11:帝国軍の動向と蹂躙の跡地ですわ
聖勇者を称える声援と共に送り出された私達の前には瑞々しい原っぱとその向こう側に聳え立つ山々が広がっていたのですが、まずはファティエラ郊外に駐屯している帝国軍の動向を探ろうという事になりまして……いくらターナー神官長達が大丈夫と言っていたとしても心配なものは心配ですし、本格的な調査を始める前に帝国軍の様子を確かめておかないと心置きなく旅立つ事が出来ませんわ。
(とはいえ、本当に動きがありませんのね)
逆襲を警戒しているのか最初に布陣していた場所からかなり離れた位置で野営をおこなっていますし、魔物達は散り散りで騎士の数も半数以下と惨憺たるありさまで……今すぐ帰りたいというお通夜ムードが漂っている人達が心機一転して攻めて来るという可能性は低いのかもしれません。
(あえて気になるとすれば…あの方達でしょうか?)
そんな中でも異彩を放っているのが真っ黒な全身甲冑を着ている騎士達なのですが、そんな人達が四方を見張るように突っ立っており……ピクリとも動かず見張りを続けているのが不気味といえば不気味なのですが、アレはいったいなんなのでしょう?
「アンジェリカさん、少々よろしいですか…あの方達は?」
気になってしまったので声を潜めながら訊いてみると、同じように草葉の陰に隠れているアンジェリカさんが私の指差す方向を見てから……小さく頷きました。
「あれは…黒騎士ですね、厄介な相手ですが…数も少ないですし、残っている連中でも対処は可能かと」
との事で、アンジェリカさんが言うには所謂リビングアーマーとかゾンビ騎士とか呼ばれている連中で、鋼鉄の体や闇魔法を使ってくる相手ではあるのですが、ファティエラに残っている聖騎士達でも対処は可能なので心配する必要がないのだそうです。
というより黒騎士の運用方法としては動く肉盾として使うか数を揃えて人数差で押し潰すというものであり、あの程度の数では見張りに立たせておくのが精一杯で……。
「強大な帝国といえども多方面に兵を出し過ぎましたね、黒騎士で数を誤魔化してはいますがあの数で進軍は…とにかく内情を知る事はできましたし、発見される前にこの場を離れる事にしましょう」
「ええ、わかりましたわ…っと、そういえばなのですが…アンジェリカさんって本当に女性でしたのね」
何となくアンジェリカさんを眺めた時に気になってしまったといいますか、股間にぶら下がっている凶悪なモノが無くなっている事に違和感を覚えてしまったのですが……帝国軍の近くで神躯を全開にしようものなら私達の事がバレてしまうかもしれないという事で力をセーブしておりますし、そういう状態だとチ〇コが生えて来ないのかもしれません。
「いつも生やしている訳では!っと、申し訳…」
少々デリカシーに欠ける……私の思い立ったが吉日精神が溢れ出してしまいましたし、大声を出しかけてしまったアンジェリカさんが慌てて自分の口を塞いでいたのですが、どうしてもそそり立っているアンジェリカさんのチ〇ポの事が脳裏から消えてくれなくて困ってしまいますわ!
「それは…すみません、どうしても生えている時の姿が焼き付いておりましたので…ええっと、それで…次はどこに向かうのですか?」
やや気まずくなりながら話を逸らしてみたのですが、私達はノアさんという刺客を差し向けられた事や帝国軍の再侵攻を警戒して出て来ただけで……このままフラフラと彷徨い歩くのもどうかと思いますし、目的地くらいは決めておいた方が良いのかもしれません。
「そういうのは忘れてくださると…いえ…そう、ですね…多少危険ではあるのですが、情報収集をする為にもベルザに向かおうと思っていましたが…アリシア様は何か調べたい事や気になる事はありますか?」
アンジェリカさんも危険な話題を続けるつもりがないのか話題の方向転換について来てくれたのですが、気になる事と言われましてもあまりこちらの世界の事を知りませんし……。
「そうですわね、私は…ノルニス、でしたっけ?大人しかった火竜がいきなり暴れ出したというのが引っかかっておりますが…その、ベルザっていうのは何ですの?」
「ああ、すみません…ベルザというのはこの辺り一帯を支配下に置いている行政都市の名前でして…言われてみれば確かに不自然さがありますね…死骸は一通り調べ終わった後に処分してしまいましたが、塒にしていた死火山をもう一度調べてみるのも悪くないのかもしれません」
なんて原因の究明まではいかなかったようで……周囲にそれっぽい遺跡があるので調査をしなおしてみるのも悪くないのかもしれませんとの事でした。
「アリシア様なら常人では気づけない真実を見つけ出せるかもしれませんし…と、急に暴れ出したと言われて思い出したのですが、少しだけ気になる噂が…」
みたいな流れで話してくれたのですが、ザインブルグ帝国のトップはミレーヌ・ド・ザインブルグという女性で、帝位につくまでは気が強いものの腐りきった皇室の中で唯一まともな人物と評される傑物だったのだそうです。
そんな人物が親族もろとも暴虐非道な皇帝陛下や腐った上層部を一掃した上で帝位についた時はこれで暮らしぶりが少しはマシになるだろうと言われていたのですが、数年もすれば非道な先帝と同じように力こそすべてといった圧政を敷くようになり……期待した分だけ落胆が酷かったという事なのかそれとも彼女の手腕が優れていたのかはわかりませんが、締め付けが厳しくなって暮らしぶりが悪化したのだそうです。
「それは…確かに気になる話ですわね」
そういうゴタゴタがあった頃のアンジェリカさんは神躯を受け継ぐ前だったので「聞いた話ですが」という前置きがつきましたし博愛主義のマリエラ教と高圧的なザインブルグ帝国ではそりが合わないのであまり詳しい話が伝わって来ていないのですが、善政を期待されていたのに変節してしまった女帝の事や温厚で理知的だった火竜が急に暴れ出してしまった事が全く無関係の出来事とも言いづらくて、何かしらの大いなる意思が介在している可能性も0ではないのかもしれません。
「死火山に向かう場合はベルザを通りますし、帝国の内情を探りつつノルニスの根城を調べなおしてみるのも悪くないかもしれません…勿論無理をしない範囲で、ですが」
帝国軍に見つかり全面抗争となったらいくら上級神躯持ちといっても不利は免れませんし、命大事で動くのは前提となるのですが……兵を集めているかどうかを探るだけでも有益な情報となりますし、その辺りは臨機応変に動く事にしましょう。
「ですわね、それじゃあ目的地が決まった事ですし…こんな所からさっさとおさらばしてベルザとやらに向かいますわよ!」
こうして当面の行動方針が決まり駐屯している帝国軍を迂回して進む事になったのですが、ベルザまでは徒歩で3日から4日程度の距離となり……神躯を全開にして駆け抜けるとかでなければ日を跨ぐ事となりますし、まずは近場の野営地を見つけようという事になりました。
「アリシア様!そちらに1体!」
「わかって…おりますわ!」
「WoooOOOxx!!」
そうして日が暮れる前に板葺き屋根が並ぶごくごく小さな村に到着したのですが、帝国軍に蹴散らされたのかそれとも帝国軍がやってくる前に離散したのかうろついているのは腐臭を漂わせた腐った死体だけでした。
(肉の腐った臭いというより、この重苦しい悪臭はなんですの!?)
後で聞いてみたら瘴気とか闇の魔力的な物らしいのですが、そんなものを嗅ぎ続けていると頭がおかしくなりそうですわ!
「塵は塵に、灰は灰にですわ!」
もう少し人の形が残っていたら戦うのを躊躇したのかもしれませんが、ここまで形が崩れていたら覚悟も決まるというもので……むしろ悪臭が酷すぎる事や死者を冒とくしている事に対しての怒りを込めてインペールを振るい、蠢くだけの死者達を葬っていきました。
「気負わず振れていますし…この短時間で上達しましたね」
「そりゃあ…いくらなんでもこれだけ戦い続けていたら慣れてきますわ」
ここに来るまでに襲って来たゴブリンやウルフという魔物達、中にはオークとかオーガとかの大物も混じっていたのですが、その辺りの強敵はアンジェリカさんが一掃してくれまして……ようやく村が見えて来たという状況でゾンビの群れに出迎えられたら戦いの素人でも奮戦してしまうというものですわ。
(これだけ魔物が溢れておりますと…出生率を上げないとどうしようもないというのも納得ですわ)
そんなどうでも良い感想を抱いてしまうような旅路だったのですが、襲撃が多すぎるのは帝国軍が引き連れて来た魔物達が離散した事も関係しているようで、平時だともう少しだけ数が少ないのだそうです。
「多少はマシというくらいなのでわ?」
「ええ、まあ…その為の騎士ですので」
戦う術のない人達からしたら厳しい世界だという事に変わりがなくて、その事を指摘したらアンジェリカさんが苦笑いを浮かべていたのですが……。
「防壁が心許ないのですが、付けかえれば最低限の守りにはなるかと…あちらに比較的状態の整っている家屋がありましたし、今日はその家を使わせてもらう事にしましょう」
との事で、村を覆っていた瘴気っぽい何かを聖氣の力で払ったり死者の埋葬をしたりしてから簡易なバリケードを作る事になったのですが、こういう地道な土木作業にも神躯パワーがいかんなく発揮される事になるのですよね。
「手伝いますわ」
そういう作業を眺めているだけというのも心苦しいで手伝いを申し出ると、一瞬の間を開けてからアンジェリカさんが頷きました。
「お願いします…火葬と墓穴の準備は私がおこないますので、アリシア様は彼らがマリエラ様の元に逝ける事を祈ってあげてください」
「わかりました…作法は私の世界のものでもよろしくて?」
アンジェリカさんは「聖勇者様に雑用をさせるのは」みたいな事を考えていたみたいなのですが、2人旅で気を遣いすぎるのもどうかと思い直したようで……とにかく埋葬を終えた私達は引っぺがして植えなおした柵と柵を括って組み合わせたりしながら補強をしておくのですが、その辺りに落ちていたロープが千切れやすくて上手くいきませんわ。
「程々で良いですよ、足止めが出来たらその間に脱出する事が出来ますので」
私の完璧主義者的なところが出てしまってアンジェリカさんに笑われてしまったのですが、日が完全に沈む前に一通りの作業を終える事になりまして……。
「はぁ~動き続けて疲れましたわ~」
神躯パワーで無尽蔵に近い体力があるといっても連戦に次ぐ連戦で精神的に疲れてしまいましたし、柵で囲まれた家の中で荷物を下ろすと程よい安心感に浸ってしまい……胸元を広げてパタパタと空気を送り込んだり絨毯の上にゴロリと寝転んだりと少々はしたない振る舞いをしてしまいました。
「お疲れ様です、どうやらこの建物は村長の家のようで…お風呂もありましたし、夕食の準備をしている間に汗を流しておきますか?」
「あら、良いですわね…流石に汗をかきましたし、お言葉に甘えさせてもらい…って、なんでこんなタイミングでギンギンになっておりますの!?」
連戦に次ぐ連戦とその後の力仕事で神躯が活性化したのかアンジェリカさんの股間が大きくなっているようで……。
「申し訳、ありません…それで、その…」
なんてアンジェリカさんが子犬のような潤んだ瞳で見つめ返して来るのですが、流石にこんな所でおっぱじめるなんていうのは危険がピンチですし……何て冷静な思考が残ってはいたのですが、冷静だからこそ私が断ったら神躯を治めるためにアンジェリカさんが1人で頑張らなければいけない事に気が付いてしまいました。
(ぐっ、それ、は…大変だと思いますが、だからといって…ですわ)
それはそれで不憫かもしれませんし、私も気持ちが良かった訳で……というのは良いといたしまして、さっさとスッキリしてもらった方がトータルでは早く済むような気がいたしますし、あの時の感触を思い出すとドキドキしたりモニャモニャとしてしまい……こうなったら腹を括って貸しにしておきますわ!
「わかりました、わかりましたからそんな目で…サクッと抜いて明日に備えますわよ!」
顔が熱くなりすぎてアンジェリカさんの顔を直視できないのですが、如何にもしかたがないな~というそぶりで頷くとアンジェリカさんの笑顔が華やいで……結局10回以上も出されてしまいましたし、容赦が無さ過ぎで引いてしまいましたわ!
※今更の話ではあるのですが、帝国と敵対しているマリエラ教が国教と定められているのは二百数十年前の帝国成立時に国教として定められているからで、それが覆されていないのは信者の数が膨大すぎるからという理由と実益があるからです。
※年代的に女帝関連の話をターナー神官長に聞いてみたら?となるのですが、ターナー神官長は生粋のマリエラ教徒ではなく愛に目覚めた途中参加組で、先帝の時代に漠然とした不安を感じて調査を始めようとしたタイミングで前神官長が殺されてしまい、その後を継ぐ形で神官長に就任しているので詳しい内情を知りえる立場に居ませんでしたし知る事が出来ませんでした。就任後は帝国とマリエラ教の仲が決定的に悪くなった後なので女帝の事もよくわからず……なんていう話を書いても「結局よくわかりませんでした」という内容にしかなりませんし、アリシアは「とりあえず現地に行って調べてみますわ!」と息巻いていましたし、ターナー神官長まわりの事情を薄々知っているアンジェリカさんは聞いても無駄っぽいという事がわかっていたので「聞いてみますか?」という提案をおこないませんでした。




