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10:急な旅立ちですわ!

 襲撃の後始末の為にバタバタとしておりましたし、神躯を身に宿していると免疫力も強化されるのでよほどの事が無ければ風邪を引いたりはしないのですが、流石に裸で居続けるという訳にもいかず……。


(ずっと翼を出していたからなのか、仕舞ったら仕舞ったらで落ち着きませんわ)

 なんて持て余していた時間で神躯の制御方法を教わっていましたし、こんな物でも無いよりはマシだという事で乳暖簾にパンツ丸出しのウェディングドレス風の衣装を着る事になったのですが……これはこれで浮遊感が無くなり違和感がとんでもないですわ。


「申し訳ありません…熱かったですか?」

 何て事を考えながら髪先を弄っておりますと、生乾きの髪の毛を乾かしてくれている肩や腋や生足が露出しているホルターネックのローブ姿なんていうマリエラ教の平均的な服装をしているアンジェリカさんが申し訳なさそうな顔をしながら顔色を窺ってくるのですが……至近距離に存在する可愛らしい顔とつい先ほどの出来事に対してドキドキとしてしまい、私はすまし顔を作りながら少しとぼけて誤魔化しておきました。


「いえ、魔法って便利だなーなんて考えておりましたの…私も使えたら良かったのですが」

 アンジェリカさんが使っているのは火と風の複合魔法でしょうか?水属性も含まれているのか適度な潤いも残っていたりと……(わたくし)のチート能力は聖氣の成形だけで応用が利きませんし、流石マリエラ教の切り札であるアンジェリカさんだと褒め称えたいくらいですわ。


「言われてみれば、アリシア様は聖氣しか使っておられませんでしたね…何かしらの縛り(女神の試練)か、元居た世界では聖氣に近い力を使われておられたのですか?」

 なんて事を考えていたのですが、アンジェリカさん達からするとこれだけ膨大な聖氣や神躯を使いこなせているのに魔法が使えない事が信じられないようで……ごく普通の感覚で特殊能力談議を振られてしまったのですが、私の世界だと魔法自体が夢物語だったりするのですよね。


「ご期待に沿えなくて申し訳ないのですが、私の世界だと魔法の代わりに科学という技術が発展しておりまして…髪を乾かす魔法ですと、ドライヤーという道具が代用していたっていう感じですわ」


「そう、でしたか…こちらにも魔道具(まどうぐ)という物がありますが、そういう物でしょうか?」


「あら、そういう便利な物がありますのね…ええ、たぶんそういう物ですわ」

 異世界のあるある話と言えば魔道具ですし、時間がある時に色々と見せてもらうのも良いのかもしれません。


「よろしければ幾つか…と、いいたいのですが、アリシア様の場合は魔法を覚えられた方が…火と水の魔法なら聖騎士になる時に教わる基礎の基礎ですし、アリシア様の技量でしたらすぐに覚えられるかと」

 世知辛い……と言っていいのかはわかりませんが、私の場合は戦う事を想定しておかなければいけないので道具に頼るより魔法を習っておいた方が良いだろうという事なのだと思います。


「そう、ですわね…おいおい教えて貰う事にしますわ」

 なんて異世界話に花を咲かせていると、周囲の安全確認を終えたターナー神官長達が戻って来まして……。


「お待たせいたしました、侵入経路に結界を張っておきましたのでこのような失態は二度と犯さない事をお約束いたします…のんびりしていただこうと人払いをしていたのが裏目に出てしまい…申し訳ありませんですじゃ」


「そんな!立ち上がってください!復興支援の方が忙しかった訳ですし、アンジェリカさんが撃退してくれたのでお気になさらず…が、その…聖勇者の事が帝国にバレてしまいました…の、よね?」

 土下座のように平伏すターナー神官長を何とか立ち上がらせてからどうしたものでしょう?という意味を込めて聞いてみたのですが、おでこが少しだけ赤くなっている神官長が「ううむ」と自慢のお髭を扱きながら考え込んでしまい……少ししてから絞り出すように言葉を紡ぎました。


「その事なのですが、アリシア様には早急に旅立ってもらう必要があるかと…勿論お1人で…となると、いかに聖勇者様と言えども無謀でございます、案内役としてアンジェリカをお付けいたしますので、早急に準備を進めたいと思います」

 なんて事を言い出してしまったのですが、帝国軍は責任の押し付け合いで混乱しておりますし、この機を逃すと旅立つタイミングが難しくなってしまい……ノアさんのような刺客や魔物を送り込まれ続けると敗北は必至ですし、時間をかけすぎて帝国軍が再編されてしまったら旅立つタイミングを失ってしまう可能性があるのだそうです。


「それは…急なお話ですが、その…2人きりで、ですの?」

 郊外に陣取る帝国軍が責任の所在を有耶無耶にするために反転攻勢を仕掛けて来るという可能性もあったのですが、雑兵と位置付けられている魔物達の多くがマリエラ教の聖騎士達に倒されておりますし、皆の意見を纏めあげて強攻に移れるような人物もいないので撤退ムードが漂っているので多分大丈夫でしょうとの事で……。


「はいですじゃ、出来ればこちらの世界に順応してからと考えておりましたが…旅立ちに必要な道具を集めておりますので、少々お待ちください」


「はいですじゃ…って!?」

 ゲームや物語の主人公達もこういう無茶ぶりに応えていたのかもしれませんが、万単位で押し寄せて来る魔物の群れや帝国軍を相手取りながらの2人旅というのは流石に無謀すぎますわ!


「驚かれるのも無理はありません…ですがこのタイミングを逃したら何時頃出発できるかは…それに2人旅だからこそ安全に進めるというもの…大人数でゾロゾロと連れ歩くなど目立ってしまってしょうがありませんし、それこそ自殺しに行くも同然ですじゃ!」

 なんて力説をされてしまったのですが、ターナー神官長が言うには神躯使用者と不使用者の戦力差が大きすぎて……要するにただの聖騎士ではこの戦いにはついていけないという事なのかもしれませんが、肉盾とか雑用にしか使えない連中を連れて行くより実力や人望が確かなアンジェリカさんをつけてあげようという親切心なのだと思います。


「その、事情は分かりましたし旅立つのは良いのですが、アンジェリカさんまで送り出すというのは…大丈夫ですの?」

 (聖勇者)が旅立つのは遅かれ早かれだとしても、マリエラ教の最大戦力でもあるアンジェリカさんまで送り出してしまっても大丈夫なのでしょうか?


「問題ありません…と、言いたいのじゃが」

 苦悶の表情を浮かべるターナー神官長が言うには軍勢を用意するにしてもそれなりの日数が必要となりますし、切り札(5つ首のヒュドラ)が倒されているのでそう簡単に攻めてはこないだろうという事なのですが、何事にも不測の事態というのはありまして……。


「最悪の場合はファティエラ(神殿都市)の放棄も視野に入れており…信仰はどこにいても捧げる事ができますので」

 覚悟がガン決まっているターナー神官長以下色々な人達が一斉に頷き、その圧力に押されて仰け反ってしまったのですが……腐っても国教と定められているマリエラ教ですし、協力者には事欠かないのでその辺りの心配はしなくて大丈夫なのだそうです。


「アンジェリカも…よいな?」


「我が命に代えましても…アリシア様を守る事を誓います」

 なんてアンジェリカさん達は盛り上がっているのですが、命を賭けられる方になってみてください!


「待ってください、案内をしてくれるのは嬉しいのですが、皆さん命大事に…ですわ!死んでしまったら元も子もありませんのよ!?」


「わかっております、アリシア様を残して無様に死ぬような事はありませんので…ご安心ください」

 私が諫めると「わかっております」みたいにアンジェリカさん達が微笑むのですが、なにかこうモヤモヤとしてしまって……よくわからないけど気に食いませんわ!


 とにかく急転直下な出来事に面を食らっていたのですが、帝国軍がワチャワチャとしている間に出発しようと急ぎ準備を整えられる事となり、ターナー神官長が旅立ちの用意をしてくれる事になったのですが……。


「流石にその格好(聖衣)ですと私は聖勇者ですと喧伝しているようなもの、まずは着替えとなる法衣とマントをご用意いたしました」

 とか言いながらアンジェリカさんが着ている湯あみ着を豪華にしたような法衣を持って来られたので何とも言えない気持ちになってしまい……マシな衣装があるのなら最初からそちらを渡して欲しかったですわ!とか言い出したくなってしまったのですが、うっかり翼を出してしまったら破れる程度の強度しかありませんし、定期的に洗ったりほつれを繕ったりする必要があるので大事に使って欲しいのだそうです。


「それでこちらのアミュレットなのですが…」

 なんてムカムカしながら着替え直しておりますと、ターナー神官長は四角い金属板が付いたアミュレットを差し出してきました。


「それは?」

 微かに感じる光は魔力とかマナとかいわれているモノなのですが、よくよく見てみると金属板にビッシリとした文字が書き込まれておりまして……いったいこれが何だというのでしょう?


「これは身分証明書とか通行証とか…とにかくマリエラ教徒なら何があっても協力をするようにというお触れみたいなものですじゃ…とはいえそのようなアミュレットを持っているという事はご自身が重要人物だと喧伝しているようなもの、見せる相手にはご注意を」

 なんて脅されてしまったのですが、ザインブルグ帝国に居るマリエラ教徒の割合は7割程度で……帝国の要職を占める人か軍関係者でなければ協力を取り付ける事が出来ると思いますみたいな感じなのだそうです。


「次にこれなのですが…偽装用のリュックでございます、中身は食料や雑貨類なので必要に応じて売り払ってくれても構いませんので」

 次に持って来られたのが雑多な荷物を詰めたリュックだったのですが、これは荷物を持っていないと不自然だからという一種のカモフラージュで……嵩張る荷物や必要な物品に関してはアンジェリカさんの収納魔法で持ち運ぶ事になるので不要なら捨ててくださいとの事でした。


(魔法って、本当に便利ですのね)

 そういう荷物のやり取りを見ながら私も属性魔法や収納魔法を覚えようと心の中で誓う事となり……。


「私共にできるのはこうした旅立ちの準備をお手伝いするだけで…後の事はお任せいたしました」

 「出来ればついて行きたいのじゃが」なんていう空気を漂わせているターナー神官長達が頭を下げるのですが、アンジェリカさんだけではなくターナー神官長までついて来てしまったらそれこそファティエラが立ちゆかなくなってしまいますし、マリエラ教の信者達も大変な事になってしまい……断腸の思いで私達を送り出そうという熱意が伝わってきました。


「そのお気持ちだけ頂いておきますわ、それに…とにかくアリシア・W(ホワイト)・神楽坂が全部まるっと解決いたしますので、皆様は首を長くして朗報をお待ちくださいませ!」

 私を異世界から呼び出したというマリエラ様の真意だったり圧政に苦しむザインブルグ帝国の実情だったりと気になり過ぎる事が多いですし、右も左もわからない事だらけなので不安ではないと言えば嘘になるのですが、皆さんの想いに応える為にも弱気を蹴飛ばし胸を張り……真実を探る為の旅が始まる事になりました。

※ザインブルグ帝国の国教になっているので主神は愛と豊穣の女神であるマリエラ様なのですが、商工業関連に携わる人の中には創造神セイファートを信じる人が居ますし、軍関係者の中には戦神ラヴィンゼンを信じている人がいます。比率としては7:1:2くらいの割合で、弱小ながら数々の小神や精霊(自然)信仰をしている人達もいます。


※そしてここまでが旅立ちに至る序章という位置づけで、次章からは3日ごとの隔日更新(20時台)になる予定……だったのですが、ある程度のストックが切れるまでは2日更新でいきたいと思います。☆やいいねを押していただけると猫の励みになりますので、さっさと続きを書くのだ!と言う人は高評価や感想などをお願い致します。

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