表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/40

8.嘆きの湖(2)

「まあ、あとで案内板に聞いてみよう」

陽が、あっさり言った。暁も頷く。

「そうだね。忘れ物預かり所とか、あるかもしれないよ」

きゅうにかよ」

死んだ目でツッコむ碧だった。

忘れ物かよ。しかも、バッグまるごとだ。


「俺の連絡帳には、小学一年生からこの方、忘れ物って単語は書かれてないっていうのに……!」

「すごいよね!」

忘れ物キングの暁が、心から褒めた。

「さすが碧だよなあ」

陽も、のんびりと称える。


桃だけが、気の毒そうな顔で慰めた。

「碧、学校じゃないんだから、連絡帳には書かなくていいんだし。この場合は、しかたないと思う。気にしないで」

一番、まっとうなフォローだ。


「待たせたな。終わったぞ。ん、どうした、碧? 顔が黄昏たそがれてるぞ」

ド・ジョーの声がした。

いつの間にか、極細ミニサイズの水柱が立ち上っていた。

黄金ドジョウのステージ台である。


「ド・ジョー。ここには、案内板なんて無いよね……」

碧が、絶望的な思いで問い質した。

見渡す限り、湖だ。

鏡なんて、どこにもありゃしない。

エレベーターには、案内板があった。

だけど、たった今、行ってしまったところだ。


「いや、あるぞ」

予想外の答えが返って来た。

「え? あるんだ」


しかし、ド・ジョーの顔が、再び歪んだ。

「だけどな、さっきのを見ただろう。どうにも、すいみゃくが狂っていやがる。これじゃ、起動しねえ」


「水脈? 乗っけたエレベーターが傾いたのも、そのせいだったの?」

暁が首を傾げる。

ド・ジョーが頷いた。


「そうだ。時間が経つにつれて、どうしたって水脈も乱れてくる。だから、時々メンテナンスが必要なのさ。お前さんらには、とっとと帰って欲しいんだが、まずは案内板を直さねえと」


「あらん。この子たちに手伝ってもらえば、いいじゃない」

マダム・チュウ+999は、暁の肩から急滑降した。

小さなカバンから、何か取り出して、配り始める。

「はいは~い。じゃ、一人一本ね」


「なに、これ?」

細長いペンだ。


手渡された物の事よりも先に、碧は尋ねた。

「どうでもいいけどさ、マダム・チュウ+999。そのカバン、なに。なんで、体内ポケットに閉まっておかないわけ?」

ピンク色の、可愛いポシェットだ。

いつから、してるんだ?


「いやあねえ、碧は。分かってないんだから。おしゃれよ、お・しゃ・れ! バッグとかの小物で、差をつけるのよん」

「ふ~ん」

くるくる、渡されたペンを手の甲で回しながら、碧は生返事した。

ほんとに、どうでもいいな。


「前に、バラバラにどっかいっちまって、大騒ぎしたからな。太平洋に落っことしたつまようを捜すようなもんだった。だからカバンに入れてんだろ」

ド・ジョーは、身も蓋もない。


「黙れ、かたたまごろう

間髪入れずに、野太い声が返した。

オネエ言葉が抜けたマダム・チュウ+999は、迫力満点である。


バチバチバチ

両者の間に、火花が散った。


「固茹でって。ああ、ハードボイルドか」

なるほど。

意味が理解できた碧は、思わず吹き出した。


「ああ?」

ギロン

水柱の上に立ったドジョウが、碧に殺気を飛ばしてくる。

マダム・チュウ+999も、ご機嫌麗しくない様子だ。

これは、まずい。


「行け! 陽」

碧は、陽の腕を掴んで引き寄せると、自分のたてにした。


「え? よく分からないけど、」

いきなり引き出された陽は、戸惑いながらも口を開いた。

決してお世辞ではなく、いつだって本心から褒める男、三ツ矢陽。

対オネエネズミ最終兵器が、発動した。


「かわいいと思うなあ」

きらきらきら

笑顔がまぶしい。ただし、単なる地顔だ。


「んま~っ!」

いちころである。

マダム・チュウ+999は、目をハート型にして、飛び上がった。


「もう! 陽ったら、正直者ねえ」

一撃で、すっかりご機嫌だ。

「よし!」

陽の後ろで、碧が小さくガッツポーズをした。


「あ。これ、ボタンかな?」

一切の空気を読まずに、暁は渡されたペンをいじくっていた。

言った時には、既にボタンを押してしまっている。


バシュ!!!!

ペン先から、光線が迸った。


「きゃっ」

桃が、悲鳴を上げる。

一緒に暁の手元を覗き込んでいたのだが、止める間もなかった。


「うおっ」

ド・ジョーが、のけぞってかわした。

間一髪だ。

光線は、鋭い音と共に、水の中に消えた。


「あらあら~。人に向けて撃っちゃダメよ、暁。描いてあるでしょ」

ざまあみろ、と聞こえるのは俺だけか?

碧が、慌ててペンを確かめる。

つい、癖で、ペン回しなんてしちゃったぞ。


「ちょっと、マダム・チュウ+999。どこに書いてあるんだよ?」

「ここよ、ここ」

細いペンのじくを、ピンクネズミが指さす。


本当だ。

棒人間のイラストに、それに向かった矢印。

その下に、バツ印が描いてある。

こめつぶアート状態だ。これで分かれというか。


「本当だ。ごめんね、ド・ジョー」

それでも、暁は素直に謝った。

心から済まながっているのが伝わる。


ハードボイルドなドジョウも、暁には弱い。

「分かったよ。ああもう、とっとと始めるぞ!」

言うなり、ド・ジョーは水中に飛び込んだ。


ぴゅうっ……

ほどなく、向こうで水柱が上がった。

細い。一本だけだ。

でも、勢いよく天井を目指して吹き上がる。

位置は、ほぼ湖の中心だ。


くるくる

今度は、回り出した。

水鉄砲の銃口を、時計回りに回転させているような様子だ。

二本、三本……。どんどん増えていく。

へろへろと回る噴水になった。


地下空間の壁面は、ぐるりと湖を囲んでいる。

中心から噴き出た水は、まんべんなく壁の上部に吹き付けられた。

一斉に壁を伝って、流れ落ちていく。

洗い流しているようなあんばいだ。


辺りが、徐々に暗くなった。

怯えて擦り寄る桃に、陽が手を繋いでやって、説明する。

「見えるか? 壁に、小さな石が埋まってる。びっしりだ。それが、光ってたんだ。水が触れたせいなのかな。消えていってる」


「メンテナンスモードにしてるのよ。もうちょっと待っててね~ん」

マダム・チュウ+999が言った直後。


ぱあああっ

上から順に、石が色づいていった。

単なる明かりから、カラーの付いた光へと変わったのだ。


メインは、若々しい緑色だった。

茶色も多い。

そして、黄色味が強い石が、ばらばらと混じる。派手な赤も現れた。


ちらほら、カラーにならず、光りもしないままの小石がある。

だが、近づかない限り、判別しにくい。

ここから見えているのは、陽くらいなものだ。


やがて、壁は全て色づいた。

四人は、ただ声を失って、自分たちを取り囲む壁面を見渡した。


長大な絵画かいがが、描き出されていた。

秋を迎え、赤く色づいていく、もみの群れの。

読んで頂いて、有難うございます。

感想を頂けたら嬉しいです。

ブックマーク・評価などして頂けたら本当に嬉しいです。とっても励みになりますので、ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ