14:脱出と『繋ぐ鎖』ですわ
反乱軍改めヴァーナルの人達と共にベルザを脱出する事になったのですが、まともに立ち上がる事すら出来ない人達を連れながらなのでどうするのでしょうと首を傾げておりますと、向かったのは何かしらの地下通路のような場所で……妙に黴臭いのですが、ここはいったい何なのでしょう?
「水路…ですか?」
「ああ、本当なら背丈くらいの水嵩があるんで通れないんだが…ちょいと用水路に細工をしてな、連中が不用心で助かったぜ…とか話している場合じゃないな、一応仲間が出口を見張ってはいるが…足元に注意して進んでくれ」
なんて見張りをしていた人達の案内で黴臭くて干上がった用水路を通って抜け出す事になりましたし、外に広がる原っぱに出ると新鮮な空気が美味しくて……。
(こんな場所がありましたのね)
こういう通路があるのなら壁を乗り越える必要がなかったのかもしれませんが、私達が見つけていたらヴァーナルの人達が作戦を変えていた可能性もありますし……そう考えると見つけなくて良かったと考えておく事にしましょう。
なんて事を考えながら辺りを見回しておりますと、辺りに居るのは300人くらいでしょうか?誰が反乱軍で誰が助け出された人なのかまでは薄暗くてよくわからなかったのですが、とにかく集合場所だという場所にはそれなりの人数が集まっておりまして……きっとゲオルグさん以外の別動隊がいたのでしょう。
(これだけ潜んでいたのに…帝国のサボリ癖が酷すぎますわ)
呆れ半分同情半分で息を吐くのですが、脳裏に浮かぶのは死体がゴロゴロと転がっている凄惨な光景で……今はそんな事を考えている場合では無いと首を振りました。
「ん、おお…元気な奴もいるんだな…運が良いな、あいつらに捕まったら碌でも無い事をされるんだが…どうした、気分が悪いのか?向こうで温かいスープを用意しているから、落ち着いたら貰いに行くといい」
「ええ、私なら大丈夫ですので…お気遣いなく」
「はは、そういう強がりが言えるのなら大丈夫だ」
怪我の具合や助け出せた人達の様子を確認していた男性には妙な関心のされ方をされてしまったのですが、まだまだ頑張れない訳でもありませんし……なんて事を考えておりましたら、私達と一緒に脱出して来たゲオルグさんが肩を竦めていました。
「気にするな、こいつらは別口というか…勇気のある馬鹿共だ、捕まっていた連中とは違う…それに喜ぶのも早い、助け出した連中の中には廃人一歩手前の奴もいるしルブルスの野郎が囲っている連中も居る、早くしないと魔物の餌か炭鉱行きだ…帝都に送られると今の俺達では手が出せん」
そして身も蓋も無い紹介のされ方をされてしまったのですが、愛すべき馬鹿共みたいな言い方はいくらなんでも失礼ですわ。
「おいおい、相変わらずだな…その、捕まっている連中には悪いが…そういう連中はヴァルドの旦那が率いている主力部隊が何とかするしかないだろうな…と、いっても…事前にこれだけ助け出せたのは朗報だ、少しくらい喜んだらどうなんだ?俺達を追いかける為に兵力を分散してくれたらめっけものだ、良い方向に向かっているってな」
ゲオルグさん達がそんな話しをしていたのですが、アンジェリカにコッソリ教えて貰った所感としてはベルザにいる帝国軍を分散させなければいけない程度の兵力では帝都からの増援がやって来たらひとたまりもないようで……ヴァーナルの人達も苦労している事が今の会話で察せられてしまいました。
「喜べる状況でもないんだが、しかし…その辺りの話にも関係して来ているんだが、あんた達には助けた誼で頼みたい事がある」
口ぶりからしてそこそこの地位に居ると思われるゲオルグさんが話を振って来たのですが、私達に対してどのようなお願いをしたいというのでしょう?なんて疑問を口にする前に……。
「申し訳ありません、私達はマリエラ教の巡礼者でして…たまたまベルザに滞在している途中であのような出来事に…助け出していただいた事には感謝をしておりますが、私達は私達の目的がありますのでお力にはなれないかと」
アンジェリカが打ち合わせ通りの口上を述べながらゲオルグさんの提案を断っていたのですが、たぶん「マリエラ様の真意を探るための旅をしているので反乱軍に協力している余裕はない」といったところなのでしょう。
(助けてくれたのは事実ですし、すげなく袖にするというのも仁義にもとる気がいたしますが…?)
なんてオロオロとしておりますと、ゲオルグさんが薄く笑いながら核心を突く言葉を発しました。
「巡礼者…ね、竜滅の騎士が何の冗談だ?」
その言葉に周囲の人達がザワつきましたし、アンジェリカも警戒レベルを上げて目深に被ったフードの奥から剣呑な眼差しを向けるのですが……こんなところで喧嘩腰になるのはノーBADですわ!
「お待ちになってください、ここで私達が喧嘩をしても喜ぶのは帝国の人達だけですわ!皆さんいったん落ち着いて…!」
アンジェリカの知名度を舐めていたのですが、こういうのは見る人が見たらわかってしまうのかもしれません。
「そう、ですね…申し訳ありません」
しかもあっさりと引いてくれたアンジェリカは良いとして、その様子を見ていたゲオルグさんが余計に不審がってしまい……。
「今更だが…あんたは何者だ?竜滅の騎士と共に居るから身の回りの世話をする従者か高位の神官か何かかと思っていたんだが、違うのか?」
なんて私が口を挟んでしまったせいでゲオルグさんの興味が飛び火して来たのですが、一体全体どのように説明したらよいのでしょう?
(どどどうしましょう、ここで馬鹿正直に聖勇者だと名乗っても良いのかしら?)
みっともないところを見られた後なので実は聖勇者ですと名乗りづらいのですが、アンジェリカは相変わらず私にお任せのスタンスですし、周りの人達も固唾を飲み込み私の返事を待っているようで……。
「その、私は…聖勇者をさせていただいている者ですわ!」
ターナー神官長やマリエラ教の皆さんが私の事を聖勇者だと言って送り出してくれましたし、そんな方達の為にもここで背中を丸める訳にはいかないと胸を張り……私が聖勇者だと名乗るとあちらこちらから「はっ」とか「まじかよ」みたいな拍子抜けとか半笑い的な反応がチラホラと返って来たのですが、これはこれで馬鹿にされているようで顔が熱くなってしまいますわ!
「お前が?にわかには信じられないが…自分が聖勇者だと証明できるようなものでもあるのか?」
いきなり夢物語みたいな事を言い出しやがったといった感じでやや馬鹿にしている人が多い中、ゲオルグさんが単純に信じられないといった様子で問い詰めてくるのですが……ここが使いどころだと身分証明書代わりに持たせてくれたアミュレットを見せつける事にしました。
「ありません、が…これを見てください」
「これは…マリエラ教の?」
「ええ、私達は女神マリエラの神託を元に動いておりますの」
どのような考えがあって私を呼んだのかはわかっていないのですが「何故そんな奴がベルザに?」とか聞かれる前にそれっぽい理由を自信満々に言い切る事にして……もしかしたら純白の翼を出していた方が説得力があったのかもしれませんが、神躯の力で羽が生えているだけのペテン師と思われてもなんなので胸を張るくらいで済ませておきましょう。
なんて自信満々にアミュレットを取り出したのですが、ヴァーナルの皆さんは名前の通り戦神ラヴィンゼンを信仰しているのかピンと来ていない様子で、ゲオルグさんも知識としては知っているみたいな反応をしながら困り切っていました。
「本物…の、ようだな」
「本物って…おい、どうする?マリエラ教の聖勇者っていうと…それに神託って?」
「どうすると言われても、俺達の手には余る…が、人手が欲しいというのも変わらん」
それでもアミュレットが本物だという事は認めてくれたようで、仲間内でヒソヒソと内緒話をしていたのですが……少ししてからこちらに向き直りました。
「あんた達が何かしらの目的があって旅をしているっていうのはわかった…が、わかったからこそヴァルド将軍に会って欲しい、聖勇者の事や神託の事も将軍が良いようにしてくださる筈だ…勿論多少の寄り道になってしまうのかもしれないが、ベルザで何かしようっていうんだったら将軍の助力を得ていた方が良いと思う…どうだ?」
なんていう将軍に丸投げ案を提案されてしまったのですが、たしかに反乱軍と帝国軍がバチバチの抗争をしているご近所で調べ物をするというのも難しいのかもしれませんし、円滑に進める為にも将軍とやらに話を通していた方が良いのかもしれません。
アンジェリカの方を見ても「話をするだけなら」みたいな顔で頷いておりますし、ここは提案を受け入れておく事にしますわ。
「わかりました、協力出来るかどうかは確約できませんが…お話だけなら」
「助かる、案内はこちらが出そう…すぐに発てるか?」
こうして私達はヴァーナルの本拠地に向かう事になったのですが、捕まっていた人達をすぐさま動かすのも難しいようで……居残り組はこのまま近くの拠点に移動する事になったのですが、ゲオルグさんが言うにはベルザの町を見張る為の簡易砦があるのだそうです。
「どれだけ持ち直すかは本人の気力しだいだが…その後はマチマチだ」
との事で、本人が希望する場合は反乱軍に入ってもらう事もあるし、そのまま隠れ住む事を選択する事もあるのだそうです。
(だからなのでしょうか、意外と女性比率が多いのですよね)
ヴァーナルの男女比率は6:4くらいとやや男性が多いくらいで……実働部隊になると7:3くらいになるらしいのですが、それでも女性比率が多いような気がいたします。
まあこちらの世界には魔法という便利なものがありますし、女性でも戦える事が関係しているのかもしれませんが……とにかくそういう反乱軍の内情を聞いたりマリエラ教のあれやこれを話し合ったりしながら丸1日以上歩く事になったのですが、ちょっとそこまでみたいなノリで日を跨ぐのが異世界あるある過ぎて辛いですわ!
「もしかしたらと思っていましたが、ヴァーナルの拠点というのは…」
定期的に襲ってくる魔物達を蹴散らしながら歩いていたのですが、途中で目的地を察したアンジェリカが周囲の地形を確認しておりまして……。
「気づいたようだな、まあ…あんたには所縁のある土地だからな、勝手に使わせてもらっている」
案内役を買って出てくれたゲオルグさんが薄く笑っていたのですが、どうやら反乱軍の拠点というのが火竜の塒だった死火山にあるようで……というのもドラゴンが生活していた場所なので頑丈な遺跡が残っていますし、火竜の気配が残っているのか魔物の数が少なくアジトにするにはもってこいだったのだそうです。
勿論誰もが知っているような場所なのでそれ相応のリスクがあったのですが、人数的にも一から拠点を作っている余裕が無かったという事情もあって……とにかくそんな事を話している内に反乱軍の本拠地があるフレイスト死火山が近づいてきましたし、その麓に広がる遺跡群が見えてきました。




