズの淡く七色に光っている白色の結晶体と仄かに光り輝くレースの束?という神々しい品々をターナー神官長に差し出すのですが……神躯というのはいったい何の事なのでしょう?
「うむ、これこそ聖勇者様の為に聖母神マリエラ様が授けてくださ…たッ!?と、何事じゃ!?」
そうして荷物を受け取ったターナー神官長が説明をおこなおうとした瞬間、遠くの方からドーン!という大きな音が聞こえて来て……この世のモノとは思えない「GYUIIIAAA!!」という雄叫びと共に建物が揺れてパラパラと石材の欠片が降ってきました。
「大変です、帝国の奴らが襲撃を仕掛けてきました!!突然現れた魔物の群れが東門に殺到し…このままでは破られるは時間の問題だと思われます!?」
そうしてガシャンガシャンと入って来た真っ白い全身鎧を着た騎士が風雲急を告げるのですが、状況について行けていない私は目をパチクリとさせてしまい、キョロリと辺りを見回してしまいました。
「何故このタイミングで…?まさか召喚時の聖氣に反応したとでもいうのか?だとすると奴らの狙いは…聖勇者様か!?いかん、すぐに反撃の準備を!」
「ターナー神官長!使徒様との大切なお話の途中なのですが…」
「わかった、アンジェリカも無理はしないように…民間人の避難と誘導を優先するのじゃ!」
「心得ております!そこの…ヴァンか?準備を手伝ってくれ!」
「はっ、お任せください!」
そうしてアンジェリカと呼ばれたピンク色の女の子が報告の為にやって来ていた騎士に声をかけながら出て行くのですが、オリンピック選手も真っ青という人間離れの速度で駆け出して行くので異世界の人達は筋力強化やら何かしらの魔法が使えるのかもしれません。
(なんて感心している場合ではありませんわ!)
こういう時こそ冷静にならなければいけないのですが、断続的に聞こえて来る大音響と悲鳴に私の心臓がバクバクとしてしまい……軽く深呼吸をしてからこの場の最高責任者であるターナー神官長に訊ねてみる事にしました。
「あの…私はどうすれば?」
この世界を救って差し上げるとは言ったのですが、降ってわいたような荒事には及び腰になってしまい……そのような私の怯えを察したのか、ターナー神官長は少しだけ考えるようなそぶりを見せた後に穏やかな笑みを浮かべられました。
「聖勇者様は…アリシア様と申しましたか?あまり戦いが得意ではないご様子…そのような方に神躯を纏いて戦場に立ってくだされと言うのも酷な事なのじゃろう、ここは我らに任せて秘密の通路を使って安全な場所に避難してくだされ…なに、遅かれ早かれと準備をしておりましたので…そういう訳だ、皆も持ち場につくのじゃ!」
「「「はっ!」」」
ターナー神官長の言葉に異世界転移を見届ける為に参列していた人達が手を合わせてからそれぞれの持ち場に散って行くのですが、どう考えてもこちら側が不利な様子で……いくら人間離れしたアンジェリカさんや騎士の方達が居るといっても魔物の軍勢が相手では分が悪いのでしょう。
私には決死の思いでそれぞれの持ち場に就いて行く人達を見守る事しか出来ないのですが、何か手伝える事がないのでしょうか?
「そっ、それじゃあ…せめて武器だけでもお持ちください!」
聖勇者の為に作られた武器なら一級品の切れ味を誇る物だと思いますし、せめて細剣だけでもターナー神官長達に使っていただこうと思ったのですが……。
「我らの都合で異世界よりお越しいただいたアリシア様には感謝しかございません…です、が…諸々の準備をしていたのはマリエラ教徒としての使命でございます。そしてそれらの装備はアリシア様の為に作られた物ですので…それに…万が一の場合は御身を守るための物が必要となって来るのでしょう…なので気兼ねなく持って行ってくださるのが我らの本望というものでございます」
笑顔で装備品を押し付けられてしまったのですが「それじゃあお言葉に甘えさせてもらいますわ!」なんて口が裂けても言えるような空気ではありませんでした。
「勝てるの…ですか?」
「行って、くだされ…アリシア様が逃げ出すくらいの時間は稼ぎますので」
笑顔のままはぐらかそうとしているターナー神官長が訣別の言葉を紡ぐのですが、ここまで言われて逃げ出す訳にはいきませんわ!
「わかりました、では…」
だから、私も覚悟を決めました。
「ご理解いただけたようで何よりです…案内の者をつけますので、アリシア様は避難して来ている人達と共に…」
「脱出を」なんて言いかけているターナー神官長なのですが、ここで彼らを見捨てたのなら一生分の後悔しか残りませんし、華麗なるアリシア・W・神楽坂の人生において無視する事のできない汚点となりうるので腹を括りますわ!
「私も戦います!だから教えてください、私は何をすればいいのです!?」
「なっ!?いくら聖勇者様とはいえぶっつけ本番で神躯を使うのは危険じゃ…そもそもどのような力を秘めているのかもわからぬというのに!?」
「女は度胸、やってやれない事はないですわ!それで、カムイ…?というのを使えば良いのです?」
なんたって私は女神マリエラに呼び出された聖勇者とやらのようですし、召喚時の輝きは消えていますが何かしらのチート能力があるのでしょう。
それくらいしかポジティブな要素がないのですが、ここでターナー神官長達を見捨てて逃げるより授けられたチート能力に賭ける方が何百万倍もマシというものですわ!
「ああ…感謝いたします、このような強きお方を我々の元へ…これもマリエラ様のお導きかと…しかしそうなると時間が惜しいですな、早速神躯の使い方を説明いたしましょう」
感極まったように涙を流すターナー神官長なのですが、今は感激している場合では無いと手短な説明をしてくれる事になって……何でも神躯というのはその名の通り神々の一部であり、適合する神躯を宿すと物凄いパワーを発揮する事が出来るようになるシロモノなのだそうです。
「なにぶん神域に入っている事柄故、人間である我らにはあずかり知らぬ事も多いのですが…」
なんて言われている不思議な物体なのですが、多くの場合は結晶体という形で存在しており……具体的な強さは神躯の特性や力を授ける存在の強さよって変わってくるのですが、神躯を宿した者は一騎当千どころか一騎当万の力を得る事が出来るのだそうです。
(それだけ聞けばただの便利アイテムなのですが…そうは問屋が卸さないようですわね)
過ぎたる力は身を亡ぼすという格言があるように、場合によっては使用者に牙を剥く諸刃の刃となる場合もあるようで……つまり神躯というのは正と負の面を持つアーティファクトであり、呪いのアイテムに変化する可能性を秘めているという認識を持っておいた方が良いのかもしれません
なのでターナー神官長としては圧倒的な力を宿す事で生じるデメリットや振るえる力の種類を見極めてから使うべきだと考えているようなのですが、こんなの状況だと悠長に試している時間もないのでぶっつけ本番でいくしかないですわね。
(纏めると、物凄く強くなる代わりに何かしらのデメリット効果がつく可能性のあるパワーアップアイテム…と、いった感じなのかしら?)
勿論私の為に用意された神躯というのは神託と共に授かった正真正銘女神の力の一端なので悪いモノではないのですが、その力が未知数すぎてよくわからないのだそうです。
最悪の場合は全く戦闘に使えない能力を宿したまま戦場に向かう事になったり強すぎる力を宿して私の体の方が耐えきれないという可能性もあるようで……そうなったらそうなった時なのですが、色々と覚悟を決めておいた方が良いのかもしれません。
とにかく神躯とは奇妙奇天烈なモノなのですが、多くは魔物由来や神獣経由のモノであり……何かしらの強い生き物を倒して力を奪う事もあるのだそうです。
(変則的なレベルアップ…と、いう感じなのかしら?)
強くなる代わりに魔物達の憎しみを取り込む事もあるようで、使用者に苦痛を与える神躯の多くは魔物由来のモノが多いのだそうです。
そして入手経路が色々なので上級・中級・下級という区分わけがなされているのですが、神躯自体が成長する事もあるのでピンからキリまですぎてよくわかっていないのが実情で……因みに数万人規模の神殿騎士団を抱えるマリエラ教の中で神躯を宿しているのは数十人程度で、その多くが魔物由来の下級のモノなのだそうです。
上級となるとつい先ほど飛び出して行ったアンジェリカさんが纏うモノが唯一で……そういう事情もあって、彼女はターナー神官長直下の独立聖騎士という特別な役職についているのだそうです。
(だからマリエラ様の神躯を任されておりましたのね)
話を聞いているとガチで神様から賜った貴重品だったのですが、最も信頼する最強の女騎士に守らせていたという事なのでしょう。
(これで私が使えなかったらお笑いですが…たぶん、大丈夫ですわね)
なんとなくイケるような気がしていますし、ここまでお膳立てされていて使えないという事はないと思います。
「それじゃあさっそく…と、言いたいのですが…武器はともかく、これは…?」
ターナー神官長から受け取った細剣と神躯は良いのですが、クッションか何かかと思っていたレースの塊は折りたたまれた衣装だったようで……。
(下着…でしょうか?何かしらの宗教上の服装という可能性もあるのですが…まるで踊り子が着ているような露出度過多の服装ですわね)
流石にこれを人前で着るというのはごめん被りたいのですが、今から重ね着をするのは時間の無駄ですし……あちらこちらから響き渡る悲鳴が大きくなっているので着替えている時間がなかったという事にさせてもらいましょう。
「それは世界樹の葉を食べさせた天蚕だけが作り出す特別なシルクだけで作られた聖勇者様用の特注品でし…ってぇえええ!?」
「流石に着替えている余裕がありませんし、サンダルだけ借りておきますわ!」
下着のような衣装を着るのが恥ずかしかったのでポイっと横に置いておくとターナー神官長が悲痛な叫び声を上げていたのですが、いくら自分のスタイルに自信があるといってもこのようなハレンチな下着を着込んで人前に出て行くのは勇気がいりますわ!
なのでターナー神官長の言葉を遮って話を進めようとするのですが、自宅に戻ってから転移されて来たので靴を履いていなくて……付属品としてついて来ていたサンダルだけは使わせてもらう事にしましょう。
(あら、ピッタリですのね)
どういう原理なのかはわかりませんが、足首で固定するタイプの編みサンダルを身に着けると吸い付くように固定されてしまい……まるでサンダルが生きているような感じなのですが、これもマジックアイテムか何かなのかもしれません。
(そしてこれが、ド本命の神躯なのですが…)
最後の仕上げと七色の光を放っている結晶を持ち上げてみると、待ちかねていたというような光を発しながら胸の真ん中の辺りに吸い込まれていき……体の内側から途轍もないパワーが溢れて来たかと思うと私の着ている制服とか色々な物が弾け飛びました!
※服が弾け飛ぶ合理的かつ論理的な理由があったりするのですが、続きが気になる方はブクマークや☆を入れてくださると猫が小躍りいたします。




