表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/40

11.起動エラー(1)

すい~

ももを乗せた黒鳥が、遠ざかって行った。


あれ、もう終わっちゃったのかな?

あかつきは、乗っている白鳥に尋ねてみた。

「ねえ、こっちも、だいたい終わった?」


「うーむ、あと少しってとこだな」

本当は、まだ、かなり残っている。

「けっこう落としたが、わりと外したからな」

全く躊躇ちゅうちょしないで、ガンガン撃ちまくるスタイルだ。命中率は低い。


「そっかあ。あはは」

気にする暁ではない。笑っている。

「そうだなあ、ははは」

マッチョ・スワンズ1号も、思わず野太い笑い声を立てた。


オーロラが気に入る筈だ。

この子には、華がある。

大らかな気性に根を張り、明るく咲き誇っている華だ。喩えるなら、大輪のバラである。


気難しいド・ジョーや、マダム・チュウ(プラス)(スリー)(ナイ)()も、同様だった。暁だけではなく、その仲間全員に好意を抱いている様子だ。

この子達の話を伝えてくれた際は、二人して胸を撫で下ろしていたのだ。

「また無事に帰れて、本当によかった」と。


「でも、撃墜数は大したものだ。えらいぞ、暁!」

マッチョ・スワンズのリーダーは、教官の口調で褒め称えた。


「やったあ!」

にこにこ笑う。感情も真っすぐだ。

うむ、自分も気に入った。マッチョ・スワンズにスカウトしたいくらいだ。


「ねえ、白鳥さんは、もっと速く泳げたりしないの。無理じゃなかったらでいいんだけど。速いスワンにも乗ってみたいな。だめ?」


「なんだと? まかしとけ!」

マッチョ・スワンズ1号は、いきなり、やる気になった。

「1」の首輪は、リーダーの印だ。

群れで一番速く、一番強いのだ。


「ようし。しっかり捕まっていろよ、暁!」

そして、やる気になった白鳥は、メンテナンスのことをすっかり忘れた。


暁の想定を大幅に上回る速度であった。

耳元で風が唸る。暁の服の袖が、バタバタとはためいた。

桃を乗せた4号が鈍行ならば、1号は夢の超特急である。

一体、水面下では、どれほどの脚の動きが繰り広げられているのだろう。


白い弾丸となって、白鳥は湖面を驀進ばくしんしていく。

もちろん、暁が怯えるわけがない。

大笑いする声が、湖面に響き渡った。


「あはははは! あ、よう! 楽しいよ~。一緒においでよ!」

さぼりのお誘いである。

だが、暁に、その自覚はない。


ごおおおっ

陽のスワンを折り返し地点のピンに見立てて、1号はヘアピンカーブを決めた。

このスピードで、よく曲がれたものだ。


「ふはははは! 俺は一番だ! ナンバー、ワン!」

振り返りざま、そう言い捨てる。


ボッ!

地道に働いていた白鳥3号の瞳に、炎が着火した。

ぼうぼうと、凄まじい音をたてて燃え盛る。

「なんだと! 負けないぞ。俺だって速い!」


陽を乗せたまま、スワンが吠えた。

ばさり

羽根を広げて伸び上がり、いきなり方向転換する。


慌てたのは陽だ。

落っことされそうになって、輪を掴んだ。

「え? ちょっと待って、まだ、」


「しっかり捕まってろ! 行くぜ!」

その宣告が耳に届いた瞬間。

がくりと、陽の上体が後ろに振り切れた。

凄まじい加速だ。


「うおおおおおっ! 待てぇ~!」

「ふはははははっ! まだまだぁ!」


闘うマッチョ・スワンズの雄叫びが、湖に木霊した。


「なんか……競争し始めたみたい」

桃が、小さな声で乗っている黒鳥に聞く。

「どうしよう、止めたほうがいい?」

冷静だ。


「いや、ほっといていいですよ。ああ熱くなっちゃうと、誰にも止められない」

ゆっくりと桃を乗せて泳ぎながら、黒鳥は答えた。

もうすぐ、湖をぐるりと半周するところだ。


「ほら、見えてきた。あそこが我々の巣です」

桃は、少しだけ身を乗り出した。


湖面から、何かが突き出ているのが見える。

何本も、何本も。

太い棒だ。その先っぽには、円盤状の重りが付いている。


「何、あれ?」

「バーベルですよ」


そうか。見たことがある。

西センターのトレーニングルームにも設置されていた。筋トレ用の器具だ。

棒の両端に装着した円盤の数で、重さの加減をする。


でも、大きすぎない?

林立する棒は、交差して、前衛芸術のテントみたいな空間を作り出している。


すい~

黒鳥は、その中に入って行った。


わりと広い。天井は、すかすかだ。

バーベルの巣って、居心地いいのかな。


「我々は、これを使って、日々たんれんしています。揺るぎない心を育み、保っていけるように。桃、あなたも何か鍛錬していますか?」

えーと。そんなふうに尋ねるほど、一般的なことなのだろうか。鍛錬って。


それでも、桃は素直に答えた。

「うん、空手を習ってる。でも、私、ぜんぜん強くないよ」


兄の陽は、ずば抜けて強い。

どんなに頑張ったとしても、自分は、あんな風にはなれない。


顔を伏せた桃に、マッチョ・スワンズ4号は優しい顔を向けた。

「鍛錬することによって、心が鍛えられる。それこそが目的だから、関係ないですよ」

黒鳥がウインクした。


桃は、びっくりした。

できるんだ。ばっちり決まっている。


「人より力が付く。難しい技ができる。速く動ける。肉体に現れる鍛錬の成果は、持って生まれた個体差が出る。それは現実です。頑張れば全てできる、というのは呪いだ。かけられた者をがんがらめにする。そんな単純にできてやしない」


だが。

諦めない強さ、とか。

人のせいにしない強さ、とか。

続けていく強さ。自分一人でも戦う強さ。

人の悪口を言わない強さ。群れない強さ。

いっぱいある。


それは、心の強さ、だ。

鍛錬することで、きっと、それは手に入れることができる。


黒鳥は、そう説くと、また優しい目をした。

「鍛錬の方法は、人それぞれだから。自分に合うものを捜せばいいんですよ」


「うん……」

そうだ。思い出した。

「あのね。私が空手教室に通い始めたのは、暁と会ったからなの」

優しい暁が大好きになって。

一緒にいたい、自分もこんなふうになりたいって思ったから。


「そんなんでも、いいのかな」

強く、なれるかな。いつか。

怯えて、できないことが、少しでもできるようになるのかな。


「いいに決まってます。大事なのは、自分自身が持っているカードで勝負する気構えだ。逃げ出さないでね」


桃も、ふわりと笑った。

なんだか、この黒鳥さんは、空手教室の先生に似ている。

名の知れたらしいが、経営手腕はさっぱりで、生徒数が振るわないのだ。


黒鳥号は、バーベルの巣を抜けた。

前方に、あおいが見えた。ピンク色のネズミが、肩の上にいる。

ド・ジョーもいた。水柱の上に立っている。


「碧!」

桃は、輪から右手を離して、振った。

うん、できた。さっきより、抵抗が無い。


「桃ちゃん、そっちは終わったの?」

聞いてくる碧に、桃は申し訳ない気持ちで答えた。

「ううん、上手くいかなくて。黒鳥さんが、リラックスできるようにって、ぐるっと廻ってくれてたの。ごめんね」


碧は怒らなかった。

桃のことは、よく分かっている。

こんな大きなスワンに乗らされて、さぞ怖かっただろう。

「じゃあ、このへんは大体終わったから、手伝うよ。暁と陽は、終わってるかな?」


広がる湖を見渡す。

遥か向こうで、猛然とレースをしている白鳥達の姿があった。


うおおお、とか、そりゃあああ、とか叫ぶ声が聞こえて来る。

暁と陽は、二人とも、荒ぶる白鳥を乗りこなしていた。

ロデオを競う、カウボーイさながらだ。


「終わって、ないだろうな……」

碧が絶望的に呟いた。

続きの(2)を、本日お昼12:10に投稿致します。

ぜひ、続きもご覧くださいね!


読んで頂いて、有難うございます。

感想を頂けたら嬉しいです。

ブックマーク・評価などして頂けたら本当に嬉しいです。とっても励みになりますので、ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ